「はだか祭り」に女性が初参加、高齢化で男性中心の伝統に変化 日本

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1000年以上の歴史を持つはだか祭りに初めて女性が参加した=2月、愛知県稲沢市/ Chris Gallagher/Reuters

1000年以上の歴史を持つはだか祭りに初めて女性が参加した=2月、愛知県稲沢市/ Chris Gallagher/Reuters

東京/香港(CNN) 1200年以上の歴史を持つ「はだか祭り」。凍てつく真冬に、下帯姿の男たちが、災厄を一身に引き受ける「神男(しんおとこ)」役の男性に少しでも近づこうと、神社で激しくもみ合う。

この神事は、日本の伝統と文化遺産に対する揺るぎない敬意を示している。その一方で、女性を排除し、伝統的な日本の文化では男性だけが純粋だとする主張は、日本が抱える最も深刻な課題の一つである男女不平等の特徴が表れている。

今日に至るまで、日本では男性が最高位の役職に就き、ほとんどの大手民間企業のトップは男性だ。

昨年、世界経済フォーラム(WEF)が発表した「ジェンダーギャップ報告書」で、日本は125位となり、ドイツ、英国、米国などの他の主要7カ国(G7)諸国を大きく下回った。その指数は、男女間の格差が大きいことで知られるインドやサウジアラビアをわずかに上回るものだった。

専門家らによれば、日本ではいまだに女性が「主婦」としての役割を求められ、その根強い文化的な期待に抵抗する女性もいる。一方で、日本の長時間労働と男性中心の制度文化が、すでに男性よりも多くの家事負担を強いられている女性をさらに苦しめている。

だが、はだか祭りでは、女性たちは希望を見いだしている。男性中心の伝統が最も根強く残る神事でさえ、人口減少という日本が抱えるもう一つの課題によって覆されたのだ。

はだか祭りでは「神男」に触れると厄払いができるとされる/Christopher Gallagher/Reuters
はだか祭りでは「神男」に触れると厄払いができるとされる/Christopher Gallagher/Reuters

今年2月、男性の参加者が減少する中、愛知県稲沢市の国府宮(尾張大国霊<おおくにたま>神社)で行われた国内最古のはだか祭りに、初めて女性41人が参加した。

法政大学の衛藤幹子名誉教授(ジェンダー政治学)は、このような伝統的な祭りに女性の参加を認める理由の一つは男性不足だからだと説明した。若い男性の数は急速に減少しており、 男性参加者が少なくなっているため、女性は大いに歓迎されるべきだという。

過去に「国府宮はだか祭り」で神男を務め、今年の祭りにも携わった西尾春彦さん(57)は、昨年の参加者はわずか1700人で、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の5分の1に過ぎなかったと振り返る。

西尾さんによれば、これまで女性の参加が明確に禁止されたことはなかったが、このような大人数での参加は初めてのことだったという。

祭り当日、女性団体の「縁友会」は着衣姿で一部の神事に参加した。参加者たちにとって、それは非常に象徴的なものだった。

日本ではどうしても男性が前、女性が後ろに置かれてしまうが、これからは女性の力を発揮していきたい、と参加した玉腰厚子さん(56)はCNNに語った。

法被を着てはだか祭りに参加した女性ら/Chris Gallagher/Reuters
法被を着てはだか祭りに参加した女性ら/Chris Gallagher/Reuters

祭りの主催者にとって、女性参加は現実的な判断だったのかもしれない。だが、縁友会副会長の鈴木彩加さん(36)は、男女平等のためだと言う。

それだけでは終わらないと学者らは指摘する。簡単な解決策が見当たらない中、人口減少問題は千年の歴史を持つ祭りを再構築するだけでなく、世界4位の日本経済をも変革する可能性がある。

高齢化社会の影響は日本経済にとって非常に重要だ。多くの働き手、現役の人たちが必要なのに、なぜ女性はいまだに家にいるのか、労働市場に女性を参加させるべきだと衛藤氏は語る。

社会はより多くの働き手を必要としているため、高齢化社会は女性にとって男女平等を達成するチャンスだと同氏は述べている。

「待ったなし」

厚生労働省によると、2023年の日本の出生数は8年連続で減少し、前年比5.1%減の75万8631人と過去最低を記録した。

近年、1人の女性が生涯に産む見込みの子の数を示す合計特殊出生率は1.3前後で推移しており、安定した人口を維持するために必要な2.1をはるかに下回っている(日本は移民の受け入れが非常に少ない)。そのため日本政府は以前から、少子化対策は「待ったなし」の課題だと考えてきた。

衛藤氏によれば、人口減少の影響は小さな町や伝統的な儀式に限ったことではないという。

経済協力開発機構(OECD)は今年1月に報告書を公表し、日本の就業者数は23年に外国人も含めて6600万人になると推計した。だが、出生率の停滞が続けば、その数は2100年には約3200万人に半減すると予測している。

人口危機が深刻化する中、政府や多くの企業は、なぜ女性がいまだに家にいなければならないという社会的な期待に縛られているのかに疑問を抱き始めている、と衛藤氏は言う。

増幅する声

はだか祭りでも変化が起きたように、女性参加を巡る動機は、進歩的というよりは現実的なものであったのかもしれないが、衛藤氏によれば改善は見られるという。

多くの企業は、女性がより歓迎されていると感じられるよう、職場における男女平等を推進している。また政府も、家事労働をより均等に分担するため、男性の育児休業の取得率を30年度までに85%に引き上げるという目標を掲げるなど、母親の負担軽減に向けた一連の取り組みを導入した。

女性リーダーの例としては、4月1日に日本航空(JAL)初の女性社長兼グループ最高経営責任者(CEO)に就任した鳥取三津子氏が挙げられる。また、ベテラン政治家の上川陽子氏が昨年9月に外相に起用され、20年ぶりの女性外相となった。

だが一般的に、政治や経営分野における女性の割合は依然として低いままだと専門家らは指摘する。ジェンダーギャップ報告書によると、第2次岸田再改造内閣の閣僚20人のうち女性は5人のみで、23年時点で企業の上級職や指導的ポストに就く女性の割合は13%未満だ。

衛藤氏は、一部の欧州諸国で採用されている一定の枠を女性に割り当てるクオータ制などの革新的な政策が欠如していることが日本の足かせとなっていると述べた。

法政大学社会学部の准教授、堅田香緒里氏は、日本の男女平等の改善は段階的かつ微妙なものだと指摘。女性にはより多くの機会が与えられている一方、偏見や固定観念は依然として残っているという。

堅田氏は、女性の職種はその多くが下級職や保育、介護などの職種に限られ、一般的に男性よりも賃金が低いと指摘する。

女性は家事や育児をしなければならないため、パートタイム労働を余儀なくされる。子どもの世話をしなくてはならないので、責任の重い管理職に就くことはできないと同氏は述べている。

また、国府宮はだか祭りのように、すべての社会構造が女性を歓迎する準備ができているわけではない。それは、同じく男性優位である日本の国技、相撲の土俵に上がろうとする一握りの女性たちが証言している。

アマチュア相撲のトップ力士で、18年制作の米ネットフリックス・ドキュメンタリー「リトル・ミス・スモウ(邦題:相撲人)」の主人公、今日和さん(26)はCNNに対し、しばしば非難に直面し、日本における男女平等の実現はまだまだ長い道のりがあることを思い知らされるという。過去に一度、同僚の男性から、相撲を続けていると結婚できないから、早く辞めたほうがいいと言われたと語っている。

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