ANALYSIS

歴史戦争――過去の書き換え図るプーチン氏、そこから見えるロシアの未来

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ロシアのプーチン大統領。ウクライナとの関係を巡る「歴史戦」の行き着く先は/Mikhail Klimentyev/Sputnik/AFP/Getty Images

ロシアのプーチン大統領。ウクライナとの関係を巡る「歴史戦」の行き着く先は/Mikhail Klimentyev/Sputnik/AFP/Getty Images

(CNN) ロシアのプーチン大統領が最近、ソ連崩壊後の混乱期にタクシードライバーとして副収入を得ていたことを認め、同氏の過去がより鮮明になった。

プーチン氏は国営テレビのドキュメンタリー用に行われたインタビューの抜粋で、「時には副業でタクシーを運転しなければいけないこともあった」と説明。「これについて話すのは不快だが、残念ながら事実だ」と語った。

実のところ、国家保安委員会(KGB)の将校だったプーチン氏のソ連崩壊後の人生について、この打ち明け話から分かることはほとんどない。1990年代の経済的混乱の中では、ロシア人ドライバーが乗客を乗せて収入の足しにするのはごく普通のことだった。配車アプリ登場前、白タクに乗ろうと思えばただ通りがかった車を止め、料金について決めるだけでよかった。

従って、タクシーを運転していたというプーチン氏の「告白」は全てを率直に語ったわけではない。結局のところクレムリン(ロシア大統領府)はプーチン氏の私生活の詳細について固く口を閉ざしている。ただ、この余談めいた人生のエピソードは、テープを91年に巻き戻し、その後の数十年に関して別の筋書きを描こうとするプーチン氏の包括的な政治目標について何かを語ってはいる。

プーチン氏はインタビューで、「我々は全く別の国に変貌してしまった。1000年をかけて築き上げたものがほぼ失われた」と嘆いた。

ここ数カ月プーチン氏が注力しているのは、近年の欧州の歴史上もっとも重要な章の一つを書き換えること、つまり独立した主権国家ウクライナが91年にロシアの隣に誕生した事実を書き換えることだ。

プーチン氏は6月、全国放送された国民との対話番組で、ウクライナ人とロシア人は「一つの民族」だと宣言。さらに5000語に上る論文でこの主題について詳しく論じ、「ロシア人とウクライナ人の人為的な分裂」を嘆いた。

プーチン氏の主張は突き詰めていえば、ウクライナとロシアはより大きな「歴史的ロシア」の一部であり、91年に独立した現在のウクライナはソ連指導部がつくり出した行政的、領土的境界の産物に過ぎないというものだ。

もちろん、プーチン氏は独立を支持した大勢のウクライナ人には触れなかった。

いや、プーチン氏の見方では、ソ連崩壊後のウクライナはロシアの弱体化を図る欧米の道具となったのである。

「ウクライナは危険な地政学ゲームに引きずり込まれた。その目的はウクライナを欧州とロシアを隔てる障壁とし、ロシアに対抗する足がかりとすることだ」。プーチン氏は論文でそう指摘し、「『ウクライナはロシアではない』との考え方が選択肢でなくなる時が来るのは避けられなかった。我々には決して受け入れられない『反ロシア』の考え方が必要になった」としている。

言い換えれば、プーチン氏はウクライナのレジームチェンジ(体制転換)が必要になった場合に備え、歴史的な正当化を試みているように見える。

プーチン氏が歴史に言及してから数カ月の間に、ロシア軍がウクライナ国境に集結し、侵攻が有力な選択肢であるという明確なシグナルを送る結果となった。

ウクライナの安全保障分析によると、ロシアは国境付近の兵力を12万人に増強。米国はウクライナ付近での兵士や装備品の動きについて、侵攻への準備を示す可能性があるとみて、北大西洋条約機構(NATO)加盟国や欧州のパートナー国と情報共有している。

一方、ロシア大統領府はウクライナ攻撃の計画を否定している。

プーチン氏は今月23日、毎年恒例の長時間に及ぶ記者会見で、集まった国内外の記者にロシアは「いかなる軍事行動も欲しない」と表明する一方、米国やNATOに批判の矛先を向けた。

「我々はNATOの東方拡大がこれ以上あってはならないと直接要請した。ボールは彼らの側にある」。プーチン氏はそう指摘したうえで、「(ロシアとNATOは)まるで別の惑星にいるように感じられることがある」と付け加えた。

これは外交政策の形を取った自己憐憫(れんびん)と呼んでいいだろう。超大国の地位の喪失から、サンクトペテルブルクでのタクシードライバーの副業まで、90年代の屈辱はプーチン氏が掲げる「大ロシア」復興計画を正当化する役を果たしているのだ。

確かに、プーチン氏がウクライナをめぐる不満を示すのは目新しいことではない。同氏は2007年のミュンヘン安全保障会議での演説でも同じテーマに言及し、ロシアの玄関先にNATOを拡大することの不誠実さを指摘するとともに、欧米諸国が裏でウクライナの街頭デモをけしかけていると主張していた。

プーチン氏はアマチュア歴史家の役を務めているのかもしれないが、同氏の歴史記憶が都合のいい部分だけを切り取っていることは疑いない。

ロシア検察はこのところ、ソ連全体主義の歴史の記録と教育に尽力する市民団体「メモリアル」を解散させようと動いている(訳注:ロシア最高裁は28日、メモリアルの解散を命じた)。メモリアルの調査対象にはグラーグの強制労働システムや反体制派の投獄、ソ連で起きた相次ぐ処刑などが含まれる。

ロシアの調査記者ドミトリー・ムラトフ氏は最近のノーベル平和賞受賞演説で、メモリアルを「人民の友」と呼んだが、これはソ連体制の犠牲者の記憶を保存しようと孤独な闘いを強いられることが多いメモリアルの形容として妥当だろう。

メモリアルはロシア政府によって「外国の代理人」に指定されている。

ムラトフ氏はウクライナにも言及し、ロシアによるウクライナ東部の分離主義者への支援は実のところ、両国の友好のチャンスをついえさせたと指摘した。

さらに「一部の正気を失った地政学者の頭の中では、ロシアとウクライナの戦争はもはやあり得ないことではない」「だが私は、戦争が(死んだ)兵士の身元確認と捕虜交換で終わることを知っている」とも語った。ムラトフ氏は1990年代、ロシアからの分離独立を求めたチェンチェンでの紛争を取材した。

とはいえ、プーチン氏がウクライナに侵攻すると決まったわけではない。10月下旬、東欧へのNATO拡大の可能性を阻止するためどのような提案をするかと問われ、プーチン氏は「あなたを失望させてしまうだろうが、その質問の答えはまだ分からない」と述べている。

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