酷暑でエアコンの使用急増、温暖化対策とのバランスに苦慮 インド

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店頭に並べられたエアコン=2023年5月、インド・ニューデリー/Anindito Mukherjee/Bloomberg/Getty Images

店頭に並べられたエアコン=2023年5月、インド・ニューデリー/Anindito Mukherjee/Bloomberg/Getty Images

(CNN) 昨夏、インドの首都デリーは猛暑に見舞われた。れんが職人のラメシュさん(34)は、あまりの暑さにめまいがしたが、家族を養うために灼熱(しゃくねつ)の太陽の下で働き続けるしかなかったと語る。

デリーでは、ここ数年、気温が定期的に危険な水準まで上昇しており、昨年6月には気温が40度を超え、学校は休校となり、農作物も被害を受け、エネルギー供給も圧迫された。

ラメシュさんは、自身の月給のほぼ半額に相当する35ドル(約5100円)を親戚から借り、自宅用に中古のエアコンを購入した。音はうるさいし、ほこりを放出することもあるが、エアコンなしでは生活できないとラメシュさんは言う。

気候の専門家らによると、2050年までに世界の複数の場所で気温が人間の生存限界を超える見込みで、インドもその一つになるという。

住居の前に座るラメシュさん/Aishwarya Iyer/CNN
住居の前に座るラメシュさん/Aishwarya Iyer/CNN

また国際エネルギー機関(IEA)の最近の報告書によると、50年までにインド国内のエアコン需要も現在の9倍に増加する見込みだという。

14億人という世界最多の人口を抱えるインドは、あるパラドックスに直面している。インドが暑く、豊かになればなるほど、エアコンを使用する人が増え、彼らがエアコンを使えば使うほど、気温はさらに上昇する。

欧州連合(EU)のデータによると、インドの年間の二酸化炭素(CO2)排出量は約24億トンで、世界の総排出量の約7%を占める。これに対し、米国は人口がインドの4分の1であるにもかかわらず、CO2排出量は世界全体の13%を占める。

そのため、気候科学者らは、温室効果ガスの増加について最も責任が少ない発展途上国の人々が、排出削減の負担を負わされるのは不公平ではないかと指摘している。

アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで昨年末に開催された国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で、インドは冷却システムから排出される温室効果ガスを削減するという誓約書に署名しなかった。

インドのモディ首相は、同会議の開会式で演説し、全ての発展途上国は「世界の炭素収支の公正な分け前」が与えられるべきだと主張した。

COP28で演説するインドのモディ首相=2023年12月、ドバイ/Ludovic Marin/AFP/Getty Images
COP28で演説するインドのモディ首相=2023年12月、ドバイ/Ludovic Marin/AFP/Getty Images

上昇し続ける気温

インドでは昨年6月、一部の地域で気温が47度まで上昇し、6月だけで少なくとも44人が死亡し、数百人が熱中症になった。

また世界銀行が22年12月に出した報告書によると、30年までに、世界全体で8000万人が熱ストレスにより職を失うと見込まれ、そのうち3400万人をインドが占める可能性があるという。

インドでは労働人口の5割以上が農業に従事しており、何百万人もの人々が危険にさらされている。また収入の順調な伸びに加え、都市人口の急増により、エアコンの所有者も大幅に増えている。

IEAによると、インドにおけるエアコン、冷蔵庫といった冷房・冷却による電力消費は、19年から22年にかけて21%増加したという。またIEAは、インドの住宅用エアコン使用による総電力需要が、50年までに現在のアフリカ全体の総電力消費を上回るとしている。

しかし、このインドの電力需要の増加は、世界的な気候危機も悪化させている。

現在多くのエアコンには、冷蔵庫と同様に、有害な温室効果ガスであるハイドロフルオロカーボン(HFC)という冷媒が使用されている。また、さらに問題なのは、エアコンは化石燃料の燃焼によって作られる電気を大量に消費する傾向にある点だ。

世界経済フォーラム(WEF)の推計によると、エアコン関連の温室効果ガスの排出が抑制されない場合、世界の気温は今世紀末までに最大で0.5度上昇する可能性があるという。

インドが抱えるジレンマ

しかし、インドは現在も広範囲に及ぶ貧困の問題に取り組んでおり、冷房関連のCO2排出の制限は、国の経済成長の阻害要因とみなされる恐れもあると専門家らは指摘する。

昨年末のCOPサミットでも、米国、ケニア、カナダなど63カ国が、50年までに冷房・冷却システムからのCO2排出量を68%削減するという誓約書「グローバル・クーリング・プレッジ(GCP:世界冷房誓約)」に署名したが、インドはこの誓約への参加を見送った。

しかし、この協定の策定に協力した国際的な非営利組織「万人のための持続可能なエネルギー」のブライアン・ディーン氏は、インドはGCPへの参加は見送ったが、インド国内で持続可能な冷房に関する重要な進展があり、冷房に関する重要な国際的リーダーシップを示している、とインドの取り組みを評価した。

スラム街で給水車から水を受け取る住民=2023年5月、インド・ニューデリー/Anindito Mukherjee/Bloomberg/Getty Images
スラム街で給水車から水を受け取る住民=2023年5月、インド・ニューデリー/Anindito Mukherjee/Bloomberg/Getty Images

冷却行動計画

インドは、19年に発表した「冷却行動計画」に基づき、38年までに冷房・冷却目的の電力需要を20~25%削減すると公約する一方、同国の経済目標に合致する費用効果の高い解決策の開発・実施にも重点を置いている。

ディーン氏は、インドの冷却行動計画は「全世界で策定されるべき初の包括的な国家的冷却行動計画の一つ」とし、この計画の発表は、冷房・冷却需要の高まりに積極的かつ緊急に対処する必要性を強調する重要な瞬間だったと述べた。

またインド環境森林気候変動省(MoEFCC)のリーナ・ナンダン長官によると、インドでは再生可能エネルギーの成長も他の経済大国に比べて速く、同国が排出削減目標の達成に向け順調に進んでいることをデータが示しているという。

ナンダン氏はCOP28サミットの開催中に行われた記者会見で、インドは、気候危機の主要な原因ではないが、積極的に気候変動の解決策を模索していると述べた。

しかしインドでは、ほぼ全ての都市がエアコンブームに沸いている。

デリー南部のラジパット・ナガール地区に住む実業家ペンタ・アニル・クマールさんは、エアコンから有害物質が放出されることを知っているため、わざわざ省エネモデルを購入した。

「エアコンの使用が気温の上昇に寄与することは分かっているが、私にできることといえば省エネモデルを選ぶことくらいだ」とクマールさんは言う。

しかし、クマールさんのように高価なモデルを買う余裕のある人ばかりではない。

デリーのロヒニ地区で働くガシラムさん(65)は、自身の月収を上回る36ドルで、家族のために中古のエアコンを購入した。

ガシラムさんは、自分のエアコンが気温上昇の一因であることは知らなかったが、その影響に悩まされている。

ガシラムさんは「ここ数年、暑さがさらにひどくなった」とし、「猛暑の中、仕事に出なくてはならない時は不安になる。なるべく外出は避けたい」と付け加えた。

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