使用済みの漁網、気候変動対策の一助となるか

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リサイクル生地で作られたボードショーツを手にするカイル・ドブテ氏/Paul Glader/CNN

リサイクル生地で作られたボードショーツを手にするカイル・ドブテ氏/Paul Glader/CNN

ブルーエコノミーという概念

セーシェルは土地柄、「ブルーエコノミー」という概念を支持している。世界銀行はブルーエコノミーを「経済、生計、海洋生態系の健全性に恩恵をもたらす海洋資源の持続可能な使用」と定義づけている。国連の推計によれば、ブルーエコノミーの市場価値は全世界で年間1兆5000億ドル(約218兆円)を超え、毎年3000万人以上を雇用し、30億人分以上の食糧を賄っている。

セーシェル政府は「ブルーエコノミー省」を設置して、海洋利用や海洋開発の指針となるロードマップを作成している。セーシェルをはじめとする小さな島しょ国の存続は海に依存しているため、こうした地域では特有の脆弱(ぜいじゃく)性を抱えている。また海面上昇、降水周期の変化、酸性化によるサンゴ礁の被害といった気候変動の影響も目の当たりにしている。

循環経済型のビジネスモデルを推奨する人々は、こうした取り組みが、小国や中小産業に対して、より持続的でより革新的になるよう促すだろうと語る。英エレン・マッカーサー財団は「循環経済では、補修、再利用、改装、再製造、リサイクル、堆肥(たいひ)化といった工程を経て、製品や素材がつねに循環している。循環経済は、限りある資源の消費から脱却した経済活動により、気候変動の他、生物多様性の喪失、廃棄物、汚染といった地球規模の課題に取り組む」と指摘した。

国連によると、コンクリート、鉄鋼、プラスチック、アルミニウムの循環利用がさらに進めば、50年までに世界の温暖化ガスは40%削減できるという。循環経済の事例として、国連はコソボやガーナ、フィリピンを挙げている。

セーシェル大学ブルーエコノミー研究所のシルバナ・アンタット所長は、セーシェルの起業家支援はいくぶん強化されてきたものの、まだまだ改善の余地があると語る。所長をはじめとする人々は、若い起業家に活躍の場を提供するような「孵卵(ふらん)器」の設立を望んでいる。

今年10月にはセーシェルのミッシェル元大統領が、「小さな島しょ国はブルーエコノミーの最前線に立っている」と地元紙ザ・ネイションに寄稿した。近年ミッシェル元大統領はセーシェルの無人島の一部が消滅の危機にあると警鐘を鳴らしており、アラブ首長国連邦(UAE)ドバイで開催されている国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)にも参加している。ミッシェル元大統領は社会をより良くするための「創意豊かな若い起業家」の活動を支持し、一例として漁網のリサイクルを挙げた。

障壁に足を取られ

当初ドブテ氏は、漁網のリサイクルとナイロン製品の製造をセーシェル国内で行うつもりだった。漁網を集め、運搬し、洗浄・乾燥して裁断した後、押し出し機にかけて、生地やその他製品の原料となるナイロンのペレットを製造するという作業だ。だがほどなく、数々の制約が立ちはだかっていることに気づいた。セーシェルでは法人向け電気料金が西側諸国の3倍にもなることがある。さらに家賃の高さや不安定な漁網の供給という障壁もあった。

ドブテ氏はスペインやフランスのマグロ漁団体と協力し、セーシェル領海で操業する国の漁業会社や漁船の船長に、使用済み漁網をブリコレ社に提供してもらえないかと呼びかけた。

「消耗した漁網の問題がこれで解決できる」と語るのは、スペインのマグロ漁団体OPAGACでマネジングディレクターを務めるフリオ・モロン氏だ。漁網を提供してもらう代わりに、ブリコレ社はセーシェル人労働者の雇用を維持し、フランスやスペインの漁業会社を協賛企業として列記することに同意した。

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