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レインボーからグレーまで ヘアダイの歴史

Edward Berthelot/Getty Images

ヘアダイ(染毛剤)は、何世紀にもわたり、その時代の美の基準に適合したり、あるいはその基準を劇的に覆したりと、人々が特定のイメージを描くのを容易にする上で極めて重要な役割を果たしてきた。

特に女性は長い間、色についてはブロンド(金髪)や黒髪など時代や場所によって異なるものの、長く、豊富で、つやのある髪が女性の美しさの条件であるという考え方に合わせようと努めてきた。

世界のヘアカラー市場は、2025年までに約280億ドル(約3兆円)規模に拡大すると見込まれている。2019年の推定市場規模178億ドルから年率8%以上の増加で、ヘアカラー製品に対する強い需要が続いていることを示している。

しかし今、女性の間で、まだ小規模ではあるが、ある傾向が高まりつつあることはこれらの数字からは分からない。その傾向とは、昔から存在する女性の髪への期待に対する反論として、白髪など自分の自然な髪を受け入れる女性が増えていることだ。

今や染髪は、髪の欠点を隠すことだけが目的ではない。従来の考えを覆したり、大胆な自己主張をしたり、自分の自然な髪の色を取り戻したりすることでもある。

染毛の進化

染毛は昔から男性も女性も行ってきた。古代文明では、シナニッケイやヘナといった植物や焦がした卵、金粉などが使われた。

美しいブラウンやブラックの髪になるとうたう1843年の広告/Bettman Archive/Getty Images
美しいブラウンやブラックの髪になるとうたう1843年の広告/Bettman Archive/Getty Images

大半の染毛剤は、植物や動物性の素材で構成されていたが、染毛の進化の過程では、髪を黒くするために鉛製のくしを使ったり、髪の色を明るくするために硫酸を使用したりするなど、危険で、時に死を招きかねない方法も使われた。

ヘアダイが現在のような形になった、すなわち化学物質が使われ、多様な色があり、市販されたり、美容院で使用されたりするようになったのは20世紀初頭のことだ。

1907年にウージェンヌ・シュエレールというフランスの若い化学者が、19世紀に発見された化学物質パラフェニレンジアミン(PPD)を「オレアル」と名付けた世界初の合成染毛剤に使用した。

その2年後、シュエレールは会社を立ち上げ、製造されたヘアカラーを使用することに対する人々の不安を軽減するために、「フランス無害染毛会社」と名付けた。しかし、1909年にシュエレールはもう少しおしゃれな名前にしようと考え、社名を「ロレアル」に変更した。

客にサンプルを見せる店員=1965年/Angelo Cozzi/Mondadori/Getty Images
客にサンプルを見せる店員=1965年/Angelo Cozzi/Mondadori/Getty Images

老化への不安を利用

20世紀の最初の数十年間、女性たちは市販の染毛剤に不安を感じていた。化学染毛剤は危険と考えられ、染毛自体のイメージも悪かった。ヴィクトリア朝時代のイギリスでは、染毛はうぬぼれの強い女性がすることで、上品な主婦がすることではないと考えられていた。

しかし、1940年代になると美容の人気が高まり、美容院は毛を染めていることを知られたくない顧客が店の裏口から入れるようにした。

一部の美容会社は、市場を拡大するために、人々の老化に対する不安につけこみ、白髪を隠す手段として染毛剤を販売した。

「Grey is a Feminist Issue(白髪はフェミニスト問題)」というエッセーの著者クレア・ロビンソン氏は、女性に年を取っても髪の色を維持するようプレッシャーをかけるという美容会社のマーケティング戦略により、染毛はせっけんを使うのと同じくらい一般化したと指摘する。

1950年代には、米国人女性の4~7%しか髪を染めていなかったが、1970年代には約4割まで増え、2015年までに推定7割の米国人女性が染毛剤を使用していた。英国の市場調査会社ワンポールが2019年に行ったヘアケアブランド「リビングプルーフ」に関する調査でも米国と同様に染毛剤の高い使用率が示された。

1950年代の広告/Found Image Holdings/Corbis/Getty Images
1950年代の広告/Found Image Holdings/Corbis/Getty Images

南アジアや東アジアも似たような状況だ。調査会社ニールセンによると、ヘアケア業界の市場規模が33億ドルのインドでは、染毛剤がヘアケア製品全体の18%を占め、染毛剤市場は年間15%成長しているという。

中東とアフリカの染毛剤の売り上げは、2017年に2億188万ドルを記録した。2016年から約10%の増加で、中でも最も売り上げが急増しているのはブリーチ(脱色)剤だ。

中国と韓国では、男性向け、女性向けともにヘアカラー製品(主に暗い色の染料)の需要が大幅に増加している。また日本では、美しさの理想と黒髪との結びつきが非常に強く、生徒たちに髪を黒く染めるよう強制する学校もあるが、最近そのような校則は反発を招いている。

しかし、今や自然な見た目だけが染髪の目的ではない。最近、世界中の若い女性(と一部の男性)の間でディップダイや、ピンク、ターコイズ、バイオレットといった虹色のヘアカラーの人気が高まっている。

髪の毛の色は自己主張でもある/Edward Berthelot/Getty Images
髪の毛の色は自己主張でもある/Edward Berthelot/Getty Images

アジアでは、特に韓国人の間でコーラル、アッシュ、チェリーピンクといったレインボーヘアカラーの人気が高まっており、韓国Kポップの多くのスターたちもまるでカメレオンのように髪の色を次々と変えている。

白髪は「新しい金髪」

グレーのカラーリングは、インスタグラム上でははやっているかもしれないが、自然な白髪に対する世界中の女性(中国では男性)の評価は依然として複雑だ。

「これまで白髪は自尊心の名の下に何としても避けるべきものとされてきた」と、ロビンソン氏は指摘する。

ジェイミー・リー・カーティス=2019年11月、米ロサンゼルス/David Buchan/Shutterstock
ジェイミー・リー・カーティス=2019年11月、米ロサンゼルス/David Buchan/Shutterstock

「白髪のお手本となる人物や自然な白髪の若くておしゃれな人物が存在しないのも無理はない」と語るのは、西イングランド大学ブリストル校、外見研究センターの博士号取得候補者カテリーナ・ジェンティリ氏だ。

「昔から、そして今日でも、白髪の女性と聞いて思い浮かぶのは、賢くて面倒見もいいが、性的魅力は全くない祖母のイメージだ。一方、白髪交じりの男性は威厳やカリスマ性があり、自信にあふれ、経験豊かでセクシーに見られる」(ジェンティリ氏)

多くの女性は、この男女の差に対し大きな息苦しさを感じている。トラスロー・スミス氏は、2016年にインスタグラム上に「Grombre(グロンブレ)」というアカウントを立ち上げて以来、これまでに17万4000人のフォロワーを獲得し、毎日数十人の女性が自分の白髪頭の写真を投稿している。スミス氏が自分の頭に初めて白髪を見つけたのは14歳の時で、24歳の時に染髪をやめる決意をした。スミス氏は、このアカウントのおかげで白髪について肯定的な会話が増えたが、ある種の「実証」としても役だったと語る。

スミス氏は「自然な白髪を受け入れることは、まさにライフスタイルの変化であって、単なるトレンドではない」とし、「ほとんどの人は、(一度白髪を受け入れたら)通常、再び髪を染めることはない。これは(白髪の呪縛から)自分を解放する決断だ」と付け加えた。

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