トランプ氏が指名受諾演説、コロナ対応を擁護 共和党大会
(CNN) トランプ米大統領は共和党全国大会最終日の27日、同党の大統領候補の指名を正式に受諾した。経済的苦境を記録的な繁栄に回復させると約束し、新型コロナウイルスへの対応を偉大な成功とたたえ、バイデン氏を急進左派の「トロイの木馬」だと警告する4日間の党大会は終幕を迎えた。
メラニア夫人を伴って演壇に上がったトランプ氏は、聴衆からの支持を「光栄なこと」としたうえで、「我々がこれまでともに成し遂げたとてつもない進歩を誇らしく思う。素晴らしい4年間だった。そして今は自信にみなぎっている。我々は米国の輝かしい未来を次の4年間で築いていくだろう」と語った。
事前に予想された通り、新型コロナ対応の問題点には触れなかった。ウイルスを「強力な見えない敵」と呼び、年末までにワクチン製造を約束する明るい未来に有権者の注意を向かわせた。
トランプ氏は「我々は難題に対処している。命を救う治療法を提供し、年末かそれよりも早い時期にワクチンを製造する。ウイルスに打ち勝つ」と語った。
また、コロナウイルスが拡散したのは中国のせいだと述べ、「私を含め多くの米国民が友人や愛する人を失った」と続けた。言及する統計情報を選び、新型コロナウイルスへの対応が統制できているような印象も与えた。
27日時点で、米国の新型コロナによる死者数は18万人を超え、感染者は約580万人で、いずれも世界最多となっている。
これまで専門家の助言を無視や軽視してきたトランプ氏は批判の矛先をバイデン氏に向け、同氏はウイルスに降参したいようだと切り捨てた。「科学に従う代わりに、バイデン氏は国全体に対して痛みの伴う封鎖をしたがっている」と述べ、市民が仕事に復帰し子どもも対面授業を受けられるように各州が経済封鎖を早く解くべきだとの主張を改めて展開した。
本大会ではペンス副大統領や米国家経済会議のカドロー委員長がコロナの流行に言及するとき過去形を使っていたが、大会開幕から3日間での死者数3600人は2001年の米同時多発テロの死者数を超える数値となっている。
ホワイトハウスで無視されたコロナの流行
こうした状況の中で、大会が開かれたホワイトハウスの南庭は驚きの光景が広がっていた。1500人を超えるゲストは近い距離で交流し、自撮りやおしゃべりをしていた。用意されたプラスチックの座席は隣と約15センチしか離れておらず、トランプ政権が定めたソーシャル・ディスタンシングのガイドラインに抵触する。出席者の大半はマスクをつけずに動いていた。
ゲストは事前にコロナウイルスの検査をする必要があるとは通知されていなかった。ホワイトハウスのメドウズ首席補佐官は記者団に「多くの人は検査を受ける」と語っていたが、それがどの人に該当するのかは言及しなかった。
また驚くべき場面は他にもあった。トランプ氏、ペンス氏のロゴを映し出す大型スクリーンはホワイトハウスの有名なトルーマン・バルコニー下の庭に設置され、ステージもホワイトハウスの敷地に作られていた。党大会にホワイトハウスを使わないのがこれまでの慣例だった。
本大会でトランプ氏陣営が政府の資産や式典を選挙目的に使ったのは、ホワイトハウスでの市民権付与、恩赦、公式外遊中のポンペオ氏の演説などの例がある。
警察の暴力と人種的な不安
トランプ氏はバイデン氏を批判する中で、11月の選挙は「アメリカンドリームを守るか、我々が大切にしてきた使命を破壊する社会主義者の政策を許すか」「市民を脅かす暴力的な無政府主義者、扇動者、犯罪者の好きにさせるのか」を決めるものだと主張した。
民主党員はこの国をその罪で処罰されなければいけない邪悪な国と見ているとも発言。「バイデン氏は米国の魂の救世主ではない。米国の雇用の破壊者で、もし当選のチャンスがあれば米国の偉大さの破壊者になるだろう」「47年間、ブルーカラーの労働者から寄付を受け取り、ハグやキスもし、痛みがわかると言っておきながら、ワシントンに戻ると中国や遠くの地に雇用を送り出すことに投票していた」と批判した。
先週の民主党全国大会でバイデン氏らが米国を人種的、経済的、社会的不正の地と攻撃したとも述べて、「自国を多くの時間を使ってけなす民主党がどうやってこの国を率いていこうというのか」と問いかけた。
ウィスコンシン州ケノーシャで黒人男性のジェイコブ・ブレークさんが警官に背後から撃たれた事件や、それに続くデモで17歳の少年が発砲し2人が死亡した事件には言及しなかった。
同日の大会では、カーソン住宅都市開発長官が初めてブレークさんの銃撃事件に触れた。家族への哀悼の意を示し、「我々はまず隣人の市民を愛し団結しなければならない」と述べた上で、「無分別で破壊的な暴力ではなく希望と愛から変化が生まれることを歴史から知っている」と続けた。
カーソン氏は民主党がトランプ氏を人種差別主義者と呼ぶことにも反発し、トランプ政権の下でアフリカ系米国人の失業率は史上最低となり、トランプ氏自身も公私問わず少数派の人々の事業を支援する措置を支持してきたと述べた。
トランプ氏はオバマ前大統領の出生地を疑うバーサー運動や、バージニア州シャーロッツビルでの黒人差別への抗議デモ参加者と白人至上主義者の衝突で双方に「とてもいい人がいる」と発言するなど、扇動的な発言を繰り返してきた。
同日はトランプ氏の顧問弁護士、ルディ・ジュリアーニ氏もバイデン氏を辛らつに批判。米国中の街に無法状態をもたらしたと断じた。またバイデン氏を「トロイの木馬」になぞらえ、最後まで予備選を争ったサンダース上院議員やブラック・ライブズ・マターの運動、民主党左派全体を利する存在だとの見方を示した。そうした人々は木馬の中の兵士さながらにバイデン氏の陰に隠れ、犯罪を肯定し警察に反発するような自分たちの政策を実行に移すべく、じっと機会をうかがっているという。
バイデン氏は27日にCNNの番組で、トランプ氏がバイデン氏の米国では安全ではなくなると発言している点に触れ、今流れている全ての映像はトランプ氏の米国で起きていることだと反論。「彼が公職からいなくなることでこの国ははるかに安全になる」と述べた。
トランプ氏のイメージを刷新
最終日のトランプ氏の演説までの党大会は、コロナ対応や日々の言動などに由来する乱れた一貫性のない大統領職のイメージを刷新しようと、トランプ氏を親切心があり、女性の味方で、人間味と共感する心を備えた人物として描いてきた。民主党が先週描いたバイデン氏の像に対抗しようとしたものと見られる。
3日目にはコンウェイ大統領顧問やホワイトハウスのマクナニー報道官などが登壇し、仕事をする女性を支援するトランプ氏の姿を伝えた。また、様々な登壇者がバイデン氏やその家族が汚職に関わっているとも主張した。ただ、トランプ氏は自身のビジネスからの切り離しを嫌い、娘のイバンカ氏や娘婿のジャレド・クシュナー氏は商業的利益から大きな収入を得るなど、利益相反問題はこの政権にまとわりついた。
ブレークさんの銃撃事件を受けプロバスケットボール(NBA)の選手が試合をボイコットした件では、トランプ氏はNBAを「政治組織」と非難。大会で描いた同氏の姿と現実の違いを示す結果となった。
大会では黒人や他の少数派の登壇者が演説を行い、トランプ氏が人種差別主義者だとの印象に対抗した。だがトランプ氏や党大会は黒人に対する警察の暴力への対応に失敗した。こうした人種の問題が取り上げられたのは、ブレークさん銃撃後の抗議デモを終わらせる必要性によるものであり、同時に参加者が法と秩序を侮辱する人々だと描き出すのに使われる形となった。