中国で深刻な盲導犬不足、全盲人口800万人も盲導犬はわずか200匹

中国で活躍している盲導犬は約800匹と、パンダの数よりも少ないのが現状だ/inpetphoto

中国で活躍している盲導犬は約800匹と、パンダの数よりも少ないのが現状だ/inpetphoto

(CNN) ヤン・カンさんは11歳の時、眼がんが原因で視力を失った。しかし、カンさんは、自分は恵まれていると考えている。それは、ヤンさんが盲導犬を所有しているからだ。中国には目の不自由な人が数百万人いるが、盲導犬を所有する人はごく一握りにすぎない。

中国では盲導犬は非常に珍しいため、ヤンさんは5年間待ってようやく1匹の盲導犬を手に入れた。国営中国中央テレビ(CCTV)によると、2020年4月時点で中国で稼働している盲導犬はわずか200匹ほどしかおらず、ジャイアントパンダよりも珍しい存在だ。

中国盲人協会の推計によると、同国の視覚障害者の数は1700万人以上に上る。また世界保健機関(WHO)によると、全盲の中国人は800万人おり、スイスの総人口に相当する。一方、盲導犬は、弱視か全盲の中国人8万5000人当たりわずか1匹しかいない。

危険な通り

ヤンさんは、盲導犬を手に入れる前は白杖(はくじょう)を使って歩いていた。しかし、自分1人で多車線の幹線道路を渡ったり、北京市内に数多くある歩道橋や歩道者用地下道を歩いたりするのは困難かつ危険だという。

横断歩道をわたるるヤン・カンさん夫妻=北京市/inpetphoto
横断歩道をわたるるヤン・カンさん夫妻=北京市/inpetphoto

ヤンさんは「(歩行中は)常に怖かった」とし、「最も恐ろしいのは、前方の道路がどうなっているか全く分からないことだ」と付け加えた。

ここ数年でかなりの前進が見られるが、中国の都市はまだ障害者に優しいとは言い難く、北京市内でさえアクセシビリティーに欠ける場所が多い。ヤンさんは一例として、すべての横断歩道に視覚障害者用の音響信号が設置されているわけではない点を挙げる。

また、せっかく設備が設置されていても、きちんと目的を果たしていない場合もある。例えば、中国の大半の都市には、2001年に可決された法律に従い、幹線道路沿いの歩道に視覚障害者を誘導するための点字ブロックが敷設されている。しかし、この点字ブロックも視覚障害者にとって不便だったり、使うと非常に危険だったりする場合が多い。例えば、ブロックがジグザグに敷かれていたり、ブロックに沿って歩いていくと木や街灯、消火栓にぶつかってしまったりする。違法駐車の車や放置自転車、屋台などがブロックをふさいでいることも多い。

視覚障害者のための誘導用ブロックであっても不親切なものや危険なものもある/From Danaoqiepian/Weibo
視覚障害者のための誘導用ブロックであっても不親切なものや危険なものもある/From Danaoqiepian/Weibo

また、整備不良の道路にはさらなる危険がある。ヤンさんはかつて、住宅地を歩いている時にふたのない2メートル以上の深さのマンホールに落下した。幸いヤンさんは軽傷で、自力で脱出できた。

中国では、マンホールのふたが金属スクラップとして売る目的で盗まれるケースが多く、国営メディアによると、2017~19年の間にマンホールのふたの盗難や破損が原因の負傷・死亡事故は70件以上発生した。このマンホールのふたを原因とする事故があまりに多いため、中国では今年4月からマンホールのふたを持ち去ったり壊したりしたことが原因で重傷者や死亡者が出た場合の最高刑が死刑に引き上げられた。

中国初の盲導犬育成施設

2006年に中国初の盲導犬訓練施設である大連盲導犬訓練センターが設立された。

中国初の盲導犬訓練施設である大連盲導犬訓練センターは2006年に創設された
中国初の盲導犬訓練施設である大連盲導犬訓練センターは2006年に創設された

同センターの職員であるリャン・チャさんによると、大連医科大学の動物行動学教授、王靖宇(ワン・ジンユー)氏は、2004年のアテネパラリンピックで欧米の全盲の選手は盲導犬を連れているのに、中国の全盲の選手は連れていないことに気付き、中国独自の盲導犬を育成する決意を固めたという。

盲導犬の訓練の予備知識や経験がなかった王氏は、インターネットで検索したり、世界各国の専門家に協力を求めたりした。

2006年のセンター開設当初、盲導犬を求める電話が中国全土から約5万件もかかってきたが、当時、王氏には提供できる盲導犬は2匹しかいなかった。

その後、同センターの規模は拡大し、現在は100匹の犬が訓練を受けており、毎年20匹以上の「卒業生」を送り出している。

訓練を受ける盲導犬/Sun Ying
訓練を受ける盲導犬/Sun Ying

盲導犬の候補生である子犬(性格が優しく、人懐こいため、大半はゴールデンレトリバーやラブラドールが選ばれる)は、まず里親に1年間預けられ、人間との生活を学んでから同センターに戻り、専門的な訓練を1年間受ける。訓練は厳しく、また長期に及び、途中で約6割の犬が不適格となり、ペットとして引き取られる。失格の理由としては、攻撃性を示す、過剰なエネルギーを有する、プレッシャーに過度に敏感である、集中力を欠いている、乗り物酔いしやすい、などさまざまだ。

すべての評価をクリアし、晴れて合格となった盲導犬は、飼い主とのマッチングが行われ、飼い主との共同訓練を40日間行った後、ようやく飼い主の自宅で盲導犬として働けるようになる。

資金不足による制約

中国では、ここ数年で小規模の盲導犬訓練センターがいくつか開設されたが、現在も大連の訓練センターが国内最大であり、国際盲導犬連盟(IGDF)の承認を得たわずか2施設のうちの1つだ。一般に盲導犬訓練センターの開設・運転資金を得るのは容易ではない。また訓練センターがIGDFの承認を得るためには、厳格な評価プロセスに合格する必要があるが、資金不足の訓練センターにとっては至難の業だ。

資金不足は中国の盲導犬訓練施設にとって大きな足かせとなっている、とリャンさんは言う。非営利組織である大連訓練センターは、希望者に無料で盲導犬を提供しているが、1匹の盲導犬を訓練するのに約20万元(約315万円)かかる。当初、センターの運営費は王氏が自腹を切っていた。現在は大連市からの補助金や市民からの寄付を受けているが、それだけでは費用を賄えないことも多いという。

現在、同センターは約30人の訓練士を抱える。その多くは、犬好きで、人助けに熱心な若い大卒者だが、彼らの月給は大連市の平均月収の約4割にすぎない。

大連盲導犬訓練センターでは毎年20匹の「卒業生」を送り出している
大連盲導犬訓練センターでは毎年20匹の「卒業生」を送り出している

同センターは、ソーシャルメディア上で国民の盲導犬に関する意識を高めるなど、より多くの寄付を獲得できるよう努力している。

国民の受容

ヤンさんや他の盲導犬ユーザーによると、中国ではここ数年、盲導犬は以前よりも市民に受け入れられるようになったという。特に北京、上海、深センなどの「一線都市」では、大抵、地下鉄やバス、電車内での盲導犬の同伴が認められている。

盲導犬のおかげで、ヤンさんのような視覚障害者もより自由に旅行ができるようになったが、一方で障害も多い。例えば、多くのホテルは依然として盲導犬の同伴を認めていない。また航空券の購入にも困難を伴うことがある。盲導犬に有効な労働許可証や適切なワクチンの証明書がある場合でも、多くの航空会社はさらに別の健康診断書の提示を要求する。この診断書はペットや家畜の輸送に必要なもので、取得が難しい場合がある。

ヤンさんも盲導犬同伴でのバスの乗車やホテル、レストランへの立ち入りを拒否された経験があるが、落胆はしなかったという。むしろ拒否されるたびに、その人に盲導犬について知ってもらういい機会と考えるようにした。

ヤンさんは「人口14億人の国に盲導犬がわずか200匹ほどしかおらず、盲導犬に巡り会える可能性は極めて低い」とし、「だからこそ、われわれは盲導犬を(社会に)紹介できる先駆者が必要だ」と付け加えた。

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