「我々が選んだわけではない」  ウクライナ戦争の理解に苦しむロシア国民

サンクトペテルブルク中心部で警官に拘束される反戦デモの参加者/Sergei Mikhailichenko/AFP/Getty Images

2022.03.04 Fri posted at 19:30 JST

モスクワ(CNN) タシャさん(19)は寒い朝、ロシアのサンクトペテルブルクで友人たちと一緒に、ロシアのウクライナ侵攻に反対するデモ隊に参加して「戦争反対!」と声を上げた。

「常に他の人と一緒に立ち、肩越しに見ている方が安全だ。何かあった時すぐ逃げられるように」。身の安全を理由に名字は出さないでほしいと頼んだタシャさんはこう語った。だがいつしか、友人たちは家や他の場所で暖を取るためにデモを離れ、自分1人が通りに立っていた。

「それから警官の一団が横を通り過ぎた。突然、そのうちの1人が私を見ると彼らは方向転換して近寄り、私を拘束した」とタシャさんは2月24日の抗議行動について語った。

ロシア全土で抗議活動が続いている。若い人、中年の人、そして定年退職した人までもが街頭に立ち、自国の大統領が命じた軍事衝突に反対の声を上げる。戦争の決断に際し、自分たちには発言権がなかったというのが彼らの主張だ。

今、彼らは自分たちの声を見つけようとしている。しかし、ロシア当局は、ウクライナへの攻撃に対する国民の反対意見を封じ込めようと躍起になっている。警察はデモが起きるとすぐに取り締まり、デモ参加者を引きずり出したり、乱暴に扱ったりする。

ロシアにおける人権侵害を追跡する独立組織によると、サンクトペテルブルクの警察は今月2日、少なくとも350人の反戦デモ参加者を逮捕し、ウクライナ侵攻が始まって以来、勾留または逮捕されたデモ参加者の総数は7624人にのぼった。

プーチン大統領によるウクライナでの軍事作戦への反対の声は、まだ限定的ではあるものの、意外なところからも出てきている。

今回の戦争を「悲劇」としつつプーチン氏への直接的な批判は控えたフリードマン氏

ロシアの大富豪の1人で、ウクライナ生まれの実業家ミハイル・フリードマン氏は、今回の暴力を「悲劇」と呼び、「戦争は決して答えにはならない」とも述べた。ただし、英紙フィナンシャル・タイムズによると、フリードマン氏はプーチン大統領を直接批判するまでには至らなかった。

「もし私がロシアで受け入れられないような政治的発言をすれば、会社や顧客、債権者、利害関係者にとって非常に明確な影響を与えるだろう」と同氏は述べた。

別のオリガルヒ(新興財閥)のオレグ・デリパスカ氏は、「平和はとても重要だ! できるだけ早く会談を始めるべきだ」とテレグラムの自身のチャンネルに投稿した。

一方、ロシアの「インテリゲンチャ(知識人)」、つまり学者や作家、ジャーナリストなどは、戦争を非難する公の訴えを出している。ロシアの政府や外交官エリートの大半を輩出している外務省付属の名門モスクワ国際関係大学の学生、教員、スタッフ1200人が署名したプーチン氏への珍しい「公開書簡」などがそれだ。

署名した人々は、「ロシア連邦のウクライナにおける軍事行動に断固反対する」と明白に主張している。

「隣りの国で人が死んでいるのに、傍観し、黙っていることは道徳的に許されないと考える。平和的な外交ではなく武器を選んだ人々の責任で、彼らは死んでいる」と書簡には書かれている。

公には、ロシアの外交官はクレムリンと歩調を合わせているが、米紙ワシントン・ポストによると、気候変動に関する国連会議のロシア代表団の代表オレグ・アニシモフ氏は「この紛争を防ぐことができなかったすべてのロシア人に代わって」軍事作戦について謝罪し、「何が起きているかを知っている者は、攻撃の正当性を見つけることができない」と付け加えた。

しかし多くのロシア人は、実際、ウクライナで何が起こっているのかを十分に知らない。国営テレビは、キエフや他のウクライナの都市でのロシアの爆撃や砲撃の様子をほとんど報道せず、代わりにいわゆるウクライナの「愛国主義者」や「ネオファシスト」を取り上げている。

ロシア軍がウクライナに進駐してからおよそ1週間、多くのロシア人は、戦争が実際に起こっているという事実をまだ受け止めていない。米国をはじめとする西側諸国は、数週間前から攻撃が始まることを警告していたが、侵攻が始まる前に行われたCNNの世論調査では、ロシアの攻撃がありそうだと考えたロシア人はわずか13%で、3人に2人(65%)がロシアとウクライナの緊張が平和的に解決すると予想していた。

ウクライナ東部チュグエフでの爆撃後、消火作業に当たる消防隊員

しかし、モスクワに住むアリーナさん(25)のようなロシアの若者は、テレビを見ていない。インターネットを利用してブログを読んだり、ブロガーの話を聞いたりしている。まだデモには参加していないが、街中でリュックやカバンに「戦争反対」のサインを貼り付けて「無言の抗議」に参加する若者を目にしてきた。

アリーナさんもまた、なぜウクライナで戦争が起きているのか、そしてそれが若いロシア人である自分の人生にとって何を意味するのか、理解に苦しんでいるという。

しかし、アリーナさんの母親はまったく違う見方をしている。「母はテレビで見ることをすべて信じている」とアリーナさんは言う。

「プーチンは必要な措置を講じたというのが母の考えだ。兵器が国を取り囲んでいるから、西側からの脅威があるから、プーチンは今回のような行動に出ていると信じている」。

アリーナさんは、母親と「とても激しい言い争いをした」という。

「母は私の言うことを信じないし、私も母の言うことを信じない。私たちの情報源は全く違う。私は、ロシアでは長い間ほとんどブロックされている独立系メディアからすべてを学び、母はテレビを見ている」。

アリーナさんと彼女の友人たちは、ウクライナに関するニュースをソーシャルメディアで追いながら、プーチン氏のウクライナ攻撃決定に対する西側諸国の反発を目にしている。ロシア人は矛盾した、正反対の反応をしているとアリーナさんは言う。

「1つ目は、誰もが『そうだ、恥じるべきだ』と言うこと。2つ目は、『いや、自分たちを恥じないようにしよう、自分たちが決めたのではないことを自分たちに押し付けないようにしよう』というもの」。

しかし、両者の立場は1つの点で一致しているとアリーナさんは言う。「国際社会に『国民は大統領ではない。そして自分たちが現状を選択したわけではない』ということを知ってもらいたいのだ」。

ウクライナでの戦争、反対訴えるロシア市民

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