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ミステリーあるいはステータス 「バーキン」をめぐる新たな訴訟の理由とは

エルメスの販売手法をめぐり、訴訟が起こされている

エルメスの販売手法をめぐり、訴訟が起こされている/Philippe Wojazer/Reuters

(CNN) エルメスの「バーキン」が極めて手に入りにくいのは違法だ。

フランスのラグジュアリーブランド、エルメスの高級ハンドバッグ「バーキン」の購入を希望する2人の客はそう主張し、3月19日に北カリフォルニア地区連邦地方裁判所にエルメスに対する訴状を提出した。

原告は、エルメスは同社の最高級バッグが持つ独特な魅力と、そのとてつもない需要と品薄から生まれた「驚異的な市場力」を利用して自社製品の価格をつり上げ、利益を増大させたと訴えている。原告はまた、エルメスのバーキンは常に完売で、バーキンを入手するにはまず同社の他の製品を購入しなければならないとし、これは米国の反トラスト法(独占禁止法)に違反する「違法な抱き合わせ販売」に当たると主張している。

バーキンやケリーバッグといったエルメスで最も人気の高いアイテムは、断続的にしか提供されておらず、通常はエルメス製品の購入履歴がある顧客にのみ販売されている。このエルメスの不可解な販売手法は、ファッション界で常に分析されている。最近、動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」や掲示板サイト「Reddit(レディット)」で「エルメスゲーム」の攻略法に関する無数の動画やスレッドが作られ、このエルメスの販売手法もそのテーマの一つとなっている。ソーシャルメディアのクリエーターたちは、慎重に練られた店員とのやり取りを通じてエルメスの高級アイテムを入手する方法を指南している。

エルメスは昨年、英国のファッションメディア「ビジネス・オブ・ファッション(BoF)」に対し、「特定の製品の購入を別の製品を購入するための条件とすることを厳しく禁じている」と述べた。

厳格に管理された販売手法とその希少性により、バーキンはファッション界で人々が常に欲しがる製品の一つとなった。また、バーキン自体が一つの資産クラスとなり、リセール価格が定価の倍以上になることもある。非常に限られた顧客にのみ販売するというエルメスの超排他的ポジショニングのおかげで、他の大半の高級ブランド品の需要が新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)後のピークから減速する中、バーキンの売り上げは好調を維持している。2023年の売上高は前年から21%増加し、純利益も28%増えた。

しかし、このバーキンが原因で、エルメスは法律上のトラブルに直面する可能性がある。

「エルメスゲーム」の攻略法

エルメスも他の多くの高級ブランドと同様に、販売を厳格に管理している。例えばレザーグッズは自社の店舗でのみ販売し、在庫の値引きは決して行わない。特にバーキンやケリーのハンドバッグは、オンラインでは販売せず、店舗に陳列されないことさえある。

エルメスの店舗での対応は都市によって異なる。エルメスの現地スタッフは、需要が供給を上回る同社のハンドバッグの販売方法に関してかなりの裁量が与えられており、順番待ちの顧客に割り当てられることもあれば、店員の裁量で販売されることもある。また他の製品は、特にパリの旗艦店で先着順で販売されているという。顧客の好みは登録されているものの、バーキンについては、購入時に必ずしもスタイルや色を選択できるわけではない。

このようにエルメスの販売プロセスが明確でないことから、誰がバッグを購入しているのか、そしてなぜ購入できるのかについて臆測を呼んでいる。「エルメスゲーム」に関するTikTokやユーチューブの動画やレディットのスレッドでは、エルメスの最も忠実な顧客でさえ1年に限られた回数しか購入できないという、いわゆる「クオータバッグ」の入手方法について詳細に解説されている。クリエーターたちは、購入の可能性を高めるための話し方、服装、買いに行く場所やタイミングについてアドバイスしている。また顧客らもエルメスから販売のオファーを獲得したり、好みのスタイルのバッグを確保したりするために口紅、セーター、サンダル、犬用のベッドにどれだけの額を費やすべきかについて意見交換を行っており、その額は数万ドルに上るとの声もある。

エルメスをめぐる今回の訴訟が将来的にどうなるかは不透明だが、同様な批判を浴びる他の高級ブランドもある/Alex Tai/SOPA Images/LightRocket/Getty Images
エルメスをめぐる今回の訴訟が将来的にどうなるかは不透明だが、同様な批判を浴びる他の高級ブランドもある/Alex Tai/SOPA Images/LightRocket/Getty Images

「靴や枕を買う必要がある(中略)少なくとも900ドル分の商品を購入してエルメスに感謝の意を示さなくてはならない」とあるTikTokユーザーは言う。また別のユーザーはこのプロセスを「エルメスへの忠誠の誓い」と表現した。

一方、他の商品に大金を使うことなく人気のバッグを手に入れたと語る人々もいる。こうした人たちは、うわさになっている入手方法は完全に体系化された方法ではないとし、購入者の中には、恐らくバッグのオファーを何カ月も待ちたくないため、(他の商品を購入して忠誠心を示すという)過剰な行動に出る人もいる、と付け加えた。

エルメスがそこまでする理由

エルメスが毎年生産できるハンドバッグの数には限りがあるため、同社はそれらを誰に提供するか決める必要がある。

英金融大手HSBCの消費者・小売り調査部門のグローバル責任者、エルワン・ランブール氏は「(エルメスは)需要ではなく、供給(量)に基づいて動いている」と述べ、さらに「魔法の杖を振ったら、突然多くの製品を生産できるようになるわけではない」と付け加えた。

このシステムは、エルメスのビジネスにおいて革製品とその他の製品とのバランスを保つのに役立つ可能性がある。エルメスは、絹織り、エナメルブレスレットのペイント、さらにビーチタオルのシルクスクリーンプリントなどの技能に特化した数千人のフランス人職人を雇用しているため、革製品と他製品のバランスの維持は、長年、同社にとって最優先事項だった。

最高級品のバーキンを最大の顧客、つまり最も多く支出してくれる客のために取っておくというのは非常に賢明なビジネス戦略かもしれない。また、同社の神秘性を高める効果もある。

よりバランスの取れた製品構成と、主要製品の購入希望者の長い順番待ちリストは、エルメスが一貫した前年比売上高を維持するのに役立っており、同社の投資先としての魅力も増している。

またバッグ以外の製品を大量に購入する顧客を優先することにより、バッグを転売して利益を得ようとする転売人たちの意欲を削ぐ効果も期待できる。

エルメスの販売戦略は違法か

原告側の弁護団(カリフォルニア州に拠点を置くセタレ・ロー・グループとハフナー・ローの弁護士らで構成される弁護団)は、エルメスは、市場力を悪用し、抱き合わせ販売を行ったり、ある製品の購入を別の製品の購入の条件にしたりすることを禁じる米国の反トラスト法に違反していると主張する。また、販売者は商品の自由な取引を制限できるだけの市場力を有している必要もある。例えばマイクロソフトは、1990年代に同社のオペレーティングシステム(OS)の利用者に自社のブラウザーの利用も強制したとして、同様の反トラスト法違反で起訴された。

原告は、購入者はバーキンのハンドバッグを購入する前に、スカーフ、枕、靴といった付随製品の購入を求められると訴える。また原告の代理人は訴状の中で、エルメスの販売員らは、すでに十分な「購入履歴」や「購入プロフィル」のある消費者にのみバーキンのハンドバッグを販売するよう指示されていると述べている。

また同訴状は、上客のみ優遇する販売スキームの証拠として、エルメスの歩合制についても指摘している。それによると、エルメスの販売員は、バーキンを売っても歩合は受け取れないが、他の製品を売ると受け取れるという。

この点についてエルメスにコメントを求めたが、返答はなかった。

米フォードハム大学ファッション法研究所のスーザン・スカフィディ所長は、上客の優遇は一般的なビジネス手法であり、反トラスト法に違反しないと主張し、一例として、レストランで常連客に最高のテーブルが用意されるケースを挙げた。原告は、エルメスのほぼ全ての顧客がバーキンを購入する前に満たさなければならない特定の条件、例えば一定期間内に一定額の買い物をするとか、一定数の製品を購入する、といった条件が存在することを証明する必要がある。

しかし、バーキンの入手方法については、特に明確な手順はないというのが一般的な認識だ。エルメスのパリの旗艦店に立ち寄った客がバッグを入手できたという話は、同社が抱き合わせ販売を行っているという証明を難しくする可能性がある。また、最近は中古品市場で取引されるバッグも増えており、消費者は正規店での購入以外の方法で入手することも可能だとスカフィディ氏は指摘する。原告の2人の客も、仮にエルメスから直接購入できなくても、ザ・リアル・リアル(中古の高級ブランド品の委託販売を行うオンラインショップ)でバーキンを購入できる可能性がある。

スカフィディ氏は「この訴訟で、原告が勝訴するのは極めて難しいだろう」との見方を示した。

むしろ、エルメスにとってより大きな問題は、この訴訟により、公の注目を避ける傾向にある同社とその販売手法が今後さらなる監視の目にさらされることだろう。

今後の展開

エルメスは、穏便に和解するか、あるいは裁判所への提出書類という形で公式声明を出すか、いずれかの方法で訴状に対応する必要がある。この事案が裁判にかけられるか否かは、原告が証言や証拠集めにどれだけ時間と金をかけるかにもかかっている。原告が起こしたのは集団訴訟であるため、彼らはエルメスから同様の扱いを受けた集団の代表者であるとの認定を裁判所から受ける必要がある。

一方、エルメスは、顧客や販売員たちに同社の販売手法は合法であると説明して安心させつつ、裁判が長引き、同社のビジネス手法の詳細が明るみに出るのを回避する必要がある。ただ、この訴訟は大半の投資家にとっては大した問題ではない、とHSBCのラムブール氏は言う。

革製品を制作する職人=2018年5月、フランス・アランジョワ/Sebastien Bozon/AFP/Getty Images
革製品を制作する職人=2018年5月、フランス・アランジョワ/Sebastien Bozon/AFP/Getty Images

しかし、この訴訟がファッション業界にどれほどの影響をもたらすかを判断するために、業界全体が訴訟の成り行きを注視することになるだろう。エルメス以外の高級ブランドは、自分たちの販売手法が抱き合わせ販売の法的な定義と合致する可能性があるかを見極めようとしている。

ファッション業界は顧客の忠誠心の上に成り立っており、上得意客は特別なイベントに招待されたり、限定品を購入できたりといった特典を定期的に受けられる。一部の高級ファッションハウスは、多くの商品を特別な顧客にのみ販売しているといわれているが、逆に高級腕時計のブランドは、売り物の時計の数を上回る顧客に対応するため、さまざまな戦略を見いだす必要がある。

ランブール氏は「高級品を買うのは上客クラブのメンバーになるのが目的」とし、「上客クラブとはそういうもの。誰でもメンバーになれるならクラブの意味がなくなる」と付け加えた。

結果はどうあれ、今回の訴訟により、高級ブランドが販売している商品だけでなく、その販売手法も今後監視が一層強化される。かつてはひそかに行われていた取引が、今では公の(法的な)議論のテーマとなっている。

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