Fashion

捨てられた着物をスタイリッシュなスニーカーに 日本の文化を守る東京発のスタートアップ

「TOKYO KIMONO SHOES」は着物生地をスニーカーなどにアップサイクルしている

「TOKYO KIMONO SHOES」は着物生地をスニーカーなどにアップサイクルしている/Tokyo Kimono Shoes

(CNN) 着物は日本の文化的アイデンティティーに深く織り込まれている。しかし今では、この象徴的な衣服が着用される機会はほとんどない。

着物は主にフォーマルな場で着られ、何世代にもわたって保管されることも多く、アナリストらは数十億ドル相当の着物がクローゼットに眠っているとみる。

小売りスタートアップ、POTATOの河村晶太郎最高経営責任者(CEO)は、この状況を変えたいと考え、日本の伝統工芸の職人と協力し、不要になった着物をスニーカーなどの新しい製品にアップサイクルしている。

河村氏は、着物の生地を日常生活で使えるように形を変えることで、この文化をさまざまな形で守れると語る。

「TOKYO KIMONO SHOES」を立ち上げた当時の河村晶太郎CEO=2022年/CNN
「TOKYO KIMONO SHOES」を立ち上げた当時の河村晶太郎CEO=2022年/CNN

同社の主力ブランドである「TOKYO KIMONO SHOES」は、1950年代から履物を手作りしている東京・浅草の靴職人工場と提携している。河村氏によると、着物1着から作れるスニーカーは20足で、世界中の顧客に1足およそ325ドル(約4万6000円)で販売されている。

スニーカーを選んだのは、世界中の誰もが毎日履くものだからだという。河村氏は職人の産業を守りながら、廃棄物の絶対量を減らすことが使命だと意気込みを語る。

河村氏は、単純に古いものが良いとは思っておらず、着物は本当に良いものだからこそ生活の中に残っているとの見方も示した。

着物で覆われたスニーカー

着物は日本で1300年あまりにわたって着られている。かつては晴れ着から普段着まで、幅広く着用されていた着物の生地は、精巧な刺しゅうが施されたブロケード生地から、軽量な綿プリント生地まで多岐にわたる。

人気は特に女性の間で根強かったが、1960年代半ば以降、着物の着用は特別な機会に限られていった。

インドで8年間物流に従事するなかで、河村氏は日本の多くの産業の衰退を目の当たりにする。そこで帰国後は、日本の工芸品を広める方法を模索し始めた。

浅草にある家族経営の靴工場、アクストに出会ったのはそんなときだった。代表取締役の小野崎紀子氏は2020年、何十年もタンスにしまいこんでいた母親の古い着物をアップサイクルしようと決め、着物生地を使ったスニーカーの製造を開始した。

捨ててしまうのはもったいないと思った。小野崎氏はそうメールで説明してくれた。

当時、着物を使ったスニーカーの流通範囲は限られていたが、物流と貿易の専門知識を持つ河村氏は、国際市場に大きな可能性を見いだした。

消費者の着物スニーカーへの関心を把握するため、川村氏は22年に日本のクラウドファンディングプラットフォーム「マクアケ」でこのスニーカーを公開。目標金額は30万円と控えめだったが、850万円もの調達に成功した。

そこからわずか数カ月で「TOKYO KIMONO SHOES」を立ち上げ、初回生産分の40足は3日で完売。事業は拡大を続け、24年には4500足を販売、690着(約2732平方メートル)分の着物をアップサイクルした。

TOKYO KIMONO SHOESは着物を取り入れたレザーバッグも作っている/Tokyo Kimono Shoes
TOKYO KIMONO SHOESは着物を取り入れたレザーバッグも作っている/Tokyo Kimono Shoes
中古の着物を利用しているため、スニーカーはすべてがオリジナルだ/Tokyo Kimono Shoes
中古の着物を利用しているため、スニーカーはすべてがオリジナルだ/Tokyo Kimono Shoes

河村氏と同氏のチームは、アクストがスニーカーの製造に使用する着物の調達からマーケティング、販売、さらに世界中の顧客への配送を手がける。アクストにとって安定した収入源は、浅草の伝統的な靴作りと皮革産業の維持に貢献していると川村氏は語る。

同氏は、顧客に商品を気に入ってもらうだけでなく、生産工程も見に来てほしいと考えているという。

トレンドの織物

コンサルティング会社マッキンゼーのデータによると、ファッションの持続可能性と環境への影響に対する消費者の懸念を背景に、古着の売上は急速に伸び、世界のアパレル市場の10%を占めるに至っている。

米国に拠点を置くオンライン着物リセラー「Kyoto Kimono」の創業者、ナンシー・マクドノー氏によると、日本のビンテージ衣料市場は金額ベースで19年から23年の間に60%増加し、数十年にわたって成長を続けているという。元教師のマクドノー氏は1990年代半ば、数年間京都に住んだときに着物に魅了され、米国に戻るまでに約500着を収集。それが再販サイトを立ち上げるきっかけとなった。

当時の日本は中古品への関心が低く、ビンテージショップを見つけるのに苦労したとマクドノー氏は振り返る。「『中古』ではなく『古い』着物を探していると伝えるよう気を付けていた。そうしないと、何らか烙印(らくいん)を押されてしまう可能性があったから」

現代では着物はフォーマルな場や文化的な行事以外で着られることはほとんどない/CNN
現代では着物はフォーマルな場や文化的な行事以外で着られることはほとんどない/CNN

しかし、2000年代初頭になると状況は変わり始めた。1999年に創業し、瞬く間に数十店舗を展開した「たんす屋」のような中古着物を扱う店が登場し始めたのだ。

マクドノー氏は海外で着物の人気が高まっている理由として、アニメや「SHOGUN 将軍」など高く評価されているドラマ、SNSで人気となっている着物を取り入れたストリートファッションのような日本のポップカルチャーへの世界的な関心を挙げる。

「普段着感覚の人に新品の絹の着物は手が届かないが、ビンテージの着物は手頃な価格の選択肢になっている」(マクドノー氏)

最近では、他の企業も伝統的な衣服を現代的なものに生まれ変わらせる方法を編み出している。京都を拠点とするデザイナー「季縁」は、着物をエレガントなフォーマルドレスに仕立て、「Made by Yuki」は、着物生地をシャツやパンツなどの普段着にリサイクルしている。

着物を生まれ変わらせる

捨てられた着物の状態は良くないため、部分的に再利用される/Tokyo Kimono Shoes
捨てられた着物の状態は良くないため、部分的に再利用される/Tokyo Kimono Shoes

TOKYO KIMONO SHOESが軌道に乗ると、河村氏は着物のアップサイクル製品のさらなる可能性に気づいた。

捨てられる着物の数は膨大だ。多くの中古流通業者が廃棄されたり寄付されたりした着物を集めているものの、傷んでいたり状態が悪かったりするため、90%ほどは再販できない。そこで河村氏はそれらを仕入れているという。

河村氏は昨年、二つ目のブランド「KIMONO REBORN TOKYO」を立ち上げ、Tシャツやトートバッグ、帽子など商品のラインアップを広げた。主に東京の職人と協力することで幅広い層に受け入れられ、浅草に旗艦店をオープンしてから14カ月の間に1060着(4160平方メートル)の着物をアップサイクルしたという。

今年に入って成田空港に2号店をオープンし、すでに次の事業も計画している。それは、岡山の職人が作る「足袋シューズ」だ。

河村氏は、次世代のデザイナーに伝統的な織物に携わってもらおうと地元のデザイン学校と提携もしている。着物の職人技は世代を超えて継承するのが難しい。だからこそ共に協力して技術を守り続けていきたいと、織田ファッション専門学校の丸尾裕美子氏は語る。

「KIMONO REBORN TOKYO」はハットなど幅広い商品をとりそろえる/Kimono Reborn Tokyo
「KIMONO REBORN TOKYO」はハットなど幅広い商品をとりそろえる/Kimono Reborn Tokyo
KIMONO REBORN TOKYOは今年、成田空港に2号店をオープンした/Kimono Reborn Tokyo
KIMONO REBORN TOKYOは今年、成田空港に2号店をオープンした/Kimono Reborn Tokyo

将来的にはルームウェアや家具、インテリア装飾などへも展開したい考えだ。毎年観光客が増えていることから、着物で装飾されたホテルの開業も視野に入れている。

河村氏の願いは、スニーカー、トートバッグ、Tシャツなどさまざまな形で再解釈された着物を通して古い生地にも価値があることを人々に思い出してもらうことだ。

良いものは捨てるのではなく、取っておくべきだ。形を変えることで、もっと良くなる。再利用したり、リメイクしたり、楽しむ方法があることを示したい。河村氏はそう語った。

原文タイトル:This Tokyo startup is turning discarded kimonos into stylish sneakers(抄訳)

注目ニュース

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]