ANALYSIS

【分析】トランプ関税の混乱、すでに経済に打撃 修復には遅すぎる可能性

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ウォール街はトランプ氏の姿勢の何かに喝采を上げたが、関税に関するトランプ氏の度重なる方針転換で企業の幹部や投資家は動揺している/Brendan McDermid/Reuters

ウォール街はトランプ氏の姿勢の何かに喝采を上げたが、関税に関するトランプ氏の度重なる方針転換で企業の幹部や投資家は動揺している/Brendan McDermid/Reuters

ニューヨーク(CNN) トランプ米大統領が経済に関する過激な姿勢を一部後退させたようだ。トランプ氏は政権の看板である関税政策でまたも方針転換しつつあり、場当たり的な手法がすでに経済に深刻な打撃を与えたとの懸念が再燃している。

トランプ氏は22日、ウォール街の悪夢となっていた二つの重要な問題について立場を軟化させた。対中関税の緩和に前向きな姿勢を示唆し、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長を解任する「考えはない」と表明した。

だが、この唐突な姿勢の変化は、ホワイトハウスに端を発する混乱が米国のみならず、他国の経済まで景気後退(リセッション)へ追い込む可能性を改めて浮き彫りにした。

関税そのものより深刻なのは、ホワイトハウスが生み出した不確実性だ――。米ブルッキングス研究所のウェンディ・エデルバーグ上級研究員はCNNとのインタビューでそう語り、「方針がぶれている状況は終わっていない。むしろ、今回も新たなぶれにすぎない」と指摘した。

ここ数週間の落ち込みの後、米国株は22、23両日に急騰した。145%の対中関税は持続不可能との経営者や側近の警告に大統領が耳を傾け始めた、という安堵(あんど)感がウォール街に広がった兆候だ。22日に行われた大統領執務室での取材でも、トランプ氏はパウエル氏への攻撃を手控えた。(最近のトランプ氏はパウエル氏を「負け犬」と呼んでおり、自制するのは異例だ。23日夜には再び威圧的な口調に戻り、「電話するかもしれない」と述べた)

とはいえ、米国株はトランプ氏の1月の大統領就任時点から11%下落したままだ。背景には世界貿易を根本から変え、経済成長に急ブレーキをかけかねない関税方針をめぐり、ホワイトハウスがほぼ絶えず方針転換と矛盾した発信を繰り返していることがある。

ファクトセットのデータによると、株価は最近反発しているものの、S&P500はわずか2カ月前の過去最高値から7兆ドル以上の時価総額を失った。

現時点では、トランプ氏が関税を撤回したり、FRBの独立性を守る数十年来の慣例を尊重したりする兆しが少しでも見えれば、少なくとも一時的にはウォール街にとって勝利となるだろう。

ミシガン大学のジャスティン・ウォルファーズ教授はCNNに対し、「市場はトランプ氏が愚かなことしでかすのではないかと恐れているし、へまをしなければ大喜びする」と指摘した。

一方で、ウォルファーズ氏ら経済学者は、すでに発生した損害について懸念を示した。

「経済が減速するのは明らかだ」とウォルファーズ氏は述べ、「問題は減速の程度だ」としている。

専門家はおおむね、年内に景気後退入りするリスクが高まっており、その確率はおそらく50〜70%に上ると指摘する。トランプ氏が絶えず関税政策を変更しているため、可能性は流動的というのがほぼ全員に共通する見方だ。

ペンシルベニア大学ウォートン校のケント・スメッターズ教授によれば、仮に「トランプ関税2.0」が今日すべて解除されたとしても、政策の不確実性だけでGDP(国内総生産)の少なくとも1%が失われる見込みだ。「すべての関税が実施されれば、最終的にGDPが5%下落すると予測している」という。

ただ、これは明確にしておきたいが、トランプ政権は他の関税の解除については一切公に言及していない。これだけでも極めて攻撃的だ。トランプ氏によれば、対中関税は下がるかもしれないが「ゼロにはならない」。10%の一律関税と、自動車や鉄鋼、アルミ、一部のメキシコ・カナダ製品への25%の関税は依然として残る。

ホワイトハウス高官が米紙ウォールストリート・ジャーナルに語ったところによると、現在145%の対中関税は「およそ50〜65%」の水準に引き下げられる可能性がある。

それでも、大きな混乱は避けられないだろう。

トランプ関税がもたらす悩みは財政上のコストだけにとどまらない。明確な方針が示されないため、企業経営者だけでなく、米国の一部の主要同盟国や貿易相手国も身動きが取れなくなっている。

「米政権の場当たり的な関税政策は信用の危機を招いた」。EYのチーフエコノミスト、グレゴリー・ダコ氏は23日の報告書でそう指摘した。

失われた信用の回復には時間がかかるとみられる。特に米国の関税はいつ上下するとも分からず、多くの場合ほとんど、あるいは全く予告なしに実施されるだけになおさらだ。

「企業は暗中模索の状況だ」とエデルバーグ氏。FRBの調査で75%の企業が「今後半年間、設備投資を増やさない」と回答したことを指摘し、「どの政策が明日の法律になるか分からず、皆が息を潜めている」と語った。

こうした不安は23日に発表されたFRBの地区連銀経済報告(ベージュブック)にも表れている。業種を問わず多くの企業が、状況が明確になるまで採用を停止あるいは減速していると報告した。

一方で、米国ブランドは国内外で打撃を受けている。米国の一部の主要同盟国や貿易相手国でさえ、トランプ氏の貿易戦争に合理性を見いだせずにいる。

「米国とカナダの貿易関係は深刻な打撃を受けた。永遠に修復不能だろう」「カナダが米国寄りの姿勢を取ることは政治的に不可能になった。損害はすでに確定している」(ウォルファーズ氏)

本稿はCNNのアリソン・モロー、マット・イーガン両記者による分析記事です。

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