第2次大戦の退役軍人が8歳児の身元を盗んでいた 動機は謎

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

DNA検査で判明、退役軍人が8歳児の身元盗んでいた

(CNN) 第2次世界大戦で名誉戦傷章を授与され、妻と3人の子どもと暮らしていた退役軍人。しかしその彼は1964年に行方をくらまし、全米を転々とした上、何年も前に亡くなっていた8歳男児の身元情報を盗み取った。

この事件は10年以上にわたり捜査関係者を困惑させていた。米連邦保安官のピート・エリオット氏は「オハイオ州北東部で最大級の謎」と形容している。

しかしDNA検査の助けもあり、最近になって事件のピースは一部がそろった。

以下ではこの複雑な物語を初めから追っていく。

盗まれた身元情報

2002年、当時76歳だった「ジョセフ・ニュートン・チャンドラー3世」を名前に持つ男性は、オハイオ州クリーブランド近郊のアパートでドアと窓に鍵をかけた。そしてエアコンを切り、カレンダーの日付に印をつけた上で、バスルームに入って自殺した。

警察が遺体を発見したのは約1週間後。しかし夏の暑さで遺体は腐敗していた。遺体から指紋を採取することはできず、そのまま火葬に付された。

ジョセフ・チャンドラー君の死を伝える1945年12月の新聞記事/WEWS
ジョセフ・チャンドラー君の死を伝える1945年12月の新聞記事/WEWS

警察が「ジョセフ・ニュートン・チャンドラー3世」の名前でデータベースを検索したところ、男性が8歳男児の身元情報を盗んでいたことが判明した。この男児は1945年の交通事故で両親とともに死亡していた。

「ジョセフ・チャンドラー君は自分の人生を生きるチャンスに恵まれなかったが、別の何者かが代わりに彼の人生を生きた」(エリオット氏)

チャンドラーの名で通っていたこの男性は、電気技師や製図工として働いていた。同僚の間では、変わり者で高度に知的だが、家族も友人もいない孤独な人間との評判だった。

知人らは男性が「やつらが迫っている」といって姿を消し、数日から数週間後に自宅に戻ってくることがあったと証言する。

男性はアパートのスーツケースに荷物をまとめておき、いつでも姿を消せる態勢を整えていた。死亡時には銀行口座に8万2000ドルが残されていた。

エリオット氏は「彼が何から逃げていたのかは分からない」と話す。

殺人鬼「ゾディアック」か、D・B・クーパーの名で知られる謎のハイジャック犯ではないかとの説も出た。しかし実際のところ、チャンドラー君の名前と身元情報を盗む前の男性の正体は誰にも分からなかった。

やがて事件は迷宮入りした。

突破口

「ジョセフ・チャンドラー3世」の身元を盗んだ男性の若い頃の写真/WEWS, U.S. Marshals
「ジョセフ・チャンドラー3世」の身元を盗んだ男性の若い頃の写真/WEWS, U.S. Marshals

新たな手がかり浮上したのは2014年。米連邦保安官が事件を引き継いだときのことだ。男性が死の2年前に病院を訪れており、そこで組織のサンプルを採取されていたことが判明した。

医師らは家系調査やDNA検査といった新手法の助けも借りつつ、数十年にわたりチャンドラーとして生きていた男が「ニコラス」か、それに近い名字を持っていたことを突き止めた。

この手がかりを受け、最終的には18年3月に当局者が男性の息子にたどり着いた。2人のDNAは一致しており、そこから全ての線がつながった。

ジョセフ・チャンドラーとして知られていた男性の真の名前は「ロバート・アイバン・ニコルズ」。第2次大戦で従軍したインディアナ州生まれの海軍退役軍人で、失踪時には妻と3人の子どもを後に残していた。

息子のフィル・ニコルズさんは記者会見で「写真を見た瞬間、彼だと分かった」と明かした。

男性は1945年に乗り込んでいた艦船が爆撃を受け、名誉戦傷章を授与された。家族によれば、軍服は後日になって燃やしている。64年、男性は妻に家族を捨てる、理由は「いずれ」分かると告げた。

ロバート・ニコルズ氏が1965年に両親宛てにオクラホマ州ストラウドから送ったはがき/WEWS, U.S. Marshals
ロバート・ニコルズ氏が1965年に両親宛てにオクラホマ州ストラウドから送ったはがき/WEWS, U.S. Marshals

はがきや手紙からは、男性がその後、ミシガン州やオクラホマ州など全米を転々としていた様子がうかがえる。65年にはカリフォルニア州から息子宛てに、1セント硬貨を同封した手紙が送られてきた。男性から家族に連絡があったのはこれが最後だった。

フィルさんは「憎しみは全く持っていない」「どこかで幸せな人生を見つけていてくれることをいつも願っていた」と語る。

男性の両親は失踪届けを出したものの、カリフォルニア州とインディアナ州の当局による捜索の試みは成功しなかった。

解決の糸口となったのは近年の家系追跡技術の発展だ。エリオット氏によれば、法医学的な家系追跡の専門手法が使われたのは、米連邦保安官局の歴史上この捜査が初めてだった。

今なお残る謎

ロバート・ニコルズ氏は1978年にジョセフ・チャンドラー君の出生証明書を手に入れた。続けてサウスダコタ州で社会保険証も入手。記録によれば、この年のうちに、チャンドラー君の身元情報を使ってオハイオ州で電気技師として働き始めた。

ロバート・ニコルズ氏の身分証明書の写真/WEWS, U.S. Marshals
ロバート・ニコルズ氏の身分証明書の写真/WEWS, U.S. Marshals

カリフォルニア州からオハイオ州に移る間のニコルズ氏が何をしていたのか、どこに住んでいたのかは依然として謎だ。エリオット氏はニコルズ氏が家族を捨て、新たな身元を名乗るようになった背景に、何らかの不穏な理由があった可能性を示唆する。

「彼は1965年に失踪し、78年には亡くなった8歳児の身元を名乗った上、長年に及ぶ潜伏生活に入った。家族に2度と連絡をとらなかったのには理由がある」

しかしエリオット氏によれば、男性にはロバート・ニコルズとしてもジョセフ・チャンドラーとしても犯罪歴がない。

男性は生前も死後も発見されるのを望んでいなかった。エリオット氏は、姿を消す前の男性を知っていた人物がいれば、謎めいた失踪の鍵を握っているかもしれないとの見方を示す。

捜査関係者は65年から78年にかけてのニコルズ氏の所在や、家族を捨てた理由を突き止めるため、市民に情報提供を呼びかけている。

「この謎の前半部は解けた」「しかし後半部については、皆さんの力添えをお願いしたい」(エリオット氏)

「米国」のニュース

Video

Photo

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]