女性は働きにくい? 現代自動車の事例から見る韓国の労働環境

現代自動車で働くファン・ジソンさん/Courtesy Hwang Ji-sun

2023.10.29 Sun posted at 17:30 JST

ソウル/香港(CNN) ファン・ジソンさん(52)が韓国の自動車メーカー、現代自動車で組み立てラインの仕事を始めた22年前、ファンさんのような女性の労働条件は厳しかった。

女性用トイレは不足し、女性技術者は社員としてではなく、人材派遣会社から請負業者として派遣されていたため、フルタイムで働く男性社員よりも賃金が低かったとファンさんは回想する。

実際、韓国金属労組(KMWU)によると、現代自動車が1967年の創業以来、韓国で女性工場労働者を初めて直接雇用したのは今夏のこと。同社は7月、6人の女性技術者を採用した。

わずか6年前に社員になったファンさんにとって、それは不本意ながらも、ようやく勝ち取った勝利のように感じたという。

「会社が決断を下したのは、社会的圧力を無視できず、今回の採用をアピールしたかったからだろう」とファンさんはCNNに語った。

労働組合や活動家団体は長年にわたり、現代自動車に「男性優位の現場」におけるインクルージョン(包括性)を改善するよう求めてきた。

経済協力開発機構(OECD)加盟国の中でも賃金格差が最も大きい国のひとつである韓国で、今回の雇用に関するニュースは男女間の賃金格差について幅広い議論を引き起こしてきた。

専門家らは、韓国が世界で最も先進的な経済大国の一つであるにもかかわらず、女性は依然として男性と同じ機会が得られず、重役が集まる会議室や工場の現場で姿を見かけることはまれだと指摘する。

韓国女性政策研究院(KWDI)の研究員チョン・ソンミ氏は「職業を性別によって分類する韓国社会の習慣は依然として存在しており、現代自動車の事例はそれを反映している」と述べ、一部の職業は男性が行うべきだという韓国の文化的な意識に言及した。

現代自動車による今回の動きは、今のところ象徴的なものに過ぎないようだが、「職場における固定的な性別役割分担から脱却する流れにつながり得るため、良い兆候と見なすこともできる」とチョン氏は言い添えた。

新たなスタート

靴工場を退職後、海沿いの都市、蔚山(ウルサン)にある現代自動車で働き始めた2児の母であるファンさんは、新たなスタートを切る準備ができていた。ファンさんの最初の仕事は、主にドア枠に黒いテープを貼るという比較的単純な作業だった。

請負業者として働いていたファンさんの給料は、残業代込みで月給140万~150万韓国ウォン(現在のレートで約15万~16万円)だった。一方、フルタイムの社員(全員男性)の給料はおよそ200万韓国ウォンだったという。

2012年、韓国の大法院(最高裁)は現代自動車が男女を問わず契約生産労働者を直接雇用しない慣行は違法との判決を下し、ファンさんらはフルタイムの社員になることが認められた。

だがファンさんの場合、労組と経営側の長期にわたる交渉の末、社員への昇格が正式に実現したのは5年後だった。

現在、フルタイムの女性社員は男性と同じ賃金をもらっているという。ファンさんが働く施設には、女性用トイレが増設されたほか、女性用シャワーもある。女性の労働者も増え、ファンさんが勤務する工場では、従業員およそ3600人のうち約90人が女性だ。

現代自動車はCNNに対し、今年は女性エンジニアを採用したことを認めたが、会社の方針を理由にして詳細は明らかにしなかった。また、米国、トルコ、インドなど世界各地にある同社の工場で働く女性の人数についても公表しなかった。

米労働省労働統計局の22年のデータによると、米国では自動車産業で働く女性労働者の割合は28%弱だ。

韓国雇用労働省傘下の財団、アファーマティブ・アクションによる最も近い比較可能な政府統計によれば、自動車産業を含む韓国の重工業部門の労働力の約9~10%が女性だという。

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より大きな問題

漸進的な改善にもかかわらず、韓国には依然として性別に基づく排除や低賃金といった問題が蔓延(まんえん)していると研究者らは指摘する。OECDのデータによると、米国における男女間の賃金格差が17%であるのに対し、韓国では女性の賃金は平均して男性の3分の1低い。

米シンクタンク、ピーターソン国際経済研究所(PIIE)の研究者らは22年の報告書で、韓国では「女性の高等教育水準が平均を上回っているにもかかわらず」、こうした傾向が存在すると指摘した。

また韓国における女性の労働参加率は、男性よりも20パーセントポイント低く、その差は高所得国の平均よりも大きい。

報告書によると、「これらの格差と世界の経済先進国の中で最も低い出生率は、韓国の将来の経済見通しを低下させる」という。

韓国の出生率(女性1人当たりが産む子どもの平均数)は昨年0.78人に低下した。

女性の労働参加率と出生率の低下という組み合わせについて、PIIEの研究者らは「仕事と家庭の両立が難しく、女性がどちらかを選択するよう迫られる従来の仕事の性質を反映していることを示唆している」と指摘した。

PIIEが引用したデータによると、既婚女性、とりわけ子どもがいる女性は仕事に就いていない可能性が高い。

「子どものいない未婚女性は男性と同様に雇用される可能性が高い」と研究者らは述べている。

国際通貨基金(IMF)のギータ・ゴピナート筆頭副専務理事は、女性の労働力維持に向けた新たな措置を導入するよう韓国側に提案した。

ゴピナート氏は昨年9月に韓国で行われた男女平等フォーラムで、保育料の引き下げ、労働時間の短縮、より柔軟な働き方が重要だと語った。

「急速な高齢化と出生率の低下によって韓国の労働力は減少すると予想されている。経済成長を促進するには女性の労働参加率を高めることが極めて重要だ」(ゴピナート氏)

変革を求める声

活動家らは、問題の一つは、企業が女性の扱いについて透明性を欠いていることだと指摘する。

労働組合によると、公的機関は詳細な男女比データを開示することが法律で義務付けられているが、民間部門はそうではない。

3月の記者会見では、複数の労働者団体や活動家団体が企業に対し、採用活動に関しもっと率直になるよう求めた。

韓国女性労働者会(KWWA)で連帯運動マネジャーを務めるノ・ヘレナ氏によれば、現代自動車に毎年女性を何人採用しているかについての情報を求める文書を何度も送ったが、返答はなかったという。

CNNは現代自動車にデータを求めた。同社から提供された年次報告書によると、22年時点で女性の役員、マネジャー、エンジニアが占める割合は計6.4%であることが分かった。一方、同社の取締役12人のうち女性は2人のみだった。

こうした男女間の差異は公共部門でも見られる。

労働組合が3月に発表した声明によると、18年から22年にかけて国内の350の公共機関で採用面接を受けた男性の数は女性よりも1万8000人多かった。

ファンさんによれば、韓国のような文化的に保守的な社会では、男性中心の職業に就く女性に対する認識を変えるには、もっと多くのことを行う必要があるという。

「フォークリフトオペレーターと聞くと、男性を思い浮かべる人が多いだろう。女性が男性と同等に業務を遂行できることを示すことが不可欠だと思う」とファンさんは述べている。

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