(CNN) ブッダゆかりの宝飾品が出品されたオークションに対し、インド政府が強く抗議して返還を求めている。宝飾品はインドを植民地化していた英国の行政官が1世紀以上前に発掘したものだった。
アメジスト、真珠、カーネリアン、貝殻、金箔(きんぱく)の工芸品などの「宝飾遺品」コレクションは、7日に香港でオークションにかけられる。
オークションを主催するサザビーズは出品された宝飾品について「宗教的、考古学的、歴史的に比類のない重要性」があると形容。仏教徒の多くはブッダの体の一部と信じ、神聖なものと見なしていると指摘した。
「初期の仏教における重要性は、これまでのオークションの出品とは比べものにならない」。サザビーズはウェブサイトにそう記している。
宝飾品は1898年、インド北部のピプラワ村で自身の荘園を発掘していた英植民地時代の技術者ウィリアム・クラクストン・ペッペが発見したもので、子孫3人がオークションに出品した。
ブッダの生誕地は現在のネパールだが、悟りを開いて最初の説法を行ったのも、死去したのも隣国インドだった。
インド文化省は5日、「迅速かつ包括的な」措置を講じて競売を「直ちに」中止させ、「オークションの違法性に脚光を浴びせて国際法順守を徹底させる」と発表。「香港のサザビーズに対し、この遺品を直ちにオークションから撤回し、インド当局と協力してこの神聖な遺品を適正な場所に戻すよう求める」とした。
CNNは香港のサザビーズにコメントを求めている。インド文化省の発表によると、法的通知に対してはサザビーズの法務顧問から「本件には全力で取り組んでいる」との返答があった。
ペッペのバードプール荘園は、ネパールにあるブッダの生誕地ルンビニから20キロほど離れた現在のインド北部ウッタルプラデシュ州にあった。
ペッペの発掘では古代の仏塔と、砂岩でできた石棺のような巨大な墓が出土した。地下蔵からは紀元前240年ごろの宝飾品や貴金属など約1800点が入った五つの壺(つぼ)と、骨片および灰が見つかった。
壺の一つに刻まれた文字は、これがブッダの遺灰だったことを物語っていた。紀元前480年ごろ死去したブッダの遺灰は別々の8カ所に埋葬された。
この地は信頼できるブッダの遺品が近代で初めて発見された場所だったと専門家が指摘して以来、仏教学者や信者の想像をかき立て続けている。
「こうした宝飾遺品(全てブッダの一族が奉納した可能性が大きい)は、一緒に見つかった(ブッダの)遺灰や遺骨そのものと同じくらい貴重だ」。デリー大学仏教学部の元教授で学部長のカラム・テジ・S・サラオ氏はそう話す。
今回のオークションに出品された宝飾品は、出土品のごく一部にすぎない。
発掘された遺骨と遺灰は、英国からシャム(現在のタイ)のチュラロンコーン国王に贈られた。現在ではタイ、ミャンマー、スリランカの仏教聖地に分散されている。
インド政府によると、宝飾品は大部分がインドのコルカタにある博物館に送られ、5分の1(主なコレクションの複製)をペッペが保有していた。
論議を呼ぶオークション
ペッペの子孫が受け継いだ宝飾品のオークションに対しては、歴史家からも批判が噴出している。
「貪欲さにもほどがある。宝飾遺品の商業化は止めなければならない」とサラオ元教授は訴える。「宝飾品は直ちにインド政府に引き渡し、本来あるべきピプラワ仏塔にまつらなければならない」
東南アジアの仏教美術に詳しい学芸員のコナン・チョン氏とロンドン大学東洋アフリカ学院(SOAS)教授のアシュリー・トンプソン氏は共著論文を発表し、今回のオークションについて「植民地時代の暴力を永続させる」に等しいと指摘した。
宝飾品は「生きたブッダの存在がしみ込んだ体の一部」とみなされており、従って「これを安置した仏教徒にとって、そして現代の多くの仏教徒にとっても、宝飾品、遺骨、遺灰は全て遺品にあたる」としている。
宝飾遺品は現在、ウィリアム・クラクストン・ペッペのひ孫にあたるクリス・ペッペ氏と2人のいとこが保有している。2013年に受け継いでからは、一般公開(理想的には仏教徒への公開)を模索してきたという。
宝飾遺品に関する研究についてはピプラワ・プロジェクトを通じて一般に公開し、宝飾品は世界中の博物館で展示していた。
クリス・ペッペ氏はCNNの取材に対し、自分たちが保有する334品目は仏教徒の手に渡るべきだと思うと語った。
「メトロポリタン美術館など有名美術館で展示されても、一般の人(仏教徒を含めて)はこの宝飾品にあまり関心を示さなかった。寄贈先に寺院を選んでも美術館を選んでも、よく調べると全部違う問題があることが分かった」と同氏は言う。
「今回のオークションでようやくこの宝飾品に脚光を浴びせることができた。これで最も公正かつ透明性の高いやり方で、発見品のごく一部を仏教徒に引き渡すことができるかもしれない。サザビーズがそれを実現してくれると確信する」
同氏によると、オークションの収益の25%は「仏教施設」に、25%はこれまで未公開だったコルカタのピプラワコレクション展示のために、それぞれ寄付される。