島1つ失い敗北の道へ、南シナ海情勢でよみがえる日米戦の教訓

日本軍との攻防戦が行われているサイパン島に上陸する米軍の増援部隊/ALAMY

日本軍との攻防戦が行われているサイパン島に上陸する米軍の増援部隊/ALAMY

香港(CNN) 1944年7月初め、太平洋に浮かぶ小さな島をめぐって、米軍と日本軍が第2次大戦中で最悪の規模の死者を出す激戦を繰り広げた。

日本側は政府が送り込んだ兵員のほとんどすべてに相当する2万9000人が戦死。対する米軍は約3000人が命を落とし、1万人以上が負傷した。

マリアナ諸島のサイパン島におけるこの戦闘は、日米間の戦争の趨勢(すうせい)を決した戦いとして知られる。勝利を収めた米軍は近隣のテニアン、グアム両島を含む3島に滑走路を建設。これらの拠点から戦略爆撃機「B29」による日本本土への大規模空襲を行い、戦局で圧倒的優位を占めるに至ったからだ。

一時期、テニアン島の米空軍基地には6本の滑走路が敷かれ、約270機のB29が配備されていた。45年8月、広島と長崎に原子爆弾を投下したB29も、同島の基地から飛び立っている。

複数の国が領有権を争う現在の南シナ海で、中国が実効支配する島に滑走路を建設している状況を考察するとき、75年前の「サイパンの戦い」で得られた重要な教訓を改めて思い起こすべきだろう。

南シナ海

南シナ海は約337万平方キロにわたって広がる太平洋西部の海域で、国際水域と各国が領有権を主張する水域、島々とで構成されている。中国は同海域の環礁を埋め立てて滑走路や軍事拠点を建設している。これらの施設に航空機を配備すれば、より広範な領域への軍事攻撃が可能になる。

南シナ海の島を埋め立て、中国が軍事拠点を建設/
南シナ海の島を埋め立て、中国が軍事拠点を建設/

豪グリフィス大学アジア研究所の軍事アナリスト、ピーター・レイトン氏は、中国が長距離爆撃機を南シナ海の島々に配備した場合、「空中発射の巡航ミサイルをオーストラリア北部の飛行場や港湾に撃ち込むことができる」と指摘。北部の都市ダーウィンに近いティンダル空軍基地などの施設は、「高度化した脅威」に対して直ちに備えなくてはならないとの認識を示した。

レイトン氏によればティンダルをはじめとする各基地は、「状況が大きく変化する」以前には「中国の攻撃射程の外に位置する聖域」と考えられていた。米軍と豪州軍はダーウィンの近くで定期的に軍事訓練を行っている。

射程が1600キロ拡大

元米海軍将校のカール・シュスター氏は、南シナ海の滑走路の存在により、中国軍最大の爆撃機「H6K」の射程が事実上1600キロ以上拡大すると分析する。

長距離巡航ミサイルを搭載することで、これらの機体は対空防御システムの射程外からの爆撃が可能になる。

南シナ海の島や環礁を監視する中国軍の爆撃機「H6K」/Xinhua News Agency/Getty Images
南シナ海の島や環礁を監視する中国軍の爆撃機「H6K」/Xinhua News Agency/Getty Images

シュスター氏はまた、南シナ海を掌握することで、中国はインド洋への玄関口にあたるマラッカ海峡やスンダ海峡、ロンボク海峡といった海上交通の要衝で、その海軍力並びに空軍力を誇示できると語る。北に目を向ければ、日本や台湾もその影響力にさらされるのは確実だという。

米軍による75年前のサイパン島の制圧は、日本という特定の敵に対して行われた作戦だった。しかし、2019年の南シナ海において中国の支配が拡大すれば、当時とは比較にならない数の国や地域が影響を受けることになる。

中国側は南シナ海に建設している滑走路や軍事施設について、あくまでも防衛を目的としており、自国の主権の下にあるとする領域を守るためのものだと主張している。

供給網

小さな島々を勢力下に置く理由は、航空機やミサイルの配備による国力の誇示にとどまらない。ありきたりと思われがちだが、いかなる軍隊にとっても極めて重要な利点がそこには存在する。第2次大戦中は米軍もサイパン島からそうした恩恵を受けていた。すなわち、戦力を供給する中継地点としての役割だ。

当時のサイパン島を例にとれば、米軍はこの島を重要な足掛かりと位置づけ、日本本土により近い島々での作戦を遂行した。沖縄などでの戦闘は、サイパンから物資や兵員を供給することで継続が容易になった。

ウッディー島に配備された中国の戦闘機4機/ImageSat International
ウッディー島に配備された中国の戦闘機4機/ImageSat International

現在の南シナ海でも、中国が建設した施設は人民解放軍の艦船にとっての安全な寄港地となる可能性がある。その場合これらの船は、停泊や補給のために中国本土の基地へ引き返す必要がなくなる。

現時点では、第2次大戦並みの規模の戦闘は言うに及ばず、いかなる種類の紛争も南シナ海での差し迫ったリスクとはとらえられていない。ただひとたび戦争という事態になれば、中国の実効支配する島々が同国の軍隊に際立った優位性をもたらすのは必至だろう。

日本はサイパンの戦いで被った損失を挽回(ばんかい)することなく、敗戦への道を突き進んだ。南シナ海における米国とその同盟国についても、島の軍事拠点化による中国の優位を覆すのはもはや手遅れなのではないかとの見方が出ている。

軍事アナリスト、ピーター・レイトン氏は、拠点化した島々を通じ「中国が東南アジア地域の中心を支配している」と説明。「域内のどの国も、島々がもたらす脅威に対し現実的な対抗手段を持ち合わせていない」と懸念を示した。

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