Beauty

トランスヒューマニズム:サイボークやバイオハックが再定義する美しさ

David Vintiner

バイオテクノロジーの進歩にともない、われわれが考える「人間であることの意味」も進歩しているのかもしれない。

現在は、身体にマイクロチップを埋め込んだり、高度な義肢を装着したり、全く新しい感覚をデザインするなど、以前は想像もできなかった方法で自分の体を変えられる。

技術を使って身体を強化することにより自分の生態の向上を目指す「トランスヒューマニスト」と呼ばれる人々は、人間の自然な状態はこの世界での体験を妨げており、人間は科学の力によって現在の能力を超越できると考えている。

ニール・ハービソンさんは全色覚異常だが、頭がい骨にアンテナを埋め込み、色を音として認識している/David Vintiner
ニール・ハービソンさんは全色覚異常だが、頭がい骨にアンテナを埋め込み、色を音として認識している/David Vintiner

ある人にとっては「技術的に先進性がある」アイデアも、別の人にとっては「論議を呼ぶ」アイデアだ。しかし、写真家デビッド・ヴィンティナー氏の見方は全く異なる。ヴィンティナー氏はそれらを「美しい」と考える。

「美しさは人工的に作られた製品の中に宿る」とヴィンティナー氏は言う。ヴィンティナー氏は長年、実在のサイボーグやボディーモディファイア(身体改造用機器)の写真を撮り続けており、それらを写真集「I Want to Believe――An Exploration of Transhumanism」にまとめた。

ロブ・ペンスさんは無線式のビデオカメラを右目に埋め込み「アイボーグ」と称している/David Vintiner
ロブ・ペンスさんは無線式のビデオカメラを右目に埋め込み「アイボーグ」と称している/David Vintiner

アートディレクターで評論家のジェム・フレッチャー氏と協力して制作されたこの写真集が取り上げているのは、大気圧の変化を感じる人工耳を持つ男性、世界で発生する地震を「感知」できる女性、研究所で作られる人工臓器を開発した技術者など、自分はある程度「超人間的」と認めている人々だ。

人間としての体験の再定義

ヴィンティナー氏の「被写体」の1人であるジェームズ・ヤング氏(29)は、2012年に事故で手足を失い、バイオニクス(生体工学)に頼ることになった。ヤング氏は、手足を失う以前から常にバイオテクノロジー(生物工学)に興味を持ち、特にサイエンスフィクション(SF)の美学に引かれた。自分の体がどのように「再構築」されるか、あるいはその体が最新技術の助けを借りて高度なタスクをいかに実行するのかを思い描くことが、ヤング氏の回復プロセスの一部となった。

しかし、ヤング氏が医師らから選択肢として提示されたのは、肌色のスリーブで覆った標準的なスチール製人工義肢という、「胸躍る」とは程遠いものだった。

日本のゲーム大手コナミは、義肢デザイナーのソフィー・デ・オリベイラ・バラタ氏と協力して、ヤング氏のための義肢を設計した。その結果完成したのは、ヤング氏が22歳の時に好きだったビデオゲームの1つであるコナミの「メタルギアソリッド」から部分的にヒントを得たグレーの炭素繊維製の美しい義手と義足だった。

ジェームズ・ヤングさんの義肢は細かな筋肉の動きを検出するセンサーによってコントロールされる/David Vintiner
ジェームズ・ヤングさんの義肢は細かな筋肉の動きを検出するセンサーによってコントロールされる/David Vintiner

このロボットアームは、USBポートやヤング氏のツイッターフィードが表示されるスクリーン、さらに中にドローンが入っている格納式ドックなど、想像を超えた機能を備える。またこの義肢は、ヤング氏の背骨から発生する神経インパルスを物理的な動きに変換するセンサーによって制御される。

ヤング氏によると、人々が高度なバイオニック義肢の機能だけでなく、その美学も理解するのに数年かかったという。

ヤング氏は「バイオニック電子義肢は怖いと思われたのは、単にその見た目が原因だった」とし、「この傾向は、『身体障害はセクシーではない』という考え方とも一致した」と付け加えた。

見る人の目

科学がわれわれの美学に対する理解に与える影響は、ヴィンティナー氏にとってトランスヒューマニズム(超人間主義)の最も魅力的な側面のひとつだ。しかし、ヴィンティナー氏は、トランスヒューマニストの多くは、今も「ポストヒューマン(人間を超えた存在)」の完成形のモデルとして、既存の美の基準を目指していることに気付いた。

フレッチャー、ヴィンティナー両氏の写真集の別の被写体であるソフィアは、米ハンソン・ロボティクスの科学者デビッド・ハンソン氏とベン・ゲーツェル氏が設計した最新鋭のヒューマノイド(人型)ロボットだ。

ハンソン氏は、2018年のインタビューの中で、ソフィアの外見は世界中の人々の共感を呼ぶだろうと述べ、さらにソフィアの容姿は、ハンソン氏の妻やオードリー・ヘップバーン、さらには古代エジプトの女王ネフェルティティなど、実在の、あるいはかつて実在した女性から部分的にヒントを得たと語った。

しかし、明るいヘーゼルカラーの目、見事なアーチ型の眉毛、長いまつげ、はっきりした頬骨、ふっくらした唇が特徴のソフィアの顔は、典型的な美しい白人女性の顔であるのはほぼ間違いない。

ヴィンティナー氏は、「生物学的なメイクアップで生じるいかなる『欠陥』もない人間を設計できれば、今は想像しかできない『完全』のレベルに向かって物事が一気に進むのではないか」と述べ、さらに「美容整形手術がわれわれの美に対する認識を極めて短期間でどれだけ変えたかを考えてほしい」と付け加えた。

「仮にトランスヒューマニストたちが正しく、われわれが人間として数百歳まで生きられれば、われわれの美しさの概念と人間であることの意味そのものが劇的に変わるだろう」(ヴィンティナー氏)

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