ANALYSIS

ウクライナの米製長距離兵器によるロシア攻撃、「エスカレーション」に該当しない理由

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米国製の戦術ミサイルシステム「ATACMS(アタクムス)」=2023年7月、オーストラリア・クイーンズランド州/Sgt. 1st Class Andrew Dickson/U.S. Army/AP

米国製の戦術ミサイルシステム「ATACMS(アタクムス)」=2023年7月、オーストラリア・クイーンズランド州/Sgt. 1st Class Andrew Dickson/U.S. Army/AP

(CNN) ウクライナとの1000日を超える戦争の中、ロシアのプーチン大統領はウクライナを支援する西側諸国に対し、同国に自衛に必要な武器を供与して戦争を「エスカレート(激化)」させれば、悲惨な結果、場合によっては核攻撃を招くと再三警告してきた。

バイデン米政権が今月、ウクライナにロシア領奥地の標的に向けて米国製の長距離兵器を発射する許可を与えたことで、プーチン氏の脅しは激しさを増した。プーチン氏は対抗措置としてロシアの核ドクトリンを改定し、ウクライナに向けて核弾頭を搭載可能な新型弾道ミサイルを発射。この「我々を試すな」というメッセージは、ウクライナの支援国に対する明らかな脅しと受け止められた。

しかし戦争が始まってからほぼ3年が経ち、こうした展開は見覚えのあるパターンとなっている。ウクライナが戦車に始まり、戦闘機、クラスター弾、長距離兵器と要求を重ねるたびに支援国は、紛争をエスカレートさせ、ロシアの報復を誘発するのではないかと恐れながら、要請を認めるかどうかで苦悩した。

西側諸国が都度、最終的にウクライナの要求を受け入れても、ロシアの最も破滅的な脅威は現実のものとはならなかった。ある週はタブーだったことが次の週には普通になった。

アナリストらはCNNに、最新のタブーが崩れて以降、プーチン氏の脅威は高まっているが、今回は今までと違うと信じる理由はほとんどないと語る。

むしろ、ウクライナに新たに与えられた権限を不安視するこの反応は、ロシアの戦略が成功していることを示す新たな事例だと述べた。ロシアは同国の侵略に抵抗するウクライナの新しい試みを重大な「エスカレーション」と混同させ、西側諸国にロシアの観点でこの紛争を見させているという。

米シンクタンクの戦争研究所(ISW)が3月に公表した報告書によると、戦場と並行して、ロシアは西側諸国に自分たちではなくロシアの前提に基づいて議論させ、「ロシアが現実世界で勝利できるようにする、ロシアが作り出した別の現実で決定を下す」よう仕向けている。

この報告書の共著者であるカテリーナ・ステパネンコ氏はCNNに対し、この戦略は旧ソ連の「反射制御」の概念の復活だと指摘する。これは国家が敵対国に一連の誤った選択肢を課し、敵対国に自国の利益に反する決定を強いるものだ。

「西側諸国のウクライナに対する軍事援助の継続的な議論と遅れは、ロシアの反射制御戦略の成功を明確に示す例だ。ロシアは戦争を日常的に激化させているにもかかわらず西側諸国を自制させてきた」(ステパネンコ氏)

この戦略は、ロシアが28日にウクライナの電力網を狙った大規模攻撃を展開した際に見て取れた。プーチン氏は攻撃について、バイデン政権の長距離兵器に関する決定への「我々側からの報復」だと述べたが、ロシアはこれまでこのような攻撃の口実を必要としてこなかった。

ロシアの大規模攻撃中、地下鉄に避難するウクライナ人=28日/Alina Smutko/Reuters
ロシアの大規模攻撃中、地下鉄に避難するウクライナ人=28日/Alina Smutko/Reuters

ロシアが約1万1000人の北朝鮮兵を戦争に巻き込んだことを受け、西側諸国はウクライナに対する方針を変更した。しかしステパネンコ氏はこれについて「クレムリンが位置づけるようなエスカレーションではない」と話す。

「ロシアは正当な理由もなくウクライナに全面侵攻し、戦場での主導権を維持するために戦争を日常的に激化させてきた。ウクライナのロシアに対する長距離攻撃システムの使用を承認したことで、ウクライナはようやく能力を同じ水準にすることができた」(ステパネンコ氏)

「無意味な」政策

バイデン政権は今年、米国製の戦術ミサイルシステム「ATACMS(アタクムス)」をウクライナに送ったが、ロシア領には発射しないという条件付きだった。

北大西洋条約機構(NATO)の軍備管理・軍縮・大量破壊兵器不拡散センターの元責任者ウィリアム・アルバーク氏はこの方針について、ほとんど意味をなさず、ロシアに多大な利益をもたらしたと述べた。

アルバーク氏はCNNに、ウクライナにATACMSを供与しながら、ロシアの占領下にあるウクライナの一部地域への攻撃のみを許可することで、「我々はロシアに『あの国境を数メートル越えるだけで家のように安全だ』というメッセージを送った」と指摘する。

事実上、この方針は「ロシアはウクライナのどこでも誰でも殺せるが、ウクライナは自分たちを実際に攻撃している部隊が国境を越えれば殺すことはできないという考え」につながった。この発想は「無意味」だとアルバーク氏は語った。

ウクライナの行動は武力紛争法の範囲内にとどまっている。ポーランドのシコルスキ外相が9月にCNNに語ったように、「侵略行為の被害者は、侵略者の領土でも自衛する権利がある」。

侵攻1000日に合わせた式典に参加するウクライナ人=19日/Roman Pilipey/AFP/Getty Images
侵攻1000日に合わせた式典に参加するウクライナ人=19日/Roman Pilipey/AFP/Getty Images

レッドラインの変化

先週の展開に対する懸念が示される中、ウクライナが長きにわたりロシア奥地の標的に国産ドローンを発射してきたこと、そしてロシアが自国領とみなす領土にすでに西側諸国の兵器を発射してきたことは忘れられがちだ。西側諸国のやや射程の長い兵器を発射するという決定は、程度の差であって、種類の差ではない。

ウクライナは1年以上にわたり、英国の長距離巡航ミサイル「ストームシャドー」で、ロシアが2014年以来占領しているクリミアを攻撃している。何カ月もの間、ウクライナは占領下にあるロシアの標的にATACMSを発射することを許可されてきた。法律により、ロシアはこれらの領土を自国領とみなしており、ウクライナが西側諸国の兵器でこれらの地域を攻撃した場合、悲惨な結果を招くと警告している。

米政府は5月以降、ウクライナが北東部ハルキウ州から国境を越えたロシアの標的を攻撃するために、より短距離の米国製ロケットを使用することも許可している。バイデン大統領がこの決定を承認する前に、プーチン氏は同様の核の脅しを持ち出し、この動きは「人口密度の高い小国」に「深刻な結果」をもたらす可能性があると警告した。しかし実際にはそうならなかった。

アルバーク氏は「我々は偽のレッドライン(越えてはならない一線)を越えても、実際には何も起こらないことを繰り返し証明している」と話す。それでも、こうした脅しは西側諸国がウクライナに自衛に必要な兵器を供与するのを阻止するのに十分だったという。

先週の展開を受けて脅威は再び高まっているが、アルバーク氏は、今回は本当に違うと疑う理由はほとんどないと指摘する。プーチン氏が長く望んでいたとみられるトランプ政権誕生の見通しは、ロシアが脅しを実行する可能性が通常よりもさらに低くなることを意味している。

「ロシアが突然、米国やNATO加盟国が実際に介入するリスクを招く、あるいはこの紛争に対する世界の姿勢を根本的に変える行動に出る(リスク)は比較的低い」(アルバーク氏)

本稿はCNNのクリスチャン・エドワーズ記者の分析記事です。

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