東南アジアに「浸食」するISIS、中東から軸足移すか

フィリピン南部のマラウィで、モスク近くの学校の屋根に旗を立てるISISの戦闘員

2017.06.09 Fri posted at 17:55 JST

(CNN) 街中にある学校の屋根の上に、過激派組織「イラク・ シリア・イスラム国(ISIS)」の黒い旗が掲げられている。ここはISISの従来の勢力範囲であるシリアやイラクではない。中東から遠く離れた東南アジアのフィリピンだ。

比南部にISIS指導者

同国南部ミンダナオ島のマラウィ市では5月、ISISとつながりのある戦闘員と政府軍が交戦。島全域に戒厳令が布告される中、戦闘開始から1週間以内に少なくとも103人が死亡した。

地元住民によれば、イスラム教徒が大半を占めるマラウィに戦闘員が突然入ってきたのは5月24日の午後。覆面を付け、突撃銃を携行していた。黒地に白い文字で「アラーの他に神はなし」と書かれたISISの旗が「市内のあらゆる所で」はためいていたという。

フィリピン軍の報道官は、政府軍と戦闘員の衝突で5月28日午後までに民間人19人、軍要員11人、警官4人が死亡したと言及。戦闘員61人も殺害されたと確認した。

これとは別に、同市を脱出中だったとみられている8人も峡谷で遺体で発見された。CNNフィリピンが目撃者の証言として伝えたところによると、犠牲者はイスラム教の祈りの文句を暗唱するよう要求された。暗唱できなかった人は武装集団に拉致されたという。

今回の衝突が激化したのは5月23日。ISISの東南アジア指導者に昨年指名されたハピロン容疑者を標的に、フィリピン軍が作戦を実施したのを受けてのことだ。

包囲され拘束を恐れたハピロン容疑者は、ISISに忠誠を誓う地元のイスラム主義軍事組織「マウテグループ」構成員からの援軍を緊急に要請したとみられている。同組織のメンバーは数百人規模でマラウィに流入。建物に放火したり人質を取ったりしたほか、政府軍との市街戦に突入した。

フィリピン警察の特殊部隊。ISISと本格的な戦闘を繰り広げている

域内に広がる「忠誠」

ISISに忠誠を誓う戦闘員による政府軍への大胆な攻勢は、見る者の多くに衝撃を与えた。同時に、ISISが東南アジアでの影響力拡大に成功しているとの懸念も増している。

フィリピンのカリダ検事総長は記者会見で、「ミンダナオ島で起きているのはもはやフィリピン国民の反乱ではない。外国人テロリストによる侵攻に変質した」と指摘。「彼らはミンダナオ島をカリフ制国家の一部にすることを望んでいる」との見方を示した。

シンガポールに拠点を置く「政治的暴力・テロリズム研究国際センター」(ICPVTR)のグナラトナ所長によれば、東南アジアでは近年ISISの影響が広がっている。同地域の60以上の組織がISISのバグダディ最高指導者に忠誠を誓っているという。

インドネシアやマレーシアではISISとの関連が疑われる事件が発生したほか、両国の組織とフィリピンに拠点を置く組織との関係も強化されている。

フィリピン軍は今年4月、ミンダナオ島の南ラナオ州でISISとのつながりが疑われるマウテグループ戦闘員を攻撃、37人を殺害した。その中にはインドネシア人3人とマレーシア人1人も含まれていた。インドネシアに拠点を置くテロ組織「ジェマ・イスラミア」の構成員とみられている。

だが、ジャカルタに拠点を置く「紛争政策分析研究所」(IPAC)の報告書によれば、捜査やテロ対策の取り組みは依然、おおむね国単位に分かれたままだ。

アナリストらは報告書で、「地理や主権の問題、領有権争い、域内の駆け引きが地域協力を妨げているとみられる」と警告。対策を取らなければ、アフガニスタン・パキスタン国境の部族地域のようになりかねないとの見方を示した。

ISISの封じ込めに向けて、東南アジア各国の連携は不十分なのが実情だ

比への渡航促す動画も

ミンダナオ島はこうしたリスクに対しとりわけ脆弱(ぜいじゃく)だ。

同島は共産主義者による反乱など、長年にわたる紛争に見舞われてきた。不安定な情勢に加え、マレーシアやインドネシアとの国境管理が緩いこともあり、東南アジア出身のテロリストらにとって格好の潜伏場所になっている。

インターネット上では昨年、武装した男らがISISのバグダディ指導者に忠誠を誓う動画が拡散。動画の後半には、マレーシア人戦闘員が中東に渡航できない視聴者に対し、代わりにフィリピンに向かうよう促す場面が登場する。男はこの後、フィリピン人とインドネシア人と特定された他の戦闘員2人とともに、拘束したキリスト教徒3人を斬首している。

この動画は、シリアのISIS指導層にとって東南アジアの重要性が増していることを示したものだ。ISISの機関誌も最近、「フィリピンの十字軍」に対抗する戦闘員の姿勢を強調している。

米連邦捜査局(FBI)によれば、ハピロン容疑者はもともとミンダナオ地方南部のバシラン島の出身。最初はイスラム過激派「アブサヤフ」の司令官として有名になった。

IPACによると、ハピロン容疑者はアラビア語や英語を話さず、宗教的な知識も限られているにもかかわらず、ISISにより昨年、東南アジアの指導者として認定された。その地位の背景には、外国人聖戦主義者や東南アジアの他のISIS関連組織とのつながりがある模様だという。

専門家らは、シリアやイラクでの領土喪失を受け、ISISが今後フィリピン南部により着目するものと予想する。東南アジアには数百人の現地戦闘員がおり、専門知識やイデオロギーへの傾倒姿勢を域内に持ち込む構えを示している。

米カーネギー・カウンシルの報告書によれば、最大で「1000人の東南アジア出身者が中東のISIS支配地域に渡航した可能性がある」という。こうした数字は未確認のものだが、多くの地域当局者は、将来的な帰還者に対処するための多国間での計画や戦略が欠如していることに懸念を示している。

フィリピン南部、対ISISの戦場に

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