虫が「兵器」に? 米軍出資の研究、生物テロへの悪用を懸念する声

干ばつなどに対する作物の耐性を高めることが狙いと説明しているが、一部から懸念の声も出ている/Getty Images

2018.12.16 Sun posted at 18:17 JST

(CNN) 成長した農作物の遺伝子を組み替える新たなバイオテクノロジーについての米軍の研究プロジェクトに対し、一部の科学者から懸念の声が上がっている。研究資金を出す「国防高等研究計画局(DARPA)」は、プログラムの狙いは食料供給の安全性を確保することだと説明する。

だが、このプロジェクトは「敵対的な目的のための生物学的因子や、その運搬手段を開発する取り組み」と受け止められかねず、生物兵器禁止条約違反に当たる可能性がある――。独マックス・プランク進化生物学研究所の遺伝学者、ガイ・リーブス氏らは米科学誌サイエンスの論説でそう指摘する。

物議を醸している「運搬手段」というのは虫のことだ。特に、農作物の遺伝子を編集する能力を持つウイルスに感染した虫のことを指している。

パラダイムシフト

この「インセクト・アライズ・プログラム」は突き詰めて言うと、遺伝子組み換えのプロセスを加速させることを狙いとしている。

遺伝子組み換え食品をつくる際には通常、農学者が実験室内で種子の染色体にDNA改変を施す。組み替えられた遺伝子は、成長した植物の新たな形質として発現する。これは遺伝子の垂直伝播(でんぱ)として知られる現象で、新たな形質が次世代に受け継がれていくことから呼び名が付いた。

一方、DARPAのプロジェクトでは「水平的、環境的な遺伝子改変因子」を利用。虫などが遺伝子組み換えエージェントの役割を果たしている。染色体の遺伝子を編集する能力を持たせたウイルスを虫が運ぶ仕組みで、疾病や干ばつに対する作物の耐性を高めることが目的だ。

研究の概要を示した図

リーブス氏らの視点からすると、水平的遺伝子改変の因子を生態系内に拡散することの意味合いは「深刻」で、特に虫を使った運搬システムの場合はなおさらだ。

論説では「どの植物や土地が遺伝子組み換えウイルスに感染したのか、常に確定できるとは限らない(虫の動きや農作物のウイルス感染のしやすさには不確実性が伴わざるを得ないため)」と指摘。さらに、こうしたバイオテクノロジーは単純化され、作物種への伝染が極めて容易な「新手の生物兵器」を生み出すのに利用されかねない、言い換えれば、農作物を根絶する攻撃に使われかねないと警告している。

「デュアル・ユース」

一方、DARPAの報道責任者ジャレッド・アダムス氏は、論説の一部の主張には同意できないと主張する。DARPAそのものは研究は行っておらず、資金を提供している。

ただしアダムス氏は、技術の「デュアル・ユース」の可能性に関しては懸念を共有する姿勢も示した。米政府の定義では、デュアル・ユースとは商用と軍用の両方に利用できるモノや技術などのことを指す。

デュアル・ユースの可能性に関する懸念を踏まえ、DARPAではインセクト・アライズ・プログラムを「透明性を持った大学主導の基礎研究」として構成しており、規制当局者や倫理学者の積極的な参加も受け入れているという。

プログラム・マネージャーを務めるブレーク・ベクスタイン氏は声明で、主要作物を守るための現在の手法や技術では、米国の食料安全保障を危機に陥れかねない深刻な脅威に迅速に対応できないと指摘。ありうる危機として、干ばつや洪水および「敵による意図的な攻撃」を挙げた。

遺伝子編集技術は「パンドラの箱」か?

アダムス氏は、インセクト・アライズの技術が成功した場合、その応用の是非や方法を決めるのはDARPA以外の機関になると強調する。将来的な実用化の際には、規制当局による通常の承認手続きを経る必要も出てくるという。

ただ、リーブス氏らの懸念は変わらない。

たとえDARPAの資金が引き上げられたとしても、この技術に象徴される「パンドラの箱」が閉じることはないのではないか――。そう警鐘を鳴らしている。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。