(CNN) ロシア軍によるウクライナでの行為から、ロシア政府がジェノサイド(集団殺害)を扇動し、ウクライナ国民を破壊する意図で残虐行為を犯していると結論付けるのに十分な証拠が得られるとする報告書を、法律の専門家らがまとめた。
ウクライナでのジェノサイドの疑いについて、独立した報告書が作成されるのは初めて。主要な法学者やジェノサイドの専門家30人以上が署名したこの報告書は、ロシア国家が国連の採択したジェノサイド条約の複数の条文に違反していると非難。ウクライナには深刻かつ差し迫ったジェノサイドのリスクがあると警告する。非難を裏付ける証拠として民間人の大量殺害や強制移送、ロシアの高位当局者が発する非人間的な反ウクライナの言動を含む多数の事例を挙げている。
報告書は米国を拠点とするシンクタンクとカナダの人権団体がまとめた。27日に公開予定で、世界各国の議会や政府、国際組織にコピーが送られる。CNNには事前にコピーが独占的に共有された。
米シンクタンク、ニューラインズ・インスティテュートのアジーム・イブラヒム氏はCNNに対し、世界中からトップクラスの法律の専門家を集め、全ての証拠を検証したと説明。その結果、ロシア連邦はウクライナでのジェノサイド条約違反の責任を負っているとの結論に至ったと述べた。イブラヒム氏自身、3月にウクライナを訪れ、報告書のための証拠集めを行ったという。
同氏によれば今回の戦争は、使用される言葉や遂行の仕方といった観点からジェノサイドの性質を帯びていることが「極めて明白」で、非常に深刻なジェノサイドのリスクが間近に迫っているという。
ジェノサイド条約の締約国はロシア連邦を含む150カ国以上。どの国もあらゆる手を尽くしてジェノサイドを阻止する義務を負っており、これを怠れば条約違反に該当すると、イブラヒム氏は説明する。
報告書の中には、過去に防ぐことのできなかったジェノサイドの事例として、専門家らがボスニア・ヘルツェゴビナ紛争中の1995年に起きたスレブレニツァの虐殺を直接引き合いに出す箇所もある。
ジェノサイド条約違反の証拠の例として専門家らが強調するのは、ロシアのプーチン大統領が繰り返し声明で述べている内容だ。プーチン氏はその中でウクライナについて、独立国家として存在する権利がないとの考えを明確にしている。
このほかロシアの高位当局者らがウクライナ人を形容する際「野蛮」、「従属的」、「不潔」といった言葉を使っているとも指摘。ウクライナについて「ナチス国家」、ロシアの「存続に対する脅威」などと発言していることにも触れた。
さらにロシアがジェノサイドの実行を意図しているとも指摘。侵攻の中でロシア軍が一貫性のあるまん延した残虐行為に及んだと非難し、それらはパターン化しており、ウクライナの民間人を集団として標的にしたものだと分析する。首都キーウ(キエフ)近郊のブチャなどでの大量虐殺のほか、避難所や退避経路、医療施設への意図的な攻撃、居住エリアへの無差別爆撃、レイプ、穀物の窃盗、ロシア国内への強制移送などが該当し、すべて「ジェノサイド的な破壊のパターン」に行き着くという。
CNNは報告書が触れた残虐行為の多くについて、すでに独自で確認している。
米国のバイデン大統領は4月、ロシアのウクライナでの行為を「ジェノサイド」と認識していると述べたが、ロシア政府はこの見解に強く異を唱えている。