OPINION

ミリー氏の妥当な行動から浮かび上がる深刻な問題

ミリー統合参謀本部議長。トランプ政権末期の行動が暴露されて物議をかもしている/Olivier Douliery/AFP/Getty Images

ミリー統合参謀本部議長。トランプ政権末期の行動が暴露されて物議をかもしている/Olivier Douliery/AFP/Getty Images

(CNN) ドナルド・トランプ氏が米国大統領の任にあった最後の数カ月、米軍制服組トップのミリー統合参謀本部議長は2度の電話を通じ、中国軍で同じ立場にある将官の不安を取り除いた。米国は安定しており、中国に対する軍事攻撃は考えていないと告げたのだ。米紙ワシントン・ポストのボブ・ウッドワード、ロバート・コスタ両記者による近刊「Peril(原題)」がそう記している。

ピーター・バーゲン氏
ピーター・バーゲン氏

「李将軍、あなたと私は今や5年来の知人同士だ。仮に我が軍が攻撃を仕掛けるなら、必ず事前に連絡を入れる。奇襲攻撃にはならない。青天の霹靂(へきれき)となることは決してない」。ウッドワード、コスタ両氏によれば、ミリー氏は昨年10月30日の電話でそう述べた。

事態が暴露され、世界中のメディアが大々的に取り上げたのを受け、マルコ・ルビオ上院議員をはじめとする共和党の議員らからはミリー将軍の辞任を求める声が上がった。

ミリー氏の行動を「裏切り」とみなす人もいる一方、現職及び元国防当局者らは同氏が中国側にかけた電話について、統合参謀本部議長による他のハイレベル協議と同様の手続きに基づくものであり、国防総省の文民と協議して行われたと指摘した。

結局のところ、重要なのはミリー氏の行動をより広い文脈で理解することだ。それは長きにわたってトランプ氏と米軍高官との間にくすぶっていた幻滅、失望感の行き着いた先に他ならない。

ミリー氏が行ったのは、自分の国を軍の最高司令官より上位に置くことだった。大統領選の敗北の後にトランプ氏が見せていた不合理な逆上ぶりを考慮すれば、ミリー氏が中国側に連絡を取り、米国の安全保障体制が安定していると請け合ったのは正しい判断だったと言える。しかし同氏の行動は危険な前例を作った恐れもあり、我々はこれを慎重に検証するべきだ。つまり高位の将官らが今後の政権内において、別の大統領の統括する指揮系統へどのようにして入り込めるのかという問題である。

2017年、トランプ氏は自身の政権内の複数職を軍の高級将校で埋め、就任時から情熱と愛着を込めて彼らを「マイ・ジェネラルズ(私の将軍たち)」と呼んだ。10代のころ、同氏はニューヨークにある軍隊式の寄宿学校に入っていた。ベトナムへの兵役は回避したが、大統領の任期中は首都ワシントンでの大規模軍事パレードを主宰するのを熱望した。

しかし、トランプ氏と将軍たちとの信頼関係はすぐに消え去った。ペンタゴン(米国防総省)の当局者たちは海外での軍の関与を維持することを望んでいたが、トランプ氏は北大西洋条約機構(NATO)のような同盟が米国を食い物にしていると思い込んでいた。一方で将軍たちはNATO同盟国が9・11同時多発テロ以降、米軍とともにアフガニスタンで勇敢に戦ったのを理解していたので、米国が引き続き同盟の先導役を務めるのを力強く支持した。

こうした将軍たちの多くは厳しい選択に直面してきた。相手は無秩序かつ一貫性のない大統領であり、重要な外交政策の決定を単なる思い付きで発表しかねない人物だ。例えばトランプ氏と将軍たちに関する拙著の中で詳述したように、当時のジェームズ・マティス国防長官が率いたペンタゴンは北朝鮮相手に想定される作戦について、広範な軍事オプションをトランプ氏に提示しようとはしなかった。ジョン・ケリー大統領首席補佐官も、自分がトランプ氏に働きかけてNATO脱退や在韓米軍の完全撤退といったばかげた間違いを犯すのを阻止したと信じていた。

やがて、トランプ氏と元司令官らとの間に亀裂が生じ始めた。現役の将軍や提督についても同様だったが、彼らは自分たちの最高司令官を公然と非難することができなかった。研究機関ニューアメリカは現役、退官後双方の軍幹部がトランプ氏の任期の4年間に出した公式声明を追跡。計309の声明のうち255は政権に批判的な内容だったとした。

時間が経つにつれ、多くの将官がトランプ政権を去っていった。H・R・マクマスター陸軍中将はわずか1年あまりで大統領補佐官(国家安全保障担当)を辞任。元海兵隊大将のケリー氏は国土安全保障長官を務めた後でホワイトハウス入りし、大統領首席補佐官に就いたが、辞任する18年にはトランプ氏と言葉も交わさないほど関係は冷え切っていた。そしてマティス氏はトランプ政権の国防長官を2年で辞任。シリアからの米軍撤収をめぐる大統領との見解の相違が原因だった。

トランプ氏とミリー氏の関係に最初にひびが入ったのは17年だ。バージニア州シャーロッツビルで極右グループが集会を開き、1人のネオナチが集会に抗議していたヘザー・へイヤーさんを殺害した後、トランプ氏は有名な言葉を口にした。「どちらの側にも非常に素晴らしい人たちがいる」

当時陸軍の参謀総長だったミリー氏はこうツイートした。「陸軍は兵士の間での人種差別や過激主義、憎悪を容認しない。それは我々の価値観に反する。我々が1775年以来支持し続けてきたあらゆるものに反する」

別の機会でもトランプ氏とミリー氏は意見が割れた。20年6月1日、平和的なデモの参加者がホワイトハウスの外で乱暴に排除されたときだ。デモは黒人男性のジョージ・フロイドさんが警官に身柄を拘束される中で死亡した事件を受けて実施されていた。ミリー陸軍大将は軍服姿で、トランプ大統領と並んでラファイエット・スクエアを横切って歩いた。トランプ氏は聖書を掲げ、セントジョンズ・エピスコパル教会の外で写真撮影に臨んだ。

そのすぐ翌日、ミリー氏は軍司令官らに向けて出した声明で、米軍に所属する誰もが合衆国憲法を支持、擁護する誓いを立てていることを認めた。そのうえで同憲法が「米国民に対し、言論と平和的集会の自由を権利として与えている」とした。

さらに翌週には、オンラインで行った国防大学の卒業式の最中に謝罪を表明。「私はそこにいるべきではなかった。あの瞬間、あの状況に私がいたことで、軍が国内政治に関与したという認識が生まれた。軍服を着た1人の将校として、私はこの失敗から学んだ」と述べた。

ミリー氏は、マティス氏やケリー氏に続き、こう結論したようだ。自身の職務の重要な要素とはその役割を政治化させないことであり、衝動的な大統領が軽率な行為に走るのを阻止することだ、と。20年の夏、軍が力ずくで介入して社会不安を鎮めるべきだというトランプ氏の主張に、ミリー氏はしばしば異を唱えた。米紙ウォールストリート・ジャーナルの記者、マイケル・ベンダー氏は著作の中でそう記している(CNNは当該の内容についてトランプ氏に連絡を取った。ミリー氏の報道官はコメントを控えた)。米国の安定をめぐって中国を安心させたときも、ミリー氏は被害の抑え込みを図っていたように思える。

見たところミリー氏の試みは、国の利益を最優先に考えたものだ。上司に当たる大統領が20年の大統領選の結果に異を唱え、支持者に行動を起こすよう呼び掛けるという異常な状況では、これこそが正しい判断だった。

とはいえそこには、今後の民間と軍の関係をめぐる興味深い疑問も浮かぶ。果たして未来の統合参謀本部議長は、政策意図の追求によって未来のカマラ・ハリス大統領やマルコ・ルビオ大統領の行動を抑制することになるのだろうか? なるほど、トランプ氏が一風変わった大統領ぶりを発揮し、軍の高官との間に亀裂を生じさせた後では、そうなる方が妥当に思える。中国を安心させるミリー氏の取り組みに喝采を送る人々は、文民統制の原則がトランプ氏の下で崩れてしまったのをいつか悔やむことになるかもしれない。たとえそれが、全く正当な理由によるものだったとしても。

ピーター・バーゲン氏はCNNの国家安全保障担当アナリスト。米シンクタンク「ニューアメリカ」の幹部で、アリゾナ州立大学の実務教授を務める。トランプ前大統領と軍高官との対立を扱った書籍の著者でもある。記事の内容はバーゲン氏個人の見解です。

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