ウクライナの越境攻撃から1週間、分かっていること 奪取面積は今年のロシアに匹敵か
(CNN) ウクライナが突如ロシアへの越境攻撃を開始してから1週間。ロシアが状況を統制できていないことが次第に明らかになりつつある。
ウクライナ軍が先週末から12日にかけてロシア領への侵入を続ける中、数万人のロシア人が自宅からの避難を強いられた。
外国の軍隊がロシア領に入るのは第2次世界大戦後初めてで、クレムリン(ロシア大統領府)にとって大きな失態となる。プーチン大統領はロシアから「敵を駆逐する」と誓ったが、ロシア軍は今のところウクライナの前進を阻止できていない。
以下に分かっていることをまとめた。
何が起きたのか?
ウクライナ軍が国境の北に隣接するロシア・クルスク州に入ったとの情報が浮上したのは6日遅く。だが、ウクライナ政府がロシア国内での軍の活動を正式に認めたのは数日後だった。
今回の侵攻はウクライナの戦術転換として注目される。ウクライナ軍はこれまで、ドローン(無人機)やミサイルで定期的にロシア領内を攻撃してきた。ウクライナと連携するロシア人破壊工作員による限定的な越境攻撃もあったが、国境を越える正式な地上侵攻は先週まで実施していなかった。
12日には、ウクライナ政府は約1000平方キロのロシア領を制圧したと確認した。規模の点では、ロシアが今年これまでに奪取したウクライナ領の面積(米戦争研究所の推計によると、1175平方キロ)と同水準にある。
ただ、ロシアは2014年の紛争開始以降、ウクライナの全領土の18%に当たる10万平方キロ超を奪取しており、これに比べると見劣りする。
なぜウクライナは越境攻撃を行っているのか?
侵攻の目的は依然として謎だ。
ウクライナは複数の目標の達成を試みている可能性が高い。主導権を取り戻す、兵士の士気を上げる、ロシアの注意をそらす、プーチン氏の面目を失わせる、といった狙いとみられる。
ウクライナのゼレンスキー大統領は先週末、今回の侵攻について「侵略者に圧力」をかけるための方策だと説明した。
12日には、6月初旬以降にクルスク州から数千回の攻撃があったと述べ、ウクライナへの攻撃に使用されるロシアの陣地を破壊するのは「ごく公平」で有益だと指摘した。
「もしプーチン(大統領)が戦争を続けることにそれほど固執するなら、ロシアに和平を強いる必要がある」とも述べた。
ウクライナ政府は、ロシアによるクリミア半島併合などと同じ形でロシア領を併合する意図はないとしている。
ウクライナ外務省の報道官は13日、「ロシアと異なり、ウクライナには(敵の領土は)必要ない。ウクライナはクルスク州の奪取には関心がないが、国民の命は守る必要がある」と述べた。
ロシアは前線全体でじりじりと攻勢をかけており、ウクライナは反転攻勢の準備ではなく防御作戦に注力せざるを得ない状況だ。
ロシアの進軍はおおむね漸進的だが、最近ではウクライナ東部の戦略上重要な複数の町や道路に接近している。
プーチン氏の反応は?
猛烈だった。危機の規模が明らかになったのは12日。プーチン氏は安全保障当局や政権の幹部、国境付近の州のトップと緊迫した会議を開き、「敵を駆逐する」と誓った。
クレムリンが公開した会議の映像には、プーチン氏が部下を叱責(しっせき)する様子が映っており、侵攻の規模を説明しようとするクルスク州のスミルノフ知事代行の発言を遮る場面もあった。
スミルノフ氏はプーチン氏に対し、ウクライナ軍はロシア領内およそ11キロの地点まで入り込んでいると報告。するとプーチン氏は発言の途中で、その情報は軍から入手できると述べ、社会経済的な問題に焦点を当てるよう命じた。
プーチン氏は自らの権威や権力に挑戦を受けることに慣れていない。今回の侵攻は昨年6月に起きた民間軍事会社ワグネルの反乱に次ぎ、ここ1年あまりで2度目の大きな屈辱となった。
ロシアにとって何を意味するのか?
今回の危機の規模を軽視することはできない。ロシアが2014年にウクライナ東部で紛争を引き起こし、クリミア半島を併合してから10年以上、政権の対ウクライナ戦争はロシア国民にほとんど影響を与えていなかった。
西側の広範な対ロシア制裁で外国旅行はしづらくなり、外国製品の価格高騰や入手困難にも見舞われたものの、外国の攻撃からは安全だという感覚は多かれ少なかれ保たれていた。
この状況が変わったのは、今年に入りウクライナがドローン(無人機)やミサイルで頻繁にロシア国内奥深くへ攻撃を加えるようになってから、特にウクライナが一部の支援国から越境攻撃に供与兵器を使用する許可を得た後だ。今回の地上侵攻で安全神話の崩壊はさらに明白になった。
ロシア政府は攻撃を抑え込もうと躍起になっている。ロシア当局はベルゴロド、ブリャンスク、クルスクの3州で全面的な対テロ作戦を導入したものの、今回の侵攻を戦争行為と宣言するには至っていない。