Design

CGデザイナーが取り組む古代書体のデジタル化

Adonian Chan

われわれは、朝目覚めてスマートフォンでメッセージをチェックする瞬間から一日中、活字書体にさらされている。

香港を拠点に活動するグラフィックデザイナーで、デザイン会社トリリングアの共同創業者でもあるアドニアン・チャン氏(33)は、日常生活の中で出会うさまざまな文字列を「視覚的風景」と表現する。

中でもチャン氏が香港を象徴する書体と考えているのが北魏楷書だ。北魏楷書は、4世紀の中国で生まれた力強い書体だが、チャン氏によると、今この北魏楷書は絶滅の危機にさらされているという。そこで、チャン氏がこの書体を守るために取り組んでいるのがデジタルフォント化だ。

碑文用の書体

香港デザイン研究所(HKDI)でコミュニケーションデザイン部門の責任者を務めるキース・タム氏によると、北魏楷書は中国の南北朝時代に建設された北魏(西暦386年~534年)で生まれ、歴史的出来事を石に刻むための書体として用いられたという。

北魏楷書が使われた看板=香港の油麻地/Adonian Chan
北魏楷書が使われた看板=香港の油麻地/Adonian Chan

19世紀に、清朝の著名な書道家で碑文研究に関心があった趙之謙が、彫刻刀の代わりに筆を使って、北魏楷書を復活させた。

タム氏によると、北魏楷書が具体的にいつ香港に伝わったかを特定するのは不可能だが、1880年代に生まれた香港の著名な書道家、區建公の貢献により、20世紀に香港で北魏楷書の人気が広まった。區はいわゆる「商業書道家」で、香港中の店や組織の看板や表札の文字を書いていたが、書体はほとんど北魏楷書を使っていたという。

北魏楷書が中国の他の書体と一線を画している点は、その非対称の構造、大胆な線、予想外の角度で、これらの特徴が文字を「活動的」に見せる、とチャン氏は言う。

かつて北魏楷書体で書かれた看板は書道家たちの「腕」が頼りだったが、最近はコンピューターで作ったフォントやLEDネオンサインの出現により、それらの看板が香港から姿を消しつつあるという。

チャン氏は「(北魏楷書体の看板は)ほぼ絶滅した」とし、その原因として香港の都市景観の急速な変化を挙げる。香港では古い建物や店の取り壊しで視覚文化が破壊されており、その結果、現在活動しているデザイナーで北魏楷書体を知っている人はほとんどいない、とチャン氏は嘆く。

書体のデジタル化

チャン氏は2016年に、香港の書道家で區建公の弟子であるウォン・ゴック・ローエン氏に北魏楷書を習った後、北魏楷書体の文字のデジタル化に着手した。チャン氏は、まず筆と墨汁で紙に文字を書いてバランス感覚を養う。次に鉛筆で下書きし、最後に「グリフス」というフォント作成ソフトを使って文字をデジタル処理で再現する。

北魏楷書と「Apple Ping Fang」との比較
北魏楷書と「Apple Ping Fang」との比較

古代の書体をデジタル化する際の主な課題のひとつは、手書きのレタリングの芸術的表現とフォントデザインに必要な一貫性と統一性をいかに両立するかだ、とチャン氏は言う。

チャン氏が1日にデジタル化できる文字数は、文字の複雑さにもよるが、2文字で、最終的に6000字のデジタル化を目指している。チャン氏は、自ら作成したフォントがいずれ携帯電話やコンピューターにインストールされることを願っている。

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