ANALYSIS

次期米大統領が直面する中国の軍事力拡大、最大の対外課題を解説

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天安門広場前を通過するミサイル運搬車両に乗る中国軍兵士=2015年9月3日/Kevin Frayer/Getty Images AsiaPac/Getty Images

天安門広場前を通過するミサイル運搬車両に乗る中国軍兵士=2015年9月3日/Kevin Frayer/Getty Images AsiaPac/Getty Images

香港(CNN) 中国はロシアと並び、米国に最も深刻な軍事的課題を突き付ける存在になる――2018年の米国防総省のリポートは中国を名指しでそう指摘した。そして2年が経ち、その存在は増すばかりだ。

中国政府の急速な近代化計画は、その軍事力を世界の大国と言えるレベルへと進化させた。中国は軍隊をインド太平洋、そしてそれを越えた地域に簡単に展開できるようになった。

今年だけを見ても、中国はインド軍と国境で死者を出す衝突を起こし、人民解放軍の軍用機は台湾や日本の防空空域に度々迫り、南シナ海の係争海域では様々な事案に関与している。

米ニミッツとロナルド・レーガンの各空母打撃群は今年インド太平洋地域で2隻の空母が参加する作戦を実施/Petty Officer 3rd Class Keenan Daniels/US NAVY
米ニミッツとロナルド・レーガンの各空母打撃群は今年インド太平洋地域で2隻の空母が参加する作戦を実施/Petty Officer 3rd Class Keenan Daniels/US NAVY

同時に、太平洋では海軍部隊が訓練回数を増やし、数日の間に複数の海域で5つの演習を行ったこともあった。

中国の活動は米軍の唱える自由で開かれたインド太平洋にとって脅威であり、特に南シナ海ではそうだ。米軍は同海域で貿易が脅しで妨げられることなく、また漁業権や採掘権が国際法や条約に基づき尊重されるべきだと主張する。

米国は間もなく大統領選挙を迎える。だが、次の大統領が誰になろうとも、中国の軍事力の拡大は最も複雑で切迫した対外政策上の懸念の一つとなる。以下、重要なポイントを見ていく。

台湾

台湾はトランプ政権下で米国から受ける支援が増えた。米国の閣僚級の要人が台湾を訪問し、またF16戦闘機などの高性能武器の売却もあった。

専門家は次の大統領が民主党候補のバイデン前副大統領でも、共和党候補のトランプ大統領でも、現在の状況下では台湾への支援を減らす余地はあまりなさそうだと指摘する。

米シンクタンク、ランド研究所のティモシー・ヒース上級研究員は、バイデン氏は中国政府に小さな譲歩をするかもしれないと見ている。閣僚級の訪問をやめたり、今後の武器販売で数を減らし性能の劣る武器を供与することが考えられるという。

だが「誰が大統領選で勝とうと、米国は台湾との友好関係を維持するとともに、台湾を脅し不安定化させようとする中国の動きを批判するだろう」とヒース氏は言う。

中国は台湾を不可分の領土とみなし続けている。中国共産党がこの民主主義が根付く島を統治したことは一度もないが、習近平(シーチンピン)国家主席は大陸部と台湾を「再統一」する野心があることは明らかで、武力行使の可能性も排除していない。

米国の台湾への支援は続く一方、中国も台湾に掛ける軍事圧力は緩めないと専門家は予測する。それは人民解放軍の空軍機の飛来や、近海での海軍訓練の増加といった形で現れ、次期米大統領が誰になろうとも起きるという。

中国のH-6爆撃機が9月に台湾海峡で台湾機によりインターセプトされた/Ministry of National Defence
中国のH-6爆撃機が9月に台湾海峡で台湾機によりインターセプトされた/Ministry of National Defence

「中国は台湾での政治に反応して軍を展開してくるので、中国軍機の台湾空域への飛来は継続し、増加する可能性もあるだろう」。メアリーワシントン大学の政治学・国際関係学部長のエリザベス・フロイント・ラルス氏はオンライン外交誌のザ・ディプロマットにそう語る。

米軍も台湾周辺では活発に活動している。軍艦は今年、台湾海峡を何度も通過し、台湾の周辺海域に展開した軍用機は人民解放軍の動きを監視した。

こうした事態は双方の軍の間で事故や誤解を招く可能性があり、それはさらに大きな紛争に発展する恐れもあると専門家は言う。

南シナ海

中国は広大な南シナ海のほぼ全てに自国の主権が及ぶと主張し、豊富な資源が眠るこの地域で支配権を確立しようと近年活動を活発化。数々の岩礁や環礁を軍事要塞化した島へと作り変え、同海域での海軍の活動を増やしている。

米軍は南シナ海での中国の主張に対抗しようと声を上げ、目に見える形で活動している。

南シナ海では中国以外に少なくとも6つの国が重なり合う領有権を主張している。米国は何ら領有権を主張していないものの、米海軍艦は「航行の自由」作戦を実行。昨年は記録的な頻度で行い、中国が実効支配する島の近くを航行した。

米空母ニミッツとロナルドレーガンから発進した機体が南シナ海上空で作戦を実施/Petty Officer 3rd Class Cody Beam/US NAVY
米空母ニミッツとロナルドレーガンから発進した機体が南シナ海上空で作戦を実施/Petty Officer 3rd Class Cody Beam/US NAVY

米海軍は今年、2隻の巨大な空母を同時に南シナ海に投入した。日本やグアム、米国本土からは空軍の爆撃機や偵察機が南シナ海上空に飛来。中国に対して活動を徹底的に監視しているというシグナルを送るとともに、同地域の同盟国やパートナーに米国の関与を示した。

ヒース氏は誰が大統領になろうと米軍の展開は今後も続くと見ている。

「米軍は南シナ海での軍事演習と航行の自由を守るパトロールを続ける公算が大きい。この海域が米国の安全保障と発展にとって重要なのは、インド洋への軍事的なアクセスを提供し、また商船の航路となっているからだ」(ヒース氏)

米太平洋軍統合情報センターで作戦の指揮官を務め、現在はハワイ大学で教壇に立つカール・シュスター氏は、バイデン陣営は南シナ海での対応方針を明確に打ち出していないと指摘する。

「前副大統領はトランプ氏よりも中国に厳しく対応すると発言する一方で、対立的な構図はより避ける姿勢を示している。それがどういうことなのか明確でない」とシュスター氏は語る。

最後の大統領候補討論会で南シナ海に言及したのはバイデン氏のみで、米軍機は同海域で中国が設定した防空識別圏を通過して飛行すると発言。ただこれは、トランプ政権下で米軍が頻度を増して実行してきた内容だ。

シュスター氏は、バイデン氏がオバマ政権で副大統領として過ごした8年間が原因で身動きが取れなくなる可能性があると警鐘を鳴らす。

同氏は、南シナ海に面するベトナムやフィリピンはオバマ政権の同地域での方針を「言葉ばかりでほとんど又は全く実質的な行動を伴わない」ものと受け取ったと指摘。「バイデン氏がそうした国々から最小限度を越えた協力を引き出したいなら、その印象を払拭(ふっしょく)する必要がある」との見解を示す。

また同氏は、誰が大統領選に勝っても、米国は同調してくれる国々とともに断固とした姿勢で臨むだろうとも予測。もし米国がパートナー国を途中で放り出したら「その国は怒れる中国に一人で対応する羽目になる」と語った。

2つの重要な同盟国

トランプ政権はインド太平洋の同盟国やパートナーへの対応で険しい道とも言える姿勢で臨んだ。

トランプ氏は米軍が駐留する各国に駐留費用を含め防衛予算の負担をさらに要求。これは、アジアで最重要の同盟国である韓国と日本との関係を刺激した。

韓国では今年、米軍の駐留費負担で両国がもめている間、米軍基地で働く韓国人に一時帰休の措置が取られた。最終的には6月に今年の残りの期間をカバーする支払いで合意。来年の新たな費用負担の計画を米韓が一緒に策定することも決めた。

日本との関係はこれより良好で、日本政府は防衛予算の8.3%増を表明。専門家からはトランプ政権からの圧力が要因の一部となったとの声が上がった。

バイデン氏はトランプ氏のように一方的な要求を突きつけるタイプではなく、相手と話し合いで解決するタイプであることで知られる。バイデン政権になれば費用負担の取り組みはより円滑に進むと見られる。

だが前述のシュスター氏は、両国とも国内の圧力が原因で、バイデン政権となっても基地費用は問題となる可能性があると指摘する。

同氏は韓国について、文在寅(ムンジェイン)政権が北朝鮮との関係改善を図りたいことから防衛予算の削減を進めたがっていると分析。日本については、菅義偉首相が防衛予算をステルス戦闘機や空母といった日本の新たな兵器に投じるか、駐留米軍に支払うかの選択を迫られると述べ、「基地費用の交渉は誰が大統領になっても難しいものになる」との見方を示す。

一方、米国がインド太平洋の周辺国との間で日韓と同様の強い連携関係を構築するに当たり、日本がその円滑な進行で役割を果たす可能性がある。

菅首相はこの数週間でベトナムとインドネシアを訪問。南シナ海で領有権を主張するこれらの国々と経済のみならず軍事面でも関係強化を狙った。

神奈川大学で日本の外交政策を専門とするコオリ・ウォレス助教は「この地域にはマレーシア、ミャンマー、インドネシア、ベトナムなど米国との政治的関係において軍事面で敏感な国々がある」「もしこうした国々が将来米軍により門戸を開くことを考えるときは、日本がその円滑化に寄与しそうだ」と語る。

お金

新型コロナウイルスの流行は米国経済に大きな打撃を与えた。中国も影響を受けたが、その立ち直りははるかに早く、軍事力の拡大にはあまり影響がないと予測される。中国の造船所や工廠(こうしょう)はより高性能になっていく軍の装備品を圧倒的なペースで生産している。

米国政府は今、優位性を維持するプレッシャーにさらされている。中国の技術的進展が軍事面にも反映されるようになり、質的な優位性が失われつつあることはここ何年も指摘されている。

たとえば中国の55型駆逐艦はこのクラスの軍艦では世界最高クラスと見られている。またミサイル部隊はその数と生存性で大きく進歩し、グアムや日本の米軍基地、海上の米空母を圧倒的な数と精密さを持つミサイルで攻撃可能な射程範囲に収めている。

シュスター氏は、今後誕生する米政権は冷戦時の米国が抱えた脅威よりさらに大きな脅威に直面することになると語る。

「中国はかつての旧ソ連より深刻な問題となっている。中国政府は軍事力の拡大より先に経済と技術的基盤を構築した。さらに重要な点は、中国が外交的にも経済的にも、かつて旧ソ連があこがれたよりもはるかに巨大で、影響を行使する国際的なプレーヤーとなっている点だ」(シュスター氏)

次期米大統領は、米国が中国と軍事力で対抗し続けられるような産業基盤を持つことに迫られるともシュスター氏は指摘する。「次期政権は公平な貿易政策を通じた米国の産業基盤の再構築と、米国の国家安全保障に何が必須なのかを徹底的に洗い直すことが必要となる」と語る。

だが、新型コロナウイルスが経済に与えた打撃が原因で、次期政権は国防予算を現在のレベルに抑えるか、または削減まで要求される可能性がある。

バイデン氏はさらなる困難に直面する可能性もある。

前述のヒース氏は「民主党内には米国の軍事プレゼンスや軍事力維持への投資を削減し、国内の取り組みにリソースを振り向けるべきだとする強い圧力がある」と語る。

だが、トランプ氏であっても身動きを取るのは難しいかもしれない。

「トランプ氏の軍事面での野心も低い経済成長の影響に直面し、防衛予算を増額しようとしても巨額の財政赤字が制約を課すだろう」(ヒース氏)

照準を向け続けられるか

2018年の米国家防衛戦略ではアジア重視の姿勢が示されたが、米軍の注意はこれまでの慣行と歴史を引きずって、まだ欧州の方に向いていると専門家は指摘する。

「欧州にある米国の同盟国は、その領土と領空の防衛力を増強できる資金力を持っている。彼らに足りないのはそれへの注力だ。米国がそのギャップを埋めてきたのは、欧州への脅威がアジア太平洋で我々が直面していた脅威よりはるかに深刻だったからだ」「その脅威のバランスはもはや正しくない」とシュスター氏は語る。

トランプ氏とバイデン氏、どちらが政権を担っても、アジアを防衛計画の中心に据え続けるのは試練となる。

カーネギー国際平和財団の上級フェロー、アンキット・パンダ氏は「過去の経験から、大統領が中東や欧州地域の問題よりアジア重視を打ち出したくても、そう簡単にいく話ではないことはわかっている。だが、アジアでの緊迫性は依然高い状態だ」と述べる。

ヒース氏は米国の政治的分断は、米国の国益を損ねようと活動する勢力に付け入る隙を与える可能性があるとの見方を示す。

「誰が大統領になろうと、国民の半分は大統領を支持し、もう半分の多くは永続的に大統領に反対する動機付けがされてしまっているだろう。こうなると、危機の際に誤りが許される余地はほとんどなく、政権は政治的支持を失ったり、政治的批判にさらされる恐れに対し極端に慎重な姿勢を取るようになる」(ヒース氏)

シュスター氏は米国の世界的な影響力はアジアにかかっていると語る。「もし中国がここで支配権を確立したら、他の地域でも米国が国益を維持する能力は減退するだろう」

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