火星の地下に大量の水、太古の海を満たす量 米NASA探査機で判明
その結果、インサイトのデータは、液体の水を含む火成岩(火山岩)層のデータと一致することが分かった。
「液体の水の巨大な貯水池の存在が確認されれば、どんな気候だったのかを探る手がかりになる」とカリフォルニア大学バークリー校のマイケル・マンガ教授は解説する。「水は生命にとって必要なものであり、(地下の貯水池が)生存可能な環境ではないと判断する理由はない。地球では、鉱山の奥深くにも、海の底にも生命が宿っている。火星ではまだ生命の痕跡は見つかっていない。だが少なくとも我々は、理論上は生命を支えられるはずの場所を発見した」
もしも火星全体に同じような地核があるとすれば、地核の中層に存在する水の量は、「古代の火星にあったとされる海を満たしていた量」を上回ると研究チームは指摘する。
インサイトのデータの解析では、過去についても現在についても生命に関する情報は見つからなかった。それでももし火星に水があるとすれば、地球の奥深い場所にある地下水に微生物が生息しているのと同じように、湿った火星の地核にも生命が存在できる可能性はあるとライト氏は言う。
ただし、地球上でさえ、わずか1キロでも掘削するためには相当のエネルギーとインフラを要する。従って、火星の地面を掘削しようと思えば大量の機材や設備などを持ち込む必要がある。
研究チームにとって、インサイトの下の地核の温度が低い部分で凍った地下水の層が存在する痕跡が見つからなかったのは予想外だった。研究チームは現在も、地核の中層よりも浅い部分に凍った地下水がない理由を解明しようとしている。
火星の歴史の記録
今回の研究によって火星の水をめぐる謎を解く鍵が一つ増えた。
コーネル大学のアルベルト・フェアレン氏(今回の研究にはかかわっていない)によると、火星の地下に液体の水が存在する可能性は何十年も前から指摘されていたが、火星探査機の実測データで証明されたのは初めてだった。
ライト氏らは、将来的にもっと多くの地震計を、火星などの惑星や月に送り込むことができればと考えている。インサイトの地震計1基だけで貴重なデータが収集できたことを考ええると、火星の全土に地震計を張り巡らせれば火星の内部の状態が観測でき、火星の多様で複雑な歴史を解明する役に立つことが期待される。
「地球では地下水が川や湖を通じて地表につながっている。初期の火星もきっとそうだった。我々が見つけた地下水はその過去の記録だ」とライト氏は話している。