香港/モンゴル・ウランバートル(CNN) モンゴルでは病床がひっ迫している。インド洋の島国セーシェルでは毎日、100人以上の新型コロナウイルス感染者が新たに報告されている。チリでは先週、全国規模のロックダウン(都市封鎖)が解除されたものの、依然として1日あたり数千人の感染が報告されている――。
これらの国を結びつけるのは、主に中国製コロナワクチンで国民の半数以上への接種を完了したという点だ。これにより中国製ワクチンの有効性に疑念が生じる結果となった。
もし中国製ワクチンが効果を発揮していないのであれば、単に医療的観点にとどまらない大問題になる。中国政府は自国の名声を賭けて他国にワクチンを提供している。
欧米諸国が自国民用に備蓄を行うなか、中国は海外にワクチンを供給してきた。先月には中国外務省が、すでに80カ国以上に3億5000万回分あまりの新型コロナワクチンを配布したと発表。中国と主要民主主義国との緊張が高まっていた時期に、この作戦は欧米の取り組みの不十分さを浮き彫りにした。
シノファーム製ワクチンの接種準備をする中国の医療従事者/Sheldon Cooper/SOPA Images/LightRocket/Getty Images
中国シノファームとシノバックのワクチンの有効性に疑念が浮上したことで、中国のソフトパワー上の勝利は危うくなりつつあるが、中国外務省の汪文斌報道官は、こうした批判を「偏見を動機とする中傷」とはねつけている。
専門家からは、中国製ワクチンは一部のものほど有効でないかもしれないが、失敗ではないとの指摘が上がる。いかなるワクチンでも100%の予防効果はなく、接種後に感染する「ブレークスルー感染」は予想されうる事態だ。
専門家は、成功を測る重要な尺度は死亡や入院の予防であって、感染者ゼロを目指すことではないと指摘する。
なぜ接種済みの人が感染しているのか
中国はこれまで、シノファーム製とシノバック製の2つのワクチンについて世界保健機関(WHO)から緊急使用許可を受けた。どちらも不活化ウイルスを使って患者の体内で免疫反応を誘発するという、すでに十分試された手法を採用している。
一方、米ファイザーや米モデルナは「mRNA」と呼ばれるより新しい技術を活用する。これは免疫反応を誘発する「スパイクたんぱく質」の作り方を細胞に教える手法になる。
臨床試験(治験)では今のところ、シノファーム製とシノバック製はmRNAワクチンに比べ有効性が低いという結果が出ている。WHOに提出されたデータによると、ブラジルで行われた治験ではシノバック製の発症予防効果は約50%、重症化予防効果は100%だった。シノファーム製の有効率は発症予防、入院予防ともに推定79%だという。
一方、ファイザー・ビオンテック製やモデルナ製の場合、発症予防効果はどちらも90%以上に達する。世界規模で行われたジョンソン・エンド・ジョンソン製の有効性研究では、中程度から重症の予防効果は66%、重症の予防効果は85%、死亡の予防効果は100%だった。
専門家は中国製ワクチンを使った地域での感染拡大について、こうした有効率から予想される結果とおおむね一致していると指摘する。
香港大のジン・ドンヤン教授(分子ウイルス学)は「重症例や死者数を減らしたいのであれば、シノファーム製やシノバック製は助けになる」と語る。
同大のベン・カウリング教授(感染症疫学)も、中国製ワクチンは重症者や死者の数を抑えているようだと指摘し、「私は中国製ワクチンは確かに効果を発揮していて、多くの命を救っていると思う」としている。
チリやモンゴル、セーシェルで何が起きているのか
チリでは毎日数千人の新規患者が報告されている。国民の55%がワクチン接種を完了済みで、そのうち80%近くがシノバック製を接種した。
ただし保健省によると、6月17~23日に集中治療室に入っていた患者のうち、73%は接種未完了だった。
セーシェルでも同様の状況であり、当局によると、ほぼ全ての重篤患者や重症患者が接種未完了の人だった。同国では60歳未満の成人にはシノファーム製、60歳超にはインドで製造された英アストラゼネカのワクチン「コビシールド」を使っている。コビシールドも発症予防率は76%、重症化または重篤化の予防率は100%と似たような値だ。
セーシェル保健省は先月のフェイスブックへの投稿で、新型コロナによる同国の死者63人のうち、3人はワクチンを2回接種済みだったと明らかにした。3人の年齢は51~80歳だった。
モンゴル保健省で公衆衛生政策の実施責任者を務めるエンフサイハン・ルハグバスレン氏によると、同国では国民の53%が接種を完了し、そのうち80%はシノファーム製を接種した。モンゴルでの感染者の5分の1は接種完了者だが、死者の96%はワクチン未接種か1回のみの接種の人だという。
同氏は、シノファーム製ワクチンは非常に高い有効性を発揮したと主張。「これは悪い、あれは良いと言って新型コロナワクチンを区別することはできない。入手可能なワクチンはどれも重症化リスクを低減する効果がある」としている。
世界的にワクチン供給が不足するなか、多くの途上国にとって他の選択肢はほとんど存在しなかった。モンゴルはワクチン分配の国際的な枠組み「COVAX(コバックス)」を通じアストラゼネカ製ワクチンを11万2000回分以上、ファイザー製を12万6000回分わり当てられたものの、生産の問題やインドでの感染拡大により到着は遅れている。
なぜ接種済みの人が死亡しているのか
シノバックやシノファーム製ワクチンの対象者の一部は接種後も死亡しているが、こうした「ブレークスルー感染」はどのワクチンでもありうる。
赤十字が先週「崩壊の瀬戸際」にあると警鐘を鳴らしたインドネシアでは、2月から6月26日の間に少なくとも88人の医師が死亡した。インドネシア医師会のリスク低減チーム責任者、アディブ・クマイディ氏によると、このうち少なくとも20人はシノバック製の接種を完了していた。35人はワクチン未接種、33人の死者については依然調査中だという。
インドネシアでは5月と6月だけで推計1600人の医師が感染したが、そのうち何人がワクチン接種済みだったのかは明らかでない。
アディブ医師は、大半の医療従事者は特異な状況に置かれたことが死因になったと説明。彼らは大量の患者を抱え、ほぼ休みなしで長時間労働せざるを得なかったと指摘する。
「我々の調査データを基に判断すると、医療従事者の死はシノバック製ワクチンとは関係ない」とアディブ氏。「最も重要なのは新型コロナワクチンを接種すること、医療手順を守ることだ」としている。
疫学者でインドネシア公衆衛生専門家協会の会員、ヘルマワン・サプトラ氏は、より毒性の強い株がワクチンの有効性を低下させた可能性もあると指摘する。
ワクチン接種を受けた人が新型コロナで死亡する問題は中国製にとどまらない。英公衆衛生庁の6月の報告書では、デルタ株陽性と判定されて28日以内に死亡した117人のうち、50人が2回接種済みだったことが判明した。ただ、こうした死亡例はまれだ。累計ではデルタ株の感染者は9万2029人で、そのうち58%は未接種者だった。英国はmRNAワクチンのモデルナ製やファイザー・ビオンテック製のほか、異なる技術を使うオックスフォード・アストラゼネカ製を採用している。