ムンバイ(CNN) 伝統的に菜食主義が盛んだったインドで、菜食を捨て、肉食に転じる人々が増えている。
ムンバイでは、厳格な菜食主義で知られるジャイナ教徒や、ベジタリアンが多く住むとされるグジャラート州出身者が集まる地域においてさえ、肉食が広まってきた。このようなインド人の菜食主義離れは、逆に肉食から遠ざかりつつある世界の潮流に逆行するものだ。
特に、鶏肉の浸透がめざましい。インドの国家統計である「全国標本調査」によると、インドの鶏肉市場は年12%の速度で成長しており、世界でも有数の成長市場となっている。
さらに、インドでは、肉食そのものだけでなく、肉食について語ることがトレンドになっているのだという。インドで人気のフードライター、ルシナ・ガイルディヤル氏は、「肉食が好きだと公言する方が、菜食が好きだというよりクールだ」と話す。
同氏の分析によると、肉食化の背景にあるのはインドの経済成長だ。人々の所得が増えるに従い、食の好みにも変化が生まれてきたという。インド経済が再び成長軌道に乗りつつある中、収入増で旅行に出かける人も増え、海外の料理に触れる機会も増えた。
インド国内で手に入る食料も、ずいぶん多様化している。以前、コルカタ(旧カルカッタ)では、魚肉類の選択肢といえば、鶏肉やヤギ肉、市内のフーグリー川で取れる魚くらいしかなかった。
それが今日では、魚介類の宅配サービスが進出し、近所の食料品店には高級ハムや各種の肉がそろうまでになった。
そして、ここでも充実しているのが、鶏肉だ。ソーセージやナゲット、サラミなど、さあざまな鶏肉を使った商品が売られている。
「ゾラビアン・チキン」という鶏肉製造ビジネスを展開するボリウッド女優のペリザド・ゾラビアン氏は、「ビジネスは好調で、会社は日々成長している」と意気盛ん。女優としてのキャリアを中断し、鶏肉ビジネスに専念するほどの繁盛ぶりだ。
インド人が鶏肉に傾倒するのには多くの理由がある。なかでも大きいのは、鶏肉が健康に良いという発想だ。
ゾラビアン氏によると、特に若い年代の間で、食の健康志向が強いという。レンズ豆100グラムよりは、チキン100グラムを食べた方がタンパク質を取れるだろうとの考えから、多くの若者が鶏肉を選んでいる。
チキンカレーを食べたことがきっかけで、生まれて以来ずっと慣れ親しんできた菜食主義を捨てた男性もいる。
ニッキー・マーチャント氏だ。レストランである日、同伴していたいとこがチキンカレーを注文したのを見て、衝動を抑えきれなくなった。試しに一口チキンをかじってみた途端、肉食への抵抗感は消えたという。
厳格な菜食主義を貫いている両親にこのことを告げたところ、鶏肉を食べるのをやめるよう父から説得された。だが、マーチャント氏が後戻りすることはなかった。「鶏肉はもう自分の人生の一部だと言い返した」とのことだ。
インドで進む「肉食化」