台湾総統、米軍訓練教官の存在を認める 中国の脅威は「日々」増大

台湾の蔡英文総統がCNNの独占インタビューに応じた/John Mees/CNN

2021.10.28 Thu posted at 18:15 JST

台北(CNN) 台湾の蔡英文(ツァイインウェン)総統は26日、CNNの独占インタビューに応じ、中国からの脅威が「日々」増大しているとの認識を示し、台湾における米軍の存在を初めて認めた。米中間の緊張が高まる中、台湾はその中心に位置している。

蔡総統は台湾は民主主義の「灯台」であり、民主主義の価値観に対する世界中の信頼を支えるために守られる必要があると述べた。台湾は中国南東部の海岸から200キロ足らずの距離にある。

蔡総統は「この人口2300万人の島は日々自分たちを守り、自分たちの民主主義を守ろうとしている。我々国民が自分たちにふさわしいと考える種類の自由を保持する状況を確実にしている」「もし我々が失敗すれば、こうした価値観を信じる人々が、これが自分たちが戦う(べき)価値観なのだろうかと疑念を抱くようになる」と語る。

台湾と中国本土は70年以上前の内戦終結時に国民党が退却して以来、別々に統治されてきた。台湾は今、繁栄した民主主義国家となっている一方で、本土の中国共産党は台湾を不可分の領土とみなしている。ただ、同党が台湾を支配したことは一度もない。

現在、台湾と中国の関係はこの数十年で最も冷え込んでいる。今月上旬には記録的な数の中国軍機が台湾周辺の空域に飛来した。中国の外交関係者や国営メディアからは、台湾が中国共産党の方針に従わない場合の侵攻の可能性を警告する声も出た。

軍事力の誇示が行われる背景の一つにはトランプ前米政権やバイデン現政権下で進む米台間の関係強化がある。大規模な武器の売却や米高官級当局者の訪問は、台湾の国際的な立場を補強する一方、中国政府の反感を買った。

蔡総統はCNNとのインタビューで、この数十年で総統として初めて、訓練目的で台湾に米軍が存在することを認めた。米軍は1979年に撤退し、同年、米国は公式な外交上の承認を台湾から中国へと切り替えた。ただ昨年になって、米軍の小規模な展開について示唆する報道も出ていた。

米軍は昨年早く、米陸軍特殊部隊の訓練教官が台湾にいることを示す動画を投稿し、その後削除した。昨年11月には、台湾国防部(国防省)が米軍が台湾で現地兵士を訓練していると一時発表したが、その後地元メディアに対して否定した。

蔡総統は台湾に現在存在する米軍要員の正確な数には触れなかったものの、「人々が思うほど多くはない」と述べ、「我々の防衛能力強化のため米軍と幅広い分野で協力している」とも語った。

中台間の緊張高まる

貿易交渉担当や法学教授の経歴も持つ蔡氏は2016年、台湾総統選で歴史的な勝利を収めて初の女性総統になった。選挙前には中国本土との関係強化を図っていた国民党に学生らが大規模な抗議運動を起こす動きもあった。

蔡総統が今週、CNN取材陣とともに台北市内を歩いた際には、市民数百人が手を振り、総統に声を掛ける様子が見られた。仕事ぶりへの感謝を伝えたり、自撮り写真を一緒に撮って欲しいとの声が掛かった。

だが蔡政権はこれまで、台湾海峡の対岸から容赦ない攻撃とあざけりを受けている。蔡氏就任以降の中台関係は急速に悪化している。

中国政府は蔡氏と同氏の所属する民進党が台湾の正式な独立を志向していると考えている。一方、蔡氏が公に発言してきたのは現状維持の志向であり、台湾が正式な宣言をせずに自治を続ける状況だ。

過去の政権下で発展してきた中国との経済的、外交的な関係はもつれ、中国軍は台湾に軍事的圧力を強める状況となっている。

台湾国防部によると、中国は今月に入り最初の5日間で合計150機の戦闘機、核兵器搭載可能な爆撃機、対潜哨戒機、早期警戒管制機を台湾の防空識別圏(ADIZ)に進入させた。

これは中国政府が入念に実行した示威行為で、台湾からの反応を引き出す空域にまで進入するものの、台湾の領空には入らなかった。

こうした動きは米台関係強化のさらなる兆しが見えた後に発生した。米政府は8月に7億5000万ドル規模の武器売却を発表し、同月には米国率いる日米豪印4カ国による協力の枠組み「クアッド」の外交政策グループが台湾支持の声明を出した。

中国の習近平(シーチンピン)国家主席は今月8日、中台間の「平和的な再統一」を再び誓った。この演説で侵略に関する言葉はなかったが、習主席は以前、軍事行動の排除を拒んだことがある。

中国の国務院台湾事務弁公室は27日、中国が再統一を追求する中で実力行使の権利を留保していることを確認した。

中国との対話に応じる姿勢

自分は内向的と語る蔡氏だが、その姿は台湾の防衛に情熱を傾け、国民を力強く支持する人物として映る。

台湾の建国記念日に当たる「双十国慶節」を迎えた今月10日、蔡総統は増大する中国軍の動きを念頭に、「中国が自国のために引いた道」に台湾を乗せようとすることはできないと言明。「台湾国民が圧力に屈するという幻想を断じて抱くべきではない」と語った。

蔡総統は26日のCNNとのインタビューで、日本や韓国、オーストラリアを含む地域の民主主義国家のパートナーに対して、台湾への支持で支援をするように要請した。

「独裁主義の政権が領土拡張論者の傾向を示す中、民主主義国家は団結して彼らに立ち向かうべきだ。台湾はその最前線にいる」と蔡氏は語る。

蔡氏は昨年、高い得票率で再選された。2期目の蔡政権は台湾軍の近代化を急速に進めたいと考えている。

8月にはF16などの戦闘機の購入に14億ドル支出すると発表。昨年12月には軍が台湾製の潜水艦8隻の建設を始めた。

蔡総統はCNNに対し、政府は軍を従来のような戦闘部隊ではなく、小さな島の防衛に適するような形へと調整する必要があると述べた。

「我々は中国から受け継いだシステムがあるが、そこは(我々とは)大きく異なる国だ。大きな国土を防衛する方法と小さな島を防衛する方法は違う。だから我々は軍の構築方法について従来の考え方を変える必要がある」(蔡総統)

一方で、蔡総統は中国政府との関係改善の可能性も捨ててはいない。習主席が望めば協議の席に着くとの姿勢を示し、「習氏に台湾の政府や国民ともっと話し合い、台湾がどのような状況なのかについてより感触をつかむように促したい」と語る。

また「我々が中国側との対話を望んでいて、それが中台関係の管理における誤解や計算ミス、判断ミスを避ける最良の方法だと繰り返し述べてきた」とも付け加えた。

人民大会堂で演説する中国の習近平国家主席=10月9日

「米国は我々の防衛に来る」

米国と地域のパートナー国との間に、有事の際の台湾支援を保証をする条約は存在しない。それでも、中台間の緊張関係が高まりを見せる中、いくつかの国々が台湾への支持を表明している。

日本の岸信夫防衛相は9月中旬のCNNのインタビューで、「台湾で起こることは直接的な問題として考えている」と述べ、日本政府がこの地域を通過する貿易ルートの安全保障上の脅威に対応する考えを示した。

バイデン米大統領は先週CNNが開いた対話集会で、中国が侵攻してきた場合に米国は台湾を守るかとの質問に断固とした姿勢を示した。

バイデン氏は「我々はそれを行う約束がある」と発言した。だが、その後ホワイトハウスはバイデン氏の発言からトーンダウンした内容を発信している。蔡総統はこの点、米大統領の真意について人によって「異なる解釈」があるとの考えを示した。

蔡総統はもし台湾が中国から侵攻を受けた場合、「我々の長期にわたる米国との関係を前提にすれば」米国や他の地域の民主主義国家が支援に来るだろうと信じていると述べた。

「台湾は民主主義国家であり、孤立していない。我々は自由を尊重し、平和を愛する。そしてこの地域の大半の国々と価値観を共有し、地理的にも戦略的重要性を有している」と発言。世界の半導体のサプライチェーン(供給網)における台湾の主導的な役割や、台湾の安全維持に地域の大国が「共通の利益」を有している点を指摘した。

台湾が軍事的支援を受けずに防衛可能かとの質問には、台湾が「できるだけ長期間」自らを防衛するものの、「我々の友人や同じ考えを持つ国々からの支援を得られることが重要だということを改めて強調させてもらいたい」と答えた。

台湾の防衛は軍事力だけの話ではない。米国は台湾への支持を強める一環で、国際機関への台湾の参画拡大を強く推進し始め、特に国連で後押ししている。

ブリンケン米国務長官は25日にツイッターで、台湾は「非常に重要なパートナーであり、民主主義のサクセスストーリーだ」と述べ、国連での役割拡大を求めた。国連の台湾の議席を1971年に取って代わった中国政府は、その後台湾を国際社会の舞台の大部分から締め出すことに成功している。

蔡総統によると、国連での役割拡大は台湾政界で党派を問わずに掲げられる方針となっている。それが中国を怒らせても気にしないと蔡氏は語る。

「我々は国連システムの一員になりたいとの希望を表明してきた。中国には自分の主張がある。あとは国際社会が判断することだ」(蔡総統)

「習政権の中国は『より野心的』」

蔡政権の登場時期は中国政府が主張を強める姿勢を鮮明にしてきた時期と重なる。習主席はこの数十年で最も強力な中国の指導者と考えられている。

習主席は2017年以降の2期目で、世界での中国の立ち位置を変化させ始めた。中国軍は規模の拡大や近代化を進め、海軍の艦隊は規模の点で米軍を追い抜いた。

今週に入り習主席は会議で、軍が兵器開発で「新たな境地を切り開く」必要があると発言した。

同時に習政権の外交政策の目標設定は、「戦狼外交」として知られる猛烈に国家主義を追求する外交官が昇進する状況をもたらした。こうした外交官は、論争が激しく交わされる微妙な問題で声高らかに中国の姿勢を擁護する人物を指す。そうした動きの中、台湾は中国政府の中で最も越えてはならない一線に当たるとよく言われている。

蔡総統はより力を増す隣国からの脅威を認識していて、「(彼らは)より野心的になり、より拡張論を唱えるようになってきている。従って、以前は受け入れ可能だったものが今は受け入れられない可能性がある」と述べた。

それでも蔡総統は、両者に政治制度の違いがあっても、両政府が平和的に共存できる道はまだあると信じている。

「もし我々が席に着いて、我々の違いについて話し合い、平和的な共存のための準備に向けて行動できたならどうだろうか。私はそれこそが台湾、中国、そしてこの地域の人々の期待であると思う」(蔡総統)

蔡総統は、中国共産党がこの地域や世界の他の地域とどういう関係を構築したいのかを決める時期が迫っていると語る。

「習氏は地域や世界の人々と平和的な関係を築きたいのか、それとも全員が彼や中国の言うことを聞くような支配的な地位を得たいのか」と蔡氏は指摘する。

中国国内の民主主義に対する希望も蔡氏は捨ててはいない。ただ、習政権の下での情勢はより独裁的な運営色が濃くなっている。

蔡氏は「民主主義はときに混乱し、厄介で、対立する。それでも最後には統治の最良の方法を見つけ出し、人々が平和に共存できるような社会秩序を確立する最良の方法を見いだす」と語る。

法律上、蔡総統は2期までしか務められない。24年1月までの残り2年半の任期で、やるべきことはたくさんある。

優先項目には台湾の世界との連携を強め、他国政府による分断の試みに負けないように台湾社会を強化することが含まれる。

蔡氏は自分が人々をより「団結させた」指導者として記憶に残れたらと語る。

「この場所を守り、この場所をより安全で回復力の強いものにすることに最大限努力した人物として記憶されたらと思う」(蔡氏)

中国の脅威は「日々」増大、台湾総統語る

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