容赦ないロシアの「肉弾攻撃」、数で劣るウクライナ軍をすり減らす

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ロシア軍に向けて迫撃砲を発射するウクライナ軍国境警備隊オメガ特殊軍所属の兵士/Serhii Nuzhnenko/Reuters

ロシア軍に向けて迫撃砲を発射するウクライナ軍国境警備隊オメガ特殊軍所属の兵士/Serhii Nuzhnenko/Reuters

戦闘のための兵器

だが、兵士の命は武器や兵器にかかっている。

凍てつく1月の朝、気温は零下22度前後。CNN取材班が見つめる中、オメガ特殊軍の別の部隊がアウジーイウカ周辺の射撃位置へ駆けて行った。

米国製のトラックの荷台にボルトで固定されたソビエト時代のロケット弾発射機が素早くセッティングされ、兵士の1人が一斉射撃のスイッチを入れた。

カチッという音、そして苛(いら)立ちの声。凍てついたロケット弾は発射する気配がなかった。

ウクライナは切望する西側製ではなく、手持ちの装備に頼らざるを得ない。ロシアへの反撃のチャンスを逃すたびに兵士の命が奪われかねないことはみな承知している。

数日後、近郊の町マリンカ周辺のぬかるんだ平原を兵站(へいたん)車両が疾走し、待望の砲弾を射撃位置に運んできた。

だが、米国から供与されたM777榴弾(りゅうだん)砲はこの日ずっと大人しかった。節約のため1日に発射するのは約20発、「よくても」30発だと砲兵は語った。昨年夏に失敗に終わったウクライナの反転攻勢では、砲兵部隊は援護として少なくとも2倍の海外製砲弾(その多くは米国製)をロシアに浴びせていたそうだ。

バフムート郊外の町アウジーイウカから北に90分ほど離れた砲撃位置をCNNが訪ねると、米国から供与された自走榴弾砲「パラディン」の砲弾庫が空の状態で置かれていた。発射できる砲弾は一つもなかった。

その後トラックで4発の砲弾が運ばれてきたが、ロシア軍に痛手を負わせられる代物ではない――単なる発煙砲弾だった。

「スキバ」と名乗る砲兵は、「パラディンで使えるものなら何でもいい」とCNNに語った。「無いよりましだ」

ロシアとウクライナの砲弾供給量について、第93独立機械化旅団の砲兵班の指揮官は「10対1」だとCNNに語った。

「向こうはソ時代の旧式を使っている」とコルサー指揮官は答えた。「それでも殺傷能力はある」

だが米国のウクライナ支援――とくに必要とされる砲弾も含め――はこれ以上当てにできなさそうだ。将来の支援予算は米国議会の論争に巻き込まれたまま。ウクライナ支援に反対するトランプ氏が再選する可能性も浮上し、さらに雲行きが怪しくなっている。

米国家安全保障会議のジョン・カービー報道官は今月、「これまで米国が提供してきた支援は現在ストップしている。ロシアの攻撃は激しさを増すばかりだ」と率直に語った。

西側の装備が戦場に配置されても、アウジーイウカでウクライナが祝砲を鳴らすにはまだ早い。

昨年失敗に終わったウクライナによる反転攻勢で先陣を切ったのが、米国からウクライナに供与された戦闘車両「ブラッドレー」だった。歩兵援護用に設計された車両はロシアの攻撃の嵐を退け、信頼性を揺るぎないものにした。

「バービー」と名乗るウクライナ指揮官は、ブラッドレーがない状態では「こうして取材に答えることもままならなくなるだろう」とCNNに語った。

「あの車両はタフだ。何も怖くない」

CNNは第47独立機械化旅団の別のブラッドレー部隊から映像を入手。そこには米国で訓練を受けた兵士が、ロシア軍の中でも強力な部類に入る国産戦車T90を相手にする様子が映っている。砲撃で戦車は破壊され、制御不能になった砲塔が回転しているところへ、自爆ドローンが側面から突っ込んだ。

だが前線に供給される米国製ブラッドレーの数はごくわずかだ。

米国は200台前後のブラッドレー供与を約束したが、数十台が戦闘で破壊や損傷の憂き目にあった。そのうち数台は修理された後、また前線に送り込まれる。

ウクライナ兵もブラッドレーの威力を称賛するものの、現地の厳しい冬を乗り切れない点や、供与された旧型車の一部の状態については批判を口にしている。

敵と比べてウクライナの武器が足りないという問題は、前線でよく見られる光景だ。近隣でドローン偵察部隊を指揮する前出の「テレン」も、ロシアに勝つにはウクライナの装備や武器が足りないと単刀直入に語った。

テレンによれば、ウクライナは優秀なパイロットをそろえ、限られた資源で創意工夫を余儀なくされている。

「戦争初期、敵は我々よりも10倍以上のドローンで優位に立っていた。今では我々もドローン戦では十分戦えるようになったと思う。24時間体制で領空を監視している」(テレン)

司令所からロシア部隊を捜索するドローン部隊を取材していると、複数のドローンがロシア部隊の隠れ家のひとつを包囲した。

1台のドローンに装着された高性能カメラが、慌てて上空の自爆ドローンに狙いを定める2人のロシア兵の姿をとらえた。銃口とたばこから上がった煙が冷え冷えとした大気に広がる。ウクライナ軍のドローンがロシア兵の背後にある細い塹壕(ざんごう)に突進し、爆発した。

2人の兵士がどうなったのか、CNN取材班には分からない。だが取材に応じたドローンの操縦士いわく、周辺一帯で稼働中の台数を考えると生存の可能性は低いだろう。

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