OPINION

ロシアで次に起こること

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ワグネルのプリゴジン氏(左)はプーチン氏の軍隊への武装反乱を停止。次の展開は?/AP

ワグネルのプリゴジン氏(左)はプーチン氏の軍隊への武装反乱を停止。次の展開は?/AP

(CNN) 今月23日から24日、さらに25日へと、ロシアで日付が移り変わっていったあの時間は、まるで世界が一斉に息を殺し、次に起こる出来事に身構えていたかのようだった。

そして突然、事態は終わりを告げた。だが果たしてそうか? 筆者の考えでは全くそんなことはない。

衝撃的な発表により、ロシアの民間軍事会社ワグネルのトップ、エフゲニー・プリゴジン氏が、不可避と思われたプーチン大統領の軍隊との衝突を停止することが明らかになった。この状況をクーデターや内戦と呼ぶ見方もあったが、実際のところクレムリン(ロシア大統領府)の門前で血みどろの戦闘が繰り広げられるとの見通しは除外された。

プリゴジン氏は自身の部隊の向きを変えていた。モスクワへの前進から、亡命先とも思えるベラルーシへと進路は変更された。

差し当たっての危機は食い止められたが、根底にあるものは変わらない。それはプリゴジン氏とプーチン氏に起因する、かなり以前からの問題だ。

何よりも、多くのロシア人にはかねて口にすることのなかった信念があった。自らの声が聞かれるのを恐れる国民ではあるが、根本的にウクライナでの戦争は戦う価値もなければそのために命を落とす値打ちもない、そんなものとは全くかけ離れているというのが彼らの考えだ。今やそうした不穏な内容の小さな秘密は、まだ完全ではないにせよ十分に知れ渡っている。そしてその点だけでも、影響は途方もないものになる可能性がある。

最も差し迫った、恐らくは天啓に導かれて訪れたその瞬間は、23日に始まった。プリゴジン氏は公開した驚くべき30分間の動画で、ウクライナへの侵攻を腐敗したエリートによる「悪徳行為」だと断じた。ただプーチン氏に直接言及することだけは慎重にこれを避けた。

「ロシアを支配する寡頭体制の一派が戦争を必要とした」「精神を病んだ卑劣漢どもが決めたのだ。かまわないから、ロシアの男たちをあと数千人投入して砲弾の餌食にしてしまえと。連中は砲火を浴びて死ぬだろうが、我々は欲しいものを手にできると」。プリゴジン氏はそう主張した。

もちろん、プリゴジン氏が極めて直接的にエリートの腐敗について発言したのはこれが初めてではない。同氏の考えによれば、こうした腐敗はロシアの国家と軍隊を侵食する存在に他ならない。

先月、プリゴジン氏は親ロシア派のブロガー、コンスタンティン・ドルゴフ氏との扇情的なインタビューでこう言い放っている。「エリートの子どもらがクリームを塗りたくってネットに出ている間、庶民の子どもは戦場で八つ裂きにされている。母親は我が子を思い、嘆き悲しんでいる」

この戦争はウクライナの武装解除というその目的を一切果たしていないと指摘しつつ、プリゴジン氏はさらに畳みかける。「以前のウクライナ軍の戦車が500両だったとすれば、今は5000両だ。熟練の兵士がかつては2万人いたとすれば、今は40万人いる」

ベラルーシへの再配置で、プリゴジン氏はおとなしくなるだろうか? そうは思えない。現在、理論上同氏はプーチン氏の法体系の及ばないところにいるが、依然として携帯端末とノートパソコンの威力にものを言わせる可能性はある。

しかし、恐らくそれにも増して重要なのは、同じように口にはされていないもののほとんど露見しているあの兆候の方だろう。今や現実になったも同然のその兆候とはつまり、皇帝は裸だということだ。もう認めるしかない。

確かにプーチン氏は暴力的な衝突を回避することができた。それが起きていれば自身は失脚した可能性があった。とはいえ同氏は、全国放送で誓った自らの約束を破らざるを得なかった。プリゴジン氏の部隊が進軍する間、プーチン氏は「裏切りの道」を歩む者には罰が下ると明言。「軍事的反抗を(組織すると共に)準備し、武器を戦友に向ける者たちはロシアを裏切った。その責任を問われることになるだろう」と述べていた。

実際のところ、そうはならなかった。今回の事案は疑いなく、同氏の大統領の地位に対する最大にして最も直接的な挑戦だった。にもかかわらず、現時点ではっきりとした結果が生じていない。

当然、場合によってはしばらくはっきりしない事柄もあるだろう。

第一に、プーチン氏が対応するのはプリゴジン氏ただ一人ではなく、数千人の兵士も含まれる。彼らはかつてないほど疑問に駆られているかもしれない。一体なぜ自分たちは、プーチン氏の戦争を戦っているのだろうかと。

プリゴジン氏の23日の動画は、SNSテレグラムの自身のチャンネルで公開したもので、間違いなく広範に視聴された。とりわけ戦場の兵士たちや、ロシア全土の数百万人の間で。過去の同氏のインタビューも、特に前出のドルゴフ氏とのものは同じようにフォローされた。

この状況で、プーチン氏と同氏の将軍たちはどうやってウクライナに派遣された部隊を説得できるだろうか? 自分たちが戦っている戦争には命を投げ出すだけの価値があるのだと、どうすれば納得させられるというのか?

少なくともロシア軍からは、ここまで1万人が自主的な投降を願い出た。そうした求めはウクライナ軍が設置した専用のホットラインに、昨年9月以降寄せられている。

しかもプーチン氏が近い将来、配下の将軍の誰か一人でも見限るような兆候はほとんどない。プリゴジン氏は彼らの無能と戦争での敗北について警告。ずっと以前に迅速かつ無傷での勝利を自ら約束していながら、それを果たせていないと警鐘を鳴らしていた。この点ではプリゴジン氏に易々(やすやす)と軍配が上がるように思える。

実際のところプリゴジン氏が率いるワグネルは、最近のウクライナで組織的に勝利している唯一の部隊のようだ。本人が指摘するように、東部の要衝バフムートを数週間にわたる無益な戦いの後に制圧したのは、同氏の指揮する戦闘員たちだった。

戦場以外にも、別の不確定要素がプーチン氏に迫る可能性がある。今や同氏は自らが招いた状況に直面し、明らかにそれを制御できていないように見える。プーチン氏は長年にわたり事実上自身の言いなりだったルカシェンコ氏を頼り、ともすれば命取りになりかねない危険な状況を鎮めなくてはならなかった。この動きは、かねてプーチン氏が支援を当てにしてきた取り巻きの間で注目を集めずにはおかない。またプーチン氏の信頼厚いぺスコフ報道官がプリゴジン氏の所在を記者団に告げることができなかったという事実も、一段と厄介な話に思われる。

何よりも、現場で起きている事実が本質的にプーチン氏のこれまでの発言とことごとく食い違う。ロシアはこの戦争で勝利していない。1年前にはものの数日もしくは数週間で終わるはずだったにもかかわらず。ウクライナは一段と強化され、戦力の高まりに拍車がかかる。プリゴジン氏が最も直接的な形で指摘した通りだ。そして、プーチン氏はもう比類ない強者ではないのかもしれないとの懸念が広がる。同氏は過去20年間にわたり、自身をそうした強者と位置づけてきた。

なるほど、仮に誰がより強い権力を握っているかと問うなら、プーチン氏は輝きを失いつつある側だということができるかもしれない。

「16カ月前、ロシア軍はウクライナの首都キーウの玄関口にいた。ものの数日で街を奪取し、ウクライナを地図から消せると考えながら」。ブリンケン米国務長官は25日、CNNの番組でそう述べた。「今や彼らは、自分たちの首都モスクワの防衛に注力せざるを得なくなっている。相手はプーチン氏自身が作り上げた傭兵(ようへい)部隊だ。ここから多くの意味深い問いが浮かび上がる。答えは向こう数日、数週間で出ると思う」(ブリンケン氏)

最終的に焦点はウクライナへと移り、ゼレンスキー大統領と配下の将軍たちが今回の贈り物をどのように最大限活用し得るのかに注目が集まっている。プリゴジン氏が突如として彼らにもたらしたこの贈り物を。

果たしてウクライナ軍からの強力な攻撃がその答えなのだろうか? プリゴジン氏がこの常軌を逸した週末に露見させた、厳しい問いの答えとなり得るのだろうか? もしそうであるなら、ここは単に身を引いて、クレムリンの権力闘争がどのように繰り広げられるのかをじっくり観察すればいいのかもしれない。

デービッド・A・アンデルマン氏はCNNへの寄稿者で、優れたジャーナリストを表彰する「デッドライン・クラブ・アワード」を2度受賞した。外交戦略を扱った書籍「A Red Line in the Sand」の著者で、ニューヨーク・タイムズとCBSニュースの特派員として欧州とアジアで活動した経歴を持つ。記事の内容は同氏個人の見解です。

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