ANALYSIS

医療目的でない人工妊娠中絶を減らす新方針、女性から反発の声 中国

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中国では先ごろ、「医療目的以外」の人工妊娠中絶の減少を目指す政府の新たな方針が報じられた/Sheldon Cooper/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

中国では先ごろ、「医療目的以外」の人工妊娠中絶の減少を目指す政府の新たな方針が報じられた/Sheldon Cooper/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

香港(CNN) 中国では、当局が数十年にわたって課してきた厳格な産児制限により、数百万人の女性が国から違法とみなされた妊娠の中絶を余儀なくされてきた。

しかし、2015年に「一人っ子政策」が撤廃となって以来、強制的な妊娠中絶や不妊手術といった厳しい処置はあまり見られなくなった。そのため、今年9月末に「医療目的以外」の人工妊娠中絶の減少を目指す中国政府の新たな方針が報じられると、国民から激しい反発の声が上がった。

中国のソーシャルメディアには、中国政府が自分たちの体を支配・管理しようとしていると考える女性たちからの怒りのコメントが殺到した。女性たちは、中国政府が妊娠中絶に関する方針を180度転換したことについて、政府は減少の一途をたどる出生率を何とか上昇させようと躍起になっていると見ている。

中国では、数十年前から人工妊娠中絶が広く行われてきた。1979年に導入された一人っ子政策の下、年間数百万人の女性が「違法な」妊娠の中絶を余儀なくされた。また中国の伝統的な男児選好によって男女の産み分けを目的とした中絶が増加した。その場合、女児を中絶するケースが多く、その結果、男女比率の著しいゆがみが生じ、2021年に実施された国勢調査では、人口14億人の同国で男性が女性よりも約3500万人も多いことが明らかになった。

一人っ子政策の結果、急速な高齢化と労働力の縮小という問題が生じ、それらが国の経済成長を脅かしていると考え始めた中国は、過去10年間に方針を180度転換した。

中国は、急低下する出生率を引き上げるため、16年に「二人っ子政策」を開始し、さらに今年8月には「三人っ子政策」を開始した。また中国政府は、女性たちに出産を促す積極的な宣伝活動を開始し、一部の地方自治体では出産奨励金まで支給している。

しかし、今のところそうした取り組みに対する国民の反応は芳しくない。中国では、以前よりも女性の教育や就業の機会が拡大しているため、多くの女性が結婚や出産に及び腰だ。また高い生活費や、中国社会に根付いた母親に育児を押し付けるジェンダー規範なども女性が出産に消極的になる要因となっている。

また人工妊娠中絶の件数は、一人っ子政策が緩和され、男女の産み分けを目的とした妊娠中絶が刑事罰の対象となった後も高止まりしている。中国国家衛生健康委員会(NHC)のデータを引用したロイター通信の記事によると、14年から18年までに年平均970万件の人工妊娠中絶が行われたという。

こうした状況に対し、中国当局は妊娠中絶に対する懸念をより一層強く訴えており、国営メディアも、妊娠中絶は「極めて有害」であり、未婚女性は「深刻な精神疾患」を発症する恐れがあると警告している。18年には、江西省が妊娠14週目以降の医療目的以外の妊娠中絶を禁止し、その後、他のいくつかの省でも同様の規則が制定された。

女性問題に関する著作を持つ作家レタ・ホン・フィンチャー氏は「中国における人口計画の歴史は(中略)非常に虐待的かつ強制的だった」と指摘。「中央政府が(妊娠中絶に関する方針を)180度転換し、今や、中国は医療目的以外の妊娠中絶を減らす必要があると主張していることについて大変憂慮すべき理由は決して少なくないだろう」と述べた。

しかし一部の専門家は、中国政府が妊娠中絶を減らす意思を表明したのは今回が初めてではなく、今回の方針転換の影響を懸念するのは時期尚早と指摘する。実際、11年に発表された前回の女性の発展のための10年計画でも、性教育の改善や避妊具を入手しやすくすることにより、妊娠中絶率や望まない妊娠の割合の減少を目指していた。

フェミニストの学者で活動家のフェン・ユアン氏は「これは新しい政策ではない」とし、「今のところ、(中国政府が妊娠中絶を減らす方針を)より厳格に実行に移すという根拠は見当たらない」と付け加えた。

またユアン氏は、健康と安全上の懸念から妊娠14週目以降の中絶を制限している国は中国以外にもいくつか存在すると指摘する。今回の中国政府の方針転換が議論を巻き起こしているのは、「女性たちがこの問題に注目する理由が変わったからであり、女性たちは自分の体を管理する権利が制限されるのではないかと懸念している」と付け加えた。

ホン・フィンチャー氏は、恐らく中国政府はこの問題に慎重に対処するだろうと予想する。妊娠中絶は繊細かつ論争の多い話題で、特に女性たちの間で自分たちの権利や体に関する意識が高まる中でこの問題の扱いを誤れば国民の反発を招きかねないことを中国当局は認識している。

しかし、中国政府が女性の出産を強く促す宣伝活動を活発化させ、ここ数年、国内でフェミニスト運動を厳しく取り締まっている現状を考えると、妊娠中絶に関する政府の方針転換は、中国の女性たちにとって明るい兆しとは言えないかもしれない。

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