米空軍の精鋭部隊「サンダーバーズ」に密着取材

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フォーメーションを組んで訓練飛行を行うサンダーバーズ=4日、米バージニア州のラングレー空軍基地/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force

フォーメーションを組んで訓練飛行を行うサンダーバーズ=4日、米バージニア州のラングレー空軍基地/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force

米バージニア州ハンプトン(CNN) 米バージニア州のラングレー空軍基地。滑走路のすぐ脇にある狭い会議室に、米空軍からより抜かれたF16戦闘機のパイロットが集まっていた。グラノーラのシリアルバーや果物をつまみながら、気さくに言葉をかけ合う。ノートパソコンやタブレットが置かれたテーブルには水のボトルや紙が散乱していた。

危険な曲技を繰り出すにもかかわらず、12人編成のチームはリラックスしているように見えたかもしれない。だが目の前の任務に集中しているのは明らかだった。

米空軍の一流の曲技飛行チーム「サンダーバーズ」は、全米各地で年間数十回の航空ショーを行っている。サンダーバーズは、空軍が陸軍から独立して6年後の1953年に誕生し、今年は結成70周年にあたる。現在チームの司令官を務めるサンダーバード1号ことジャスティン・エリオット中佐(仲間内では「ワン」もしくは「ボス」と呼ばれている)によると、チームの創設は「組織の信頼が揺らいでいた時期に、米国民と軍の絆を深める」のがねらいだった。

そうした課題が、空軍および米軍全体の前に再び立ちはだかっている。

兵士の採用人数が過去最低を記録した2022年から厳しい傾向が続いており、海軍と陸軍、空軍はいずれも、今年は採用目標を達成できそうにないと明らかにした。軍指導部はずいぶん前から、景気や兵役に対する意欲の低下、若者の間での認知不足を採用のマイナス要因として挙げている。

この数年で採用状況は厳しくなっている一方、サンダーバーズに課せられた任務はおおむね変わらない。今年も全米30カ所以上で航空ショーが予定されている。チームは遠征の間ずっと定期的に人々との交流を図っている。行く先々で兵役の舞台裏を垣間見てもらいたいからだ。

「こうした時期はこれまで何度もあった」と、人々の軍離れについてエリオット中佐はCNNに語った。

「分断の時期に力を結束することは素晴らしい」とエリオット中佐は続け、「人々の頭上に卓越の跡を残し、こう伝える。『ここに集まってくれたのが5分間だろうと、5世代だろうと関係ない。あなたたちの空軍なのだ』と」

「大所帯ながら少数精鋭の心持ち」

サンダーバーズのパイロットの拠点はネバダ州にあるネリス空軍基地。パイロットたちはもっぱらチーム内の番号やコールサインで呼び合う。だが、2年間の任務の大多数は遠征だ。航空ショーのリハーサルをするか、実際にショーで飛行するか、次の会場に移動するかしている。

サンダーバーズのメンバーと写真を撮るヘイリー・ブリツキー記者/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force
サンダーバーズのメンバーと写真を撮るヘイリー・ブリツキー記者/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force

エリオット中佐の計らいで、そうした遠征期間は長くなった。機体の監視をはじめ、燃料系統の修理や点検、酸素マスクやパラシュートの管理を行う100人超の空軍兵士も含めて、チーム全体がショーの裏方作業を練習できる環境が重要だと中佐は言う。そのおかげでパイロットの安全が維持できるのだ。

6人のデモパイロットの落ち着き払った様子とは裏腹に、飛行には危険が伴う。実現できるのは舞台裏の綿密な準備のたまものだ。これまで30種類の機体を操縦し、通算飛行時間は2555時間以上というエリオット中佐は、空軍戦闘機兵器学校に入学した後、実戦および試験飛行パイロットの任務に就いた。サンダーバーズでの任務は「今まで経験した中で一番難しい」という。

CNNは今月、F16戦闘機に同乗する機会に恵まれた。チームは週末の航空ショーのリハーサルを行っていた。外部の人間がリハーサル風景を空から観察できたのは初めてのことで、バレルロールやエルロンロール、4機がわずか18インチ(約45センチメートル)の間隔で飛ぶ有名なダイヤモンドフォーメーションなど、入念に演出された曲技が繰り出された。

重力(Gフォース)や機体からの脱出などに備え、チームと同乗する部外者も飛行前にトレーニングを受けなくてはならない。失神しないよう下半身の筋肉に力を入れて血流を頭部に押し出すことや、フック呼吸という独特のリズムの呼吸法、首にかかる重力の増加を感じないように頭を後ろに傾けることなどだ。

酸素マスクをつけるCNNのヘイリー・ブリツキー記者/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force
酸素マスクをつけるCNNのヘイリー・ブリツキー記者/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force

同じく重要なのは、コクピット内の特定のボタンやレバー、スイッチについて、押したり触れたりしないことだ。

力を入れて、息をして、余計なものには触らない。さほど頭を使う作業には見えないだろう。だが言うまでもなく、F16のパイロットには他にも求められることがある。こうした手順をすべてこなした上で、意識を保ち、かつ安全に操縦できる心理状態を保たなくてはならない。

さらにサンダーバーズの場合、全てをいともたやすく見せる必要がある。

CNNがオペレーションを統括するサンダーバード7号「スリンガ」ことライアン・イングリング中佐の機体で飛行している間、6人のパイロットは数日後に地上の観衆に披露する曲技を一通りリハーサルした。困難な曲技にもかかわらず、無線から聞こえてくる声はまるで天気やスポーツの試合について話しているかのようだった。

飛行前にパイロットと談笑するCNN記者/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force
飛行前にパイロットと会話するヘイリー・ブリツキー記者/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force

戦闘機が実に見事な正確さで優雅に旋回すると、叫び声や歓声が一斉に沸きおこり、目を見張るような技について軽口や意見が飛び交った。

全ての技は秒単位で計画されており、チームが安全に着陸するとただちに細部にわたって精査される。チームはリハーサル後の打ち合わせで、先ほどのパフォーマンスを録画した映像を1コマごとにチェックした。褒めることもあれば、時には建設的な批判も出た。

空を舞うF16Dファイティングファルコン/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force
空を舞うF16Dファイティングファルコン/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force

この日、サンダーバーズのメンバーが何度となく口にしていたのが、チームの連帯感があってこそできるのだという点だ。リハーサル同様よどみなく行われた打ち合わせのようすからも、そうした点がよりいっそう明らかになった。

チームで仕事に取り組めるかどうかは、サンダーバーズに志願するパイロットに求められるもっとも重要な点だ。この仕事が好きな理由として、パイロットたちがたびたび口にするものそうした点だ。

「エゴがまったくない」とイングリング中佐は言う。「生涯を共にする家族」を得たようだと言うのは、サンダーバード9号「アングリー」ことトラビス・グラインドスタッフ大尉だ。

「アングリー」ことトラビス・グラインドスタッフ大尉/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force
「アングリー」ことトラビス・グラインドスタッフ大尉/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force

サンダーバード2号「ジーク」ことザッカリー・タイラー大尉も「少数精鋭の心持ちで大所帯に臨んでいる」と続けた。「誰もが積極的で、一緒にいるのが楽しくて仕方がない。みんな一緒にいたいと思っている」

打ち合わせが終わると、会議室のテーブルを囲んで座った12人のメンバーは、空軍、とりわけサンダーバーズに心奪われた理由について語った。家族が軍関係者だったとか、子どもの頃に戦闘機のパイロットの話を聞いたとか、様々な回答が聞かれた。

ダイヤモンドフォーメーションで飛行するサンダーバーズ/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force
ダイヤモンドフォーメーションで飛行するサンダーバーズ/Staff Sgt. Anthony Nin Leclerec/US Air Force

グラインドスタッフ大尉の場合、軍ではよく聞く話だが、空軍に入れば人生で多くのチャンスが開けるだろうと思えたからだ。「片田舎の農家に生まれ、貧しかった」という大尉は、士官学校が教育や手に職をつけるチャンスだと考え、空軍学校に入学することにした。「今自分が手にしているチャンスはすべて」空軍学校のおかげだという。

「空軍の金で大学を卒業し、医大にも行かせてもらった。思い描いていた夢をすべて追い求めることができた」とグラインドスタッフ大尉。「おそらく自分と同じような境遇の人が大勢いたと思う。そうした人たちにとって、士官学校のような場所が近くにあり、教育を受けられる上に夢を追い求め、こんなすごいことにも関われると知っていれば、最高だっただろう」

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