イッカク、長い牙を遊びに使用か 証拠動画を初めて撮影
(CNN) 北極海に生息する哺乳類のイッカクをめぐり、イッカクが牙を使うのは、餌を食べる際に魚を攻撃したり操ったりするためだけでなく、遊び心を示すような行動を取る際にも牙を使っていることを示す初めての証拠映像が撮影された。
イッカクはその特徴的な牙から「海の一角獣」とも呼ばれるが、その生態などには謎も多い。
イッカクが自然界でどのような交流を行っているのかについては観察例が少なく、その特徴的な牙をめぐってはさまざまな臆測が出ている。
長い牙は主にオスに見られ、その長さは3メートルに達することもある。過去の研究では繁殖相手をめぐる競争の際、メスを引きつけるために使われる可能性が示唆されていた。
しかし、ドローン(無人機)を利用した北極圏での研究により、イッカクがこの牙を求愛行動以外にも使用している可能性が明らかになった。
研究では、イッカクが獲物をめぐって示す17種類の新たな行動を特定して記録した。
今回の研究結果からは、イッカクと魚との間にはさまざまなやり取りや力学が存在することが明らかになっただけではなく、動く標的を追跡する際のイッカクの牙の驚くべき素早さや正確さ、速さも示された。今回の研究は2月下旬に科学誌に掲載された。
「これらの生き物が実際に魚を狩っているのではなく、探り、操作し、交流しているとわかったことは大きな転換点だった」。そう語るのは、筆頭著者で、フロリダ・アトランティック大学ハーバーブランチ海洋研究所のグレゴリー・オコリークロウ博士だ。
イッカクについてはわかっていることがほとんどないため、オコリークロウ氏やその同僚のような研究者は、イッカクの未知の行動を記録する研究を積極的に実施し、海洋の水温があがり海氷が溶けるにつれて急速に変化する生活環境のなかでイッカクがどのように適応しているのかをよりよく理解しようとしている。
研究チームは2022年夏、カナダ・ヌナブト準州のサマーセット島の東に位置するクレスウェル湾で、ドローンを使い画期的な映像を撮影した。
映像を分析したところ、イッカクの行動に微妙な違いがあることがわかった。映像には、イッカクが魚を食べようとはせず、牙で魚を何度もつつく場面も捉えられていた。イッカクと魚との一部のやりとりには攻撃性が欠けていることが観察された。オコリークロウ氏によれば、こうした状況はイッカクが狩りをしているというよりは、追いかけたり、「遊んだり」していることに近いことに気が付いたという。
「遊びは、他の方法で生存に重要となる行動技術を発達させるうえで非常に重要な要素だ。しかし、こうした行動にイッカクが携わっているという事実は、イッカクが非常に複雑で興味深い生活を営んでいることを我々に思い起こさせる」(オコリークロウ氏)
研究によれば、若いイッカクは年上のイッカクの行動をまねする傾向があり、社会学習がイッカクの牙の使い方に影響を与える可能性がある。
クジラやイルカの保護に取り組む国際的な慈善団体「WDC」の科学部門の責任者アンナ・モスクロップ氏によれば、近年はクジラの研究にドローンを活用することで、これまで記録されていなかった行動に関する驚くべき知見が明らかになっている。モスクロップ氏は今回の研究に関与していない。
研究チームは、常に日光がある夏季を活用し、24時間体制でイッカクの観察を行った。
今回の研究は主に牙の使い方に焦点があてられたが、食習慣など、そのほかの重要な行動の変化も見つかった。
研究チームは、捕食者と獲物との間に予想外の競争が存在していることを発見した。北極圏に生息するシロカモメは頻繁にイッカクから魚を盗もうとし、捕獲できる獲物の量を大量に減らしていた。
モスクロップ氏によれば、カモメは陸上動物が集めた餌を盗むことで知られているが、海洋生物から餌を盗むという行動にはほとんど観察例がないという。
オコリークロウ氏によれば、イッカクはカモメに対応するため、より大きく、より密集した魚群を狩るために海に深く潜る可能性がある。これによって、比較的簡単に獲物を得られる機会と引き換えに支払う代償が、それに見合うものとなるかもしれないという。