少子化と労働者不足にあえぐ韓国、望みの綱は外国人家事労働者

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韓国が少子化対策の一環として、外国人の家事労働者の受け入れを検討している/Lee Jin-man/AP

韓国が少子化対策の一環として、外国人の家事労働者の受け入れを検討している/Lee Jin-man/AP

韓国・ソウル(CNN) 韓国の若者の間で結婚や子育てへの関心が薄れている中、当局は外国人労働者を呼び入れて、家事の負担を担ってもらうという新たな政策に乗り出した。

韓国政府は今月1日、100人の外国人の家事労働者に首都ソウルでの就労を認める試験プログラムを早ければ12月から開始すると発表した。韓国では高齢化が進み、様々な業界で労働人口の減少と人手不足に直面している中、今回の計画で外国人労働者の雇用が可能になる業界や企業の枠も拡大される。

試験プログラムでは、20~40代の共稼ぎ夫婦、1人親世帯、子どもの多い家庭など、家事手伝いを最も必要とするグループに優先的に外国人家事労働者を派遣する予定だ。韓国国務調整室は声明を発表し、「家事や子育ての負担軽減」がプログラムの目的だと述べた。

声明によれば、外国人家事労働者は24歳以上が条件で、犯罪歴や麻薬関連の逮捕歴といった経歴審査を受ける。職歴や職業に関する知識、言語能力の評価も行われる予定だ。

また外国人家事労働者は「信頼できるエージェント」を通じて韓国の家庭に派遣され、エージェントは6カ月の試用期間中にプログラムの進捗(しんちょく)状況を監視するという。

家事や子育ての負担は、以前から韓国の結婚率や出生率の低下の要因に挙がっていた。他にも生活費の高騰や、キャリアを中断したくない高学歴の女性が増えていることなどが挙げられる。

先月末に発表された政府の調査によると、19~34歳の国民の半数以上が、たとえ結婚しても子どもを作る必要性を感じないと回答した。結婚を肯定的にとらえていると回答したのはわずか36.4%にとどまり、経済的負担など同じような要因が理由に挙げられた。

だが労働人口が縮小する中、こうした傾向は韓国の人口危機をますます加速させ、経済的な悩みの種も増える一方だ。ロイタ―通信によれば、韓国は長い間、製造業や農業で慢性的な労働者不足に悩まされている。

韓国政府は労働者不足対策として、労働時間の上限を週52時間から週69時間に引き上げる案まで持ち出したが、若者の反発に遭い、撤回を余儀なくされた。

政界では以前にも、外国人家事労働者を受け入れて若い夫婦や親の負担を軽減するべきだと政府に要請する声があがっていた。ソウル市長は昨年、閣僚会議でそうした制度の導入を提案し、フェイスブックの投稿でも、韓国は「人口減少を通り越して人口絶滅の危険信号」に直面していると言い切った。

市長は香港やシンガポールなど、移民労働者や外国人家事労働者が社会経済の重要な役割を果たしているアジア中継都市を例に挙げた。

こうした都市では、「女性の経済活動参加がはっきり上昇傾向にある」と市長。「長引く出生率低下を逆転するには至っていないが、韓国と比較すると出生率の減少が鈍化している」

韓国人の家事労働者や子育てワーカーも存在するが、雇用労働部の7月の発表によれば、その数は減少傾向にあり、大多数が50歳以上と高齢化も進んでいる。

現行の法律では、長期在留ビザや配偶者ビザ、海外で出生した韓国国籍者など、外国籍労働者は特定のビザを保有していないと家事労働者や子育てワーカーとして働くことができない。新たな試験プログラムでは、こうした職業をE―9ビザ、すなわち「非専門職」の外国人労働者に拡大することを目指している。

費用は

だが、こうしたプログラムの費用は、労働者に支払われる賃金も含めて論争の的になっている。

雇用労働部によると、自宅から雇用主の家に通う家事労働者の賃金は時給1万5000ウォン(約1660円)以上。住み込みの場合は最大で月給450万ウォン(約50万円)にのぼる。多くの若い夫婦や社会人には手が出ない金額だ。

子を持つ親で構成される政府諮問グループの1人は7月31日、雇用労働部主催で行われた公開フォーラムで、「4人家族の(月額)平均収入は約504万ウォンだ。私でさえ、200万ウォンという額は非常に苦しい」と述べた。

声明によれば、政府が計画する6カ月の試験プログラムではソウル市役所や関係部署の協力で、雇用主が支払う金額は「現在の家事労働者の市場賃金より低くなる」見通しだという。

韓国政府は、時間給労働を選択できるようにして、需要がピークを迎える時間帯に家事労働者をあっせんするシステムの導入を検討していると付け加えた。

こうした賃金格差は香港でも見られている。大半はフィリピンやインドネシア出身の外国人家事労働者の最低賃金は他の職業より低く、物価の高い都市ランキングで万年上位にあがる香港で、月に最低4730香港ドル(約8万7700円)しか稼げない。

香港当局や一部の専門家によれば、外国人家事労働者は住み込みで働くことが法律で義務付けられているため、家賃を支払う必要がない。家事労働者の賃金を上げれば、家事労働者を雇えなくなる夫婦や働く親が大勢出てくるだろうと主張する。

だが活動家やコミュニティーワーカーは、制度改革が絶対に必要だと主張する。住み込みが義務付けられているために、脆弱(ぜいじゃく)な立場の移民労働者(ほぼ全員が女性)が虐待的な雇用主のもとに閉じ込められる可能性がある。勤務時間の上限も設けられていない。移民法により、大勢の家事労働者が強制送還の恐れから口をつぐみ、雇用主の元を離れるのを恐れている。

安い外国人労働者を雇用して世界有数の富裕国の維持を図るシンガポールの移民労働者制度も、やはり物議を醸している。こうした移民労働者は最低賃金も支払われずに危険で困難な仕事を任され、場合によっては過酷な気候条件で長時間の屋外労働を強いられている。家主やテナントが規制を定めているため、ショッピングモールなどエアコンの効いた大半の公共スペースに足を踏み入れることもできない。

韓国の政策に何らかの労働者保護が盛り込まれるのかは分かっていない。政府の声明には、具体的な賃金や労働時間の上限、残業制度、退職手当や週休日数についての詳細は記載されていない。

政府が主催した先の公開フォーラムでは、看板を掲げる参加者の姿が写真に収められた。看板には「家事労働を別の女性低賃金労働者に転嫁しようとする雇用労働部を非難する」と書かれていた。

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