「他人の野心のために死にたくない」 国境に押し寄せるロシア男性、動員令で窮状

フィンランドとロシアを結ぶ検問所に並ぶ車両=24日/Roni Rekomaa//EPA-EFE/Shutterstock

2022.09.26 Mon posted at 15:49 JST

(CNN) ロシアとカザフスタンの国境を隔てる検問所。23日夜、緊張感が漂う中で、車の長い行列ができていた。

ロシア中部エカテリンブルクから来たエンジニアのアンドレイ・アレクセーエフさん(27)は、プーチン大統領の動員令を受け、出国を目指す行列に並んだ大勢の男性の中の1人だった。

車はロシアとカザフスタンの国境検問所を通過する必要があり、それぞれ2時間ほどかかった。

21日朝、目が覚めてプーチン大統領の動員令のニュースを見たアレクセーエフさんは、出国を決意した。その夜、仲間と会って次の行動について話し合い、一切のリスクは避けようと決めて、計画もないままロシアを離れることにした。

プーチン大統領は24日、兵役に関する法律を成立させ、兵役逃れには禁錮10年以下、戦時の脱走に対しては同15年以下の罰則が定められた。

法改正に伴い、ロシア刑法には「動員、戒厳令、戦時」の概念が導入された。プーチン大統領は、大学生の徴兵を猶予する政令にも署名した。

国境では男性全員が、軍に所属しているかどうかなどを尋ねられたという。「それでも国境警備員はよく分かってくれていると感じた。しかし、別の検問所から国境を越えてカザフスタンに向かい、過酷な質問を浴びせられて通過に7時間かかった友人もいる」とアレクセーエフさんは話す。

プーチン大統領が成立させた動員令は、21日の演説で示唆したよりも広範な動員を可能にする内容のようだ。演説では、動員はしないとしていた当初の約束に反して、30万人の予備役を前線に送ると述べていた。しかし政令そのものでは、動員できる人数に上限は設けていない。

フィンランドの検問所に向かうロシアからのバスの乗客

「動員は『部分的』とされているが、この部分性については、地理的にも、基準に関しても、何の数値も明記されていない」。ロシアの政治科学者エカテリーナ・シュルマンさんは自身のSNSでそう指摘した。「この文言に従えば、軍事産業関連の労働者を除き、どんな人でも徴兵できる」

ロシアの18~60歳の男性は、ウクライナに侵攻したプーチン大統領の戦争に予備役として動員される可能性がある。

アレクセーエフさんは、妻と共にカザフスタンに入国したものの、国境の町のホテルがどこも満室だったことから、車で首都アスタナへ行き、住む部屋を探し始めた。「3日前まで、自分がカザフスタンでアパートを探しているなんて思いもしなかった。2カ月滞在してから多分ウズベキスタンに行って滞在期間を更新する。多国籍企業で仕事を探すつもりだ」

やはりカザフスタンの国境経由でロシアを脱出したキリル・ポノマレフさん(23)は、プーチン大統領の演説の前夜から出国のためのチケットを予約しようとしてという。

「前の晩はプーチン大統領の演説を待ちながら、何らかの理由でチケットを買えなかった。それからチケットを買わないまま眠ってしまい、目が覚めたら値段が跳ね上がっていた」(ポノマレフさん)

国境に押し寄せた男性たちは、テレグラムのチャンネル経由や友人同士で情報を交換し合った。ロシア発の片道航空券は、発表から数時間で売り切れた。

ロシアと国境を接する欧州連合(EU)5カ国のうち4カ国は、ロシア人が観光ビザで入国することを禁止した。ロシアから陸路で国境を越えて旧ソ連のカザフスタン、ジョージア、アルメニアへ向かう行列は、24時間以上も続く。

フィンランドの空港に到着し、ロシア・サンクトペテルブルクからのバスから降りる乗客=24日

ロシア政府はこうした国民の反応を「ヒステリックで感情的過ぎる反応」とあざ笑った。

60歳以下の男性は誰もが招集される不安に駆られているが、動員は特に貧困地域や少数民族が多い地域に偏っている。自由ブリヤート財団の代表は、「ブリヤート共和国では動員は部分的ではない。誰もが動員されている。招集状は学生にも、年金生活者にも、たくさんの子どもがいる父親にも、障害者にも届いている」と証言した。ガソリンスタンドにいたところ、突如として通りかかった徴兵バスに押し込まれて連れ去られたタクシー運転手もいたという。

ロシア国内に残る男性も外出に慎重になっている。サンクトペテルブルク在住のキリルさん(27)は、転居を考えていると打ち明けた。「戦争へ行くことも刑務所へ行くことも、できれば避けたい」というキリルさんはウクライナ人のハーフ。戦争に行ってウクライナ人を殺害することなど想像できないと語った。

国外滞在中に動員令のニュースを聞いたという人もいる。イリヤさん(35)は家族と共に休暇でトルコに滞在中、ロシア国内にいる同僚から、オフィスに自分宛ての招集状が届いたことを知らされた。

妻と子どもはロシアに帰国したが、イリヤさんはトルコに残った。「私は戦争は望まない。他人の野心のために死にたくない」と訴えるイリヤさん。「家族にいつ再会できるか分からない」と肩を落とす。

イリヤさんは何年も前、ロシア軍にいたことがあるため予備役とみなされる。「途方に暮れて、どうすればいいのかも、遠く離れた家族をどう養えばいいのかも分からない。突然の決断を強いられて多額の借金を抱え、ただ精神的に疲れ果てた」

ロシア政府がウクライナで戦争を始めて以来、対ロシア経済制裁によって国際取引はほぼ不可能になった。イリヤさんは、家族と再会したいと語った。

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