ICCに拘置のフィリピン前大統領、地元市長選で圧勝 就任の可能性は

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選挙集会で話すドゥテルテ前大統領=2月、フィリピン・マニラ首都圏/Eloisa Lopez/Reuters/File

選挙集会で話すドゥテルテ前大統領=2月、フィリピン・マニラ首都圏/Eloisa Lopez/Reuters/File

(CNN) フィリピンの中間選挙で、ロドリゴ・ドゥテルテ前大統領(80)が地元・南部ダバオの市長選を大差で制した。ドゥテルテ氏は人道に対する罪の疑いで逮捕され、現在オランダ・ハーグの国際刑事裁判所(ICC)に拘置されている。市長への就任を認められ、職務を遂行できるのかどうかは定かでない。

ICCの検察官によると、ドゥテルテ氏は大統領時代、罪のない市民ら数千人が死亡したとされる「麻薬戦争」を率いた疑い。本人は麻薬取り締まりの成果を強調する一方で人権侵害の容疑を否定し、国外の裁判所には従わないと繰り返し表明してきた。

次回の審理は9月の予定。だが専門家によれば、その前にICCとフィリピン司法当局の間で、同氏の市長就任を認めるかどうかをめぐり新たな法律論争が展開される見通しだ。

ビデオ通話などで代理人を通して就任宣誓する形も考えられるが、ICCの承認が必要だ。

たとえ就任が認められたとしても、遠く離れた拘置施設からどのように職務を遂行するのかという問題がある。施設内でコンピューターを使ったり、家族に電話をかけたりすることはできるが、インターネットにはつなげない。

フィリピン国内法によると、日常の職務は副市長に選出された次男、セバスチャン・ドゥテルテ氏が代行することも考えられる。

父ドゥテルテ氏の就任宣誓が許可されなければ、次点のカルロ・ノグラレス氏が繰り上がる可能性もある。ドゥテルテ家とノグラレス家は長年、ダバオで主導権を争ってきたライバル同士だ。

アテネオ大学ダバオ校の元教授で政治アナリストのラモン・ベレノ氏は、ノグラレス氏を繰り上がらせれば、ドゥテルテ家がまた別の法的手段に出る可能性もあると指摘する。

ドゥテルテ氏の「有終の美」か

ドゥテルテ氏は国内で今も強い力を持つと同時に、世論を二分する存在でもある。ダバオでは、2016年の大統領就任まで20年以上にわたり市長を務めた。熱心な支持者らは、同氏の容赦ない政策によって法と秩序が強化されたと主張する。

フィリピンの民放大手、ABS―CBN放送は同氏の弁護士ニコラス・カウフマン氏の発言として、ドゥテルテ氏が選挙で「圧倒的な支持」を受けたことは、同氏の功績を政府が「打ち消そうとする企み」を、国民が「全面的に拒否」する意思を示しているとの見方を伝えた。

ベレノ氏は、有権者が今回の選挙をドゥテルテ氏の「有終の美」ととらえ、同氏に最後の敬意を表して票を入れたと主張。同氏が逮捕されたことで、有権者の熱意はさらに強まるばかりだったと述べた。

名前を呼んで団結を示すドゥテルテ前大統領の支持者=3月、フィリピン・ダバオ市/Eloisa Lopez/Reuters/File
名前を呼んで団結を示すドゥテルテ前大統領の支持者=3月、フィリピン・ダバオ市/Eloisa Lopez/Reuters/File
「麻薬戦争」の犠牲者の写真と花を掲げる遺族=3月、フィリピン・ケソン市/Aaron Favila/AP/File
「麻薬戦争」の犠牲者の写真と花を掲げる遺族=3月、フィリピン・ケソン市/Aaron Favila/AP/File

ドゥテルテ氏への支持は一族全体にも広がった。

今回立候補したドゥテルテ家の5人は、ドゥテルテ氏本人や次期副市長のセバスチャン氏を含めて全員、大差で勝利した。長男で下院議員のパオロ氏は続投を決め、その息子2人も議員に当選した。

市長への就任を認められるのか

市長選で圧勝したドゥテルテ氏にとって最大の法的ハードルは、不在を強いられた状態で就任宣誓に臨むことが許可されるかどうかだ。

ICC認定の弁護士で人権NGOを率いるジョエル・ブトゥヤン氏によると、選挙の当選者は就任予定の7月1日まで30日以内の期間中に宣誓を行うことになっている。ハーグのドゥテルテ氏はフィリピン大使または領事の立ち会いの下に宣誓しなければならないが、その可能性は低いと、ブトゥヤン氏は言う。

「就任だけのために外出する許可は得られないだろう。ICCに拘置された容疑者の権利として挙げられていないからだ」

オンラインで国際刑事裁判所(ICC)の審理に参加したドゥテルテ氏=3月14日/Peter Dejong/Pool/AP/File
オンラインで国際刑事裁判所(ICC)の審理に参加したドゥテルテ氏=3月14日/Peter Dejong/Pool/AP/File

ブトゥヤン氏はさらに「外国に拘束された身で、市長としての職務を遂行することはできないだろう」との見方を示した。

カウフマン氏は今月初め、ICCに提出した文書の中で、フィリピンはICC条約から脱退しているため、ドゥテルテ氏の容疑に法的根拠はないと主張した。

ドゥテルテ氏は19年にフィリピンをICCから脱退させた。しかしICCは、脱退前までの犯罪には司法権が及ぶとの判断を示している。

政界はこう着状態

今月の中間選挙は、マルコス・ジュニア大統領とドゥテルテ氏の長女、サラ・ドゥテルテ副大統領の代理戦争とみなされて注目を集めた。両氏はかつて盟友同士だったが、現在は対立を深めている。

サラ氏は汚職の疑いをかけられ、下院で弾劾(だんがい)訴追案が可決されたが、本人は否定している。上院議員24人のうち3分の2が有罪と判断すれば、同氏は罷免(ひめん)され、公職への立候補を禁止される。

一方、弾劾の回避には24人中、9人以上の賛成が必要となる。中間選挙では、マルコス派もドゥテルテ派も上院の過半数を確保できなかった。

フィリピン大学の政治学者、マリア・エラ・アティエンサ教授によると、同国政界は選挙の結果、マルコス派、ドゥテルテ派の議員、リベラル寄りの勢力という三つ巴(どもえ)のこう着状態に陥っている。

アティエンサ氏によれば、国民の間では長引く政争に対する不満も募っている。

争いは今のところこう着状態だが、ドゥテルテ氏の支持基盤は今も健在だ。支持者らは、同氏が正式に市長に就任し、公職者として母国に戻る日を待ち望んでいる。

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