米からウクライナに供与のロケット砲、ロシア軍の新たな問題に

ウクライナに供与された高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」/Anastasia Vlasova/The Washington Post/Getty Images

2022.07.21 Thu posted at 07:40 JST

(CNN) ウクライナでの戦争に新たな、そして潜在的に非常に重要なファクターが加わった。ウクライナに最近供与された欧米の兵器により、前線から遠く離れたロシアの指揮所や兵站(へいたん)拠点、弾薬集積所を攻撃することが可能になったのだ。

ドネツクやルハンスク、ザポリージャ、ヘルソン各州の被占領地域では14日までの1週間、大きな爆発が相次ぎ発生した。人工衛星の画像や欧米の専門家の話から判断する限り、目標選定は非常に効果的に行われているようだ。

ウクライナ軍はここ数カ月、欧米の協力国に長距離精密砲やロケットシステムを要望していた。求めていた兵器が手に入った今、ウクライナは南部と東部でこれらを効果的に配備している。

ウクライナ軍は具体的な情報をあまり公表していないものの、内務省高官は13日、供与された兵器のおかげで、過去2週間の間に「兵器や燃料・潤滑剤の在庫を格納する倉庫二十数カ所を破壊できた。間違いなく(ロシアが使える)火力に影響が出るだろう」と述べた。

この中で最も高性能なのは米国から供与された高機動ロケット砲システム「HIMARS(ハイマース)」だが、それ以外にもウクライナは米国とカナダから榴弾(りゅうだん)砲「M777」、フランスから長距離榴弾砲「カエサル」を受け取った。

これに加え、英国はハイマースよりも強力な多連装ロケットシステム「M270」の供与を約束したものの、ウクライナが運用訓練を終えて配備するのがいつになるかは不明だ。

ハイマースの使い勝手の良さは「高機動ロケット砲システム」という名前に表れている。機動性が高いため狙われにくく、運用に当たる兵士はわずか8人で済む。ウクライナに供与されているロケット弾の射程は70~80キロ。GPS(全地球測位システム)誘導システムを活用し極めて高い正確性を誇る。

オーストラリア軍退役少将のミック・ライアン氏は、「ハイマースは通信拠点や指揮所、飛行場、重要な兵站施設の破壊に使われている」と指摘する。

このため、ロシアの高級将校は特に攻撃を受けやすい。またハイマースの正確性は、ウクライナが民間人の犠牲者についてそれほど心配しなくていいことも意味する。国防当局者2人によると、誘導ロケット弾の命中誤差は2~3メートルで、これまでよりはるかに少ない弾数で遠方の目標を正確に攻撃することができる。

ハイマースは11日夜にあったヘルソン州ノバカホフカの倉庫に対する大規模攻撃でも使用されたとみられる。CNNが調べた衛星画像によると、この攻撃で二次的な爆発が発生し、広い範囲が損傷した。衛星画像には小さな穴が1個写っているのみで、攻撃がいかに正確だったかを物語る。

衛星画像がとらえたヘルソン州ノバカホフカでのウクライナ軍の攻撃の様子

このほかルハンスク、ドネツク両州でも大規模な爆発があったほか、ドネツク州シャフタールスクやヘルソン州、ザポリージャ州メリトポリ近郊でも同様の爆発が起きた。

合計すると、14日までにロシアの戦線の奥深くにある十数カ所の目標が攻撃されたとみられ、その大半は前線から少なくとも約40キロ後方に位置している。これだけ離れた場所を古い「トーチカU」ミサイルで正確に攻撃するのは困難だろう。

また、ウクライナが夜間にハイマースを発射していることもあり、ロシアが発射装置を発見・攻撃するのは一層困難になる。ロシア軍は開戦当初から夜間の戦いに苦戦してきたが、ウクライナは今でもこの点を有利に生かしている。

戦況に変化

目標選定が容易になった要因として、ロシア軍による兵器の保管方法や移動方法もあるかもしれない。

英セントアンドルーズ大学のフィリップ・オブライエン教授(戦略学)は、ノバカホフカへの攻撃は「補給戦の現状やロシア軍の直面する真の問題」を明るみに出していると指摘する。

攻撃目標となった場所は鉄道拠点に近く、攻勢維持のためにロシアの兵站に不可欠なことから、目標となるのは目に見えていた。

「ロシアは笑ってしまうほど簡単に特定できる場所に大きな補給拠点を置いていた。まさに、そこにあるだろうと思うような場所だった。ロシアは指揮系統の不全で対応できないのか、道路がないために実際に拠点を動かせないのか、どちらかだ」(オブライエン氏)

ウクライナ当局者の1人は、この倉庫を目標に選ぶのは簡単なことだったと示唆。ヘルソン州議会の議員はフェイスブックで「ノバカホフカにあるロシアの弾薬庫がひとつ減った。彼らは(弾薬を)散々持ち込んで備蓄したが、夜の花火になった」と述べた。

長距離榴弾砲「カエサル」を使用するウクライナ軍兵士=6月、ウクライナ・ドネツク州

在欧米陸軍の元司令官、ベン・ホッジス氏はヘルソン州への攻撃があった後にツイートし、「ロシア軍で最も不人気な仕事とは? それは弾薬を取り扱う仕事だ」と指摘している。

米国防総省は8日、155ミリ口径の砲弾1000発をウクライナに供与すると発表。ただし当局者によると、これは正確性が増した新型の弾薬だという。ウクライナは1日3000発のペースで155ミリ弾薬を消耗しているが、ハイマースの場合と同様に、砲弾の正確性が上がればそのぶん必要な砲弾の数は少なくて済む。

国防総省の当局者はハイマースが戦況を変えていると主張し、「ウクライナはハイマースシステムを使うことで、ロシアの前進能力を著しく阻害している」と説明。「もしロシアがウクライナに持久戦で勝てると思っているなら、考え直す必要がある」と付け加えた。

ロシアの軍事記者ユーリ・コテノク氏も先ごろ、ハイマースを「深刻な脅威」と評し、「ヘルソン州とザポリージャ州の解放された地域、ドネツク人民共和国(DPR)、ルガンスク人民共和国(LPR)、そしてロシア領もハイマースの射程に入る可能性がある」と指摘した。

テレグラムで30万人近いフォロワーを持つコテノク氏は、ロシアの防空網を改善するとともに、移動中あるいは配備中のハイマースを狙った攻撃も改善する必要があると指摘。「もしこの状況が続くようであれば、敵の意思決定拠点を攻撃することが必要になる」としている。

パレットの重要性

ロシアの問題の一つは、弾薬の運搬方法かもしれない。そこで重要になるのが、目立たない存在であるパレットだ。

ロシア軍のトラックには重い弾薬を持ち上げるクレーンを備えたものはほとんどない。弾薬がパレットに搭載されて運ばれるケースはまれで、積み降ろしは手作業で行われる。ウクライナでは老朽化したソ連のトラック「ZIL」が多数目撃されている。

この方法で兵器や弾薬を運ぶと手間と時間がかかり、敵の監視部隊が輸送の場面を発見する機会を増やしてしまう。対照的に、英米の軍隊は弾薬の多くをパレットに積むか、コンテナで運ぶかしている。

ウクライナ東部でここ3カ月間に見られるように、ロシアの戦争のやり方は大規模砲撃を頼りに目標を徹底破壊し、そのうえで前進するというものだ。ロシアの軍事ドクトリンでは常に、火砲や多連装ロケットシステム、迫撃砲の大量使用を強調してきた。それには絶え間ない補給が必要となる。一部の専門家の計算によると、ロシアはドンバス地方で少なくとも1日7000発の砲弾やロケット弾を使用しており、これ以上に使う日も多いとされる。

ウクライナ東部ルハンスク州の軍政トップ、セルヒ・ハイダイ氏は13日、「ロシア軍は砲撃をやめていないが、砲弾の在庫を節約している可能性が高い。我々の新たな長距離兵器によってロシアの補給が寸断されているためだ」との見方を示した。

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