Arts

ウクライナの文化遺産を守れ、一刻を争う博物館の取り組み

侵攻から文化遺産を守る、ウクライナの博物館の取り組み

ウクライナ西部の街、リビウにある国立博物館の壁はむき出しになっている。本来は精巧な金の装飾を施した壁板がそこに展示されていた。17世紀のバロック様式の教会から回収したものだ。しかしそれらは急いで1つにまとめられ、地下に隠された。ロシアの襲撃に備え、街の文化遺産を守るための措置だった。

「現在我々は、ロシアが居住地域をどのように砲撃するのか分かっている。避難する人々さえも狙われる」。そう語るのはリビウ国立博物館のイホール・コジャン館長だ。「彼らはそんなことはしないと請け合っていたが、もう信用できない。だから自分たちの文化資産をきちんと保護する必要がある。何と言っても我が国の宝だから」。

ロシアによるウクライナ侵攻はすでに、著名なウクライナ人画家、マリア・プリマチェンコの作品を収蔵した美術館を破壊した。プリマチェンコの色彩豊かで創造性あふれる作品は、パブロ・ピカソとマルク・シャガールの両者から高い評価を受けた。現在、ウクライナの文化的首都と称されるリビウの街は、歴史的芸術の豊富なコレクションを守るべく奔走している。

リビウの歴史地区はユネスコの世界遺産に登録されており、国立博物館は中世の宗教芸術と希少な宗教写本における国内で最も完全な形のコレクションを所蔵する。

博物館の地下に入りきらず、廊下に置かれた17世紀の芸術作品
博物館の地下に入りきらず、廊下に置かれた17世紀の芸術作品

一刻を争う中で書物や絵画、その他の芸術品を救出するため、特別な梱包材がそろうのを待つ時間はほとんどない。間に合わせの代用品は、ボランティアらが慌ててこしらえた木枠だ。手あたり次第に集めた木材を釘で打ち付けて作る。

7日、ボランティアが古い写本を詰め込んだ段ボール箱は、本来バナナをスーパーに運ぶためのものだった。写本の中には金糸の装飾が施された1000年前にさかのぼる聖書もあった。

宗教的な場所では、最悪の事態にも備えている。市内にあるアルメニア教会の大聖堂は、キリストの磔刑(たっけい)をかたどった中世の木彫りの像を安全な保管場所に移した。第2次大戦を生き延びたラテン大聖堂の巨大なステンドグラスは、現在鋼板でふさがれている。市のランドマークとなっている像の多くは、気泡緩衝材でくるまれている。

バナナの配送用だった段ボール箱が、今は貴重な芸術作品の保管に使用されている
バナナの配送用だった段ボール箱が、今は貴重な芸術作品の保管に使用されている

しかし単に芸術品や歴史的遺物を確保、保管するだけではそれらを守るのに十分ではないかもしれない。現在貴重な美術作品をキエフやハリコフなど敵に包囲された都市から避難させる計画も練られている。もしそうした措置が必要になれば、避難先はリビウをはじめとするより安全な街となりそうだ。

「我々には可能な限りどんな方法でも手を貸す用意がある。今や国内のすべての博物館が危険な状況だ」。そう語るコジャン氏は、世界遺産指定されたリビウ市内の多くの場所も侵攻の標的になるかもしれないと警鐘を鳴らしている。

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