大西洋の重要な海洋循環、崩壊の予兆を示しつつある 研究者ら警鐘

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アイスランド沖の北大西洋が波立つ様子=2020年3月/Daniele Orsi/REDA&CO/Universal Images Group/Getty Images

アイスランド沖の北大西洋が波立つ様子=2020年3月/Daniele Orsi/REDA&CO/Universal Images Group/Getty Images

(CNN) 大西洋の海水が表層で北上し、深層で南下する大西洋子午面循環(AMOC)は既に崩壊に向かっている可能性がある――。そんな新たな報告が発表された。AMOCの崩壊は海面上昇や世界の気象に深刻な影響を及ぼし、各地で気温の急激な低下や上昇をもたらす可能性があるという。

米科学誌サイエンス・アドバンシズに9日発表された研究結果によると、研究チームは極めて複雑で高価な計算システムを使用し、AMOC崩壊の予兆を捉える指標(EWS)を検出する新たな方法を発見した。

AMOCは巨大な地球規模のベルトコンベアのような働きをしている。AMOCが熱帯地域の暖かい海水を遠く北大西洋まで運ぶと、海水はそこで冷却されて塩分濃度が高まり、海中深くに沈み込んで再び南へ向かう。

こうした海流は地球上のさまざまな地域に熱や栄養分を運んでおり、北半球の広い地域の気候を比較的温暖に保つうえで欠かせない役割を果たす。

気候変動に伴う海洋温暖化や氷の融解により、海流の強さを決定する熱と塩のバランスが乱れる中、科学者はAMOCの安定性について長年警鐘を鳴らしてきた。

科学者の間では気候変動の影響でAMOCのスピードが遅くなり、場合によっては停止する可能性もあるとの見方が多いが、それがいつ、どれだけ早く起きるのかについては依然不明な点が多い。AMOCの継続的な観測が始まったのは2004年に過ぎない。

ただ、氷床コアや海洋堆積(たいせき)物のような手掛かりを使って過去を再現した結果、AMOCが今から1万2000年以上前、氷河の急速な融解の後に停止したことは分かっている。

これと同じことが再び起きる可能性がないか、いま研究者は解明を急いでいるところだ。

今回の新研究は「重要な突破口」になる――。そう語るのはオランダ・ユトレヒト大学の海洋大気研究者で、論文の共著者を務めたレネ・ファンウェステン氏だ。

研究チームはスーパーコンピューターを駆使して3カ月にわたり複雑な気候モデルを走らせ、シミュレーションの中でAMOCに徐々に淡水を加えていった。淡水の追加は氷の融解や降雨、流入する河川水を表している。これらは海水の塩分濃度の希薄化し、海流を弱体化させる原因となる可能性がある。

モデル内で淡水の量を少しずつ増やしていくと、AMOCは徐々に弱まり、やがて突然崩壊した。こうした複雑なモデルでAMOCの崩壊が確認されたのは初めてで、報告書は「気候システムと人類にとって悪い知らせ」だと指摘する。

ただ、この研究では崩壊までの時間枠は示していない。ファンウェステン氏はCNNの取材にさらなる研究の必要性を指摘し、地球温暖化の進行を含む気候変動の影響を考慮したモデルも必要になるとの見方を示した。

それでも「気候変動の下、我々は(AMOCの崩壊という)転換点の方向に進んでいるということは少なくとも言える」という。

AMOC崩壊の影響は破滅的なものになる可能性がある。欧州の一部地域では100年間で気温が30度低下し、わずか10~20年の間にまったく別の気候に変化するかもしれない。

論文の著者らは「どんな適応策もそこまで急激な気温の変化には現実的に対応できない」と指摘する。

一方、南半球の国では温暖化が加速する可能性がある。アマゾンでは雨期と乾期が逆転し、生態系に深刻な影響を及ぼす可能性がある。

ファンウェステン氏によると、海水面は約1メートル上昇する可能性があるという。

論文に関わっていないドイツ・ポツダム大学の海洋物理学者、ステファン・ラームストルフ氏は、今回の研究成果を「AMOCの安定性に関する科学で大きな進展」と評価する。「北大西洋が淡水で薄まれば、AMOCが崩壊するという転換点があることを確認した」

以前にも転換点の存在を示す研究はあったが、はるかに簡単なモデルを採用していた。科学者の間では、複雑なモデルでは転換点が存在しないのではないかと期待する声もあったが、今回の研究でそれが打ち砕かれたと同氏は語る。

英国の国立海洋学センターで海洋システムのモデル形成に携わるジョエル・ハーシ氏は、大洋に比較的少量の淡水が入ることでAMOCが「オン」から「オフ」に切り替わることを、複雑な気候モデルで示した初の研究だと評価した。

ただ注意すべき点もあり、複雑なモデルといってもまだ解像度が低く、一部の海流ではモデルとしての限界がありうるという。

近年、AMOCが転換点に近づいている可能性を示す研究が増えている。

2021年の研究では、AMOCが過去1000年で最も弱くなっていることが示された。昨年7月に公開された論文は、早ければ2025年にもAMOCが崩壊する可能性があると警鐘を鳴らし、議論を呼んだ。

ただ、まだ不確実性も大きい。米アリゾナ州にある惑星科学研究所のジェフリー・ガーゲル氏は、AMOCの停止が迫っているとする理論は、それが起きているとわかるまでは論議を呼ぶものであり続けるのではと考える。

AMOCの崩壊の可能性はいわば「株式市場の荒っぽい変動のうち、大暴落の前触れになるもの」にあたり、どの変化が元に戻せ、どの変化が大災害の前触れになるのかを見極めるのは不可能に近いとの認識を示す。

ハーシ氏によると、最近のデータからはAMOCの強さに変動が見られるものの、まだ減退が生じているとの観測上の証拠はない。「気候の温暖化が進む中、過去にあったようなAMOCの突然の変化が起きるかどうかは、まだ解の出ていない重要な問題」と言及する。

ラームストルフ氏は、今回の研究はそのパズルを埋めるピースの一つになると語る。研究は「AMOCの崩壊がそう遠くない将来に起きるとの懸念に拍車をかけるもの」であり、「我々がこのリスクを無視すれば危険を冒すことになる」と続けた。

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