台湾の少子化対策、保守的な伝統が妨げに

移動図書館の本を読む子どもら=2023年12月、台北/Wiktor Dabkowski/picture-alliance/dpa/AP

2024.04.28 Sun posted at 11:39 JST

台湾・台北(CNN) 台湾の同性婚カップル、洪紹挺さんと黄恒綜さんにとって、血のつながった子どもを授かるのは決して楽ではなかった。

2人は2019年、ちょうど台湾がアジアで初めて同性婚を合法化したタイミングで結婚。ほどなく家庭を築きたいと思うようになった。

「友人はみなすでに親になった。私たちも親としての愛情を示したいと思った」と黃さん。

だが台湾では、同性愛者の男性は人工生殖治療を受けることができない。ともに40代半ばで大学教授同士という2人は、海外に目を向けるしかなかった。

2人はまずロシアの生殖クリニックに1週間以上入院したが、規制改正により治療を最後まで受けられないことが判明した。その後2人は米国の代理出産で子どもを授かることができた。だが16万ドル(約2400万円)という膨大な費用がかかった。

こうした事例は、陳菁徽氏にとっても頭痛の種だ。同氏は先の総選挙で、立法院(国会に相当)の議員に不妊治療医として初当選した。


洪紹挺さんと黄恒綜さん、子エイダンくん/Alan Hung and Danny Huang

「台湾の医療技術は世界でも群を抜いている。なぜわざわざ高い金を払って海外に行かねばならないのか」と陳氏はCNNとのインタビューで語った。

台湾では同性婚カップルやシングルマザーは人工受精(IVF)や卵子凍結といった治療から除外されている。一方で代理出産は全面的に違法だ。

陳氏は他の議員らとともに規制緩和を推し進めている。目の前に立ちはだかる人口減少は台湾経済のみならず、ますます主張を強める中国への防衛力という点でも脅威だ。

東アジアの先進国は出生率低下の問題を抱えているが、民主主義統治を行う人口2400万人の台湾にとってはとくに切迫した問題だ。

台湾の出生率は世界でも最低水準で、新生児の数も年々減少している。22年の合計特殊出生率(女性1人が生涯に出産する子どもの数)はわずか0.87。日本の1.26、シンガポールの1.05をはるかに下回り、韓国の0.78をわずかに上回る程度だった。

移民に頼らず、安定した人口を維持するために必要な出生率は2.1だ。

アジア諸国は奨励金制度を設けて出産促進を図っている。香港では新生児1人につき2550ドルを受け取れる。韓国では第1子の場合1500ドル、第2子以降は2260ドルの補助金が支給される。日本政府も昨年、子育て支援の予算を倍増すると発表した。


不妊治療医の陳菁徽氏。先の選挙で立法院の議員に当選した/Eric Cheung/CNN

出生率を上げるために

陳氏は「火急の問題」と呼ぶ台湾の少子化問題への対策として、自ら先頭に立って生殖補助医療の受け入れ拡大を働きかけていくことが議員としての最優先課題のひとつだと述べた。

長年保守路線を取ってきた国民党の出身で、著名な医師でもある陳氏は、議会に提出する法案ではシングルマザーや女性間の同性婚カップル、異性間の未婚カップルへのIVF適用が最優先されるだろうと述べた。そのほうが、台湾社会では代理出産のように波紋を呼ぶことはないだろうというのが同氏の考えだ。

「代理出産についても、社会全体で対話を続けることが重要だ」と陳氏は言い、「できれば(4年の)任期中に可決したい」

陳氏の話によると、23年に台湾で生まれた新生児13万5571人の約17%は生殖補助医療で誕生した。規制緩和が進めば、台湾の出生率も20~30%増加するだろうと同氏は付け加えた。

台湾にとって少子化はとくに切迫した問題だ。人口が減少すれば兵役人口も減るからだ。

立法院の報告書によると、23年6月の時点で職業軍人の数は15万5000人。2年前の16万5000人から大幅に減少し、18年以来最低の記録だ。

中国の軍事活動を抑制するために台湾が防衛強化を図っている現在、これは悪い知らせだ。中国共産党は台湾を自らの領土の一部とみなし、必要とあれば武力を行使して「統一する」と宣言している。ただし、中国が台湾を統治した過去は一度もない。

専門家の間では、出生率低下は日本や韓国といったアジアの経済国より、台湾に大きな脅威をもたらしているという意見もある。台湾の人口基盤は他の国々よりも小規模なほか、有事の際に他国から具体的な安全保障の支援が受けられないためだ。

台湾のシンクタンク「国防安全研究院」は、少子化を「国家安全保障の問題」と位置づけている。

米国同様、台湾の民主主義政治も長らく2大政党制を取っており、見解の一致はまれだ。だが人口減少に関しては珍しく、党派を超えて意見が一致している。

対策が必要だという点では、与党の民進党も同意見だ。

今年1月、台湾の衛生福利部(厚生労働省に相当)の薛瑞元・部長は生殖に関する法律の修正が優先事項だとし、今後2カ月のうちに公聴会を開いて、規制緩和の在り方について協議する予定だと述べた。

就業人口の低下は軍事面だけでなく、長期的な台湾経済にとっても脅威だ。現在経済力で世界第21位の台湾は、スマートフォンからコンピューターまであらゆるものに欠かせない半導体チップの供給で、他国を大きく引き離している。

だが台湾でも労働者不足が深刻化している。製造業、建設業、農業など様々な分野で、人手不足を補うべく東南アジアからの出稼ぎ労働者にますます依存している。


凍結保存した卵子を扱う看護士/Eric Cheung/CNN

完全な平等を目指して

台湾の中国医薬大学付設病院で婦人科主任を務める張訓銘医師も、生殖にまつわる「各種規制の段階的緩和は理にかなっている」と言う。

生殖医療の分野に30年以上携わる張氏によれば、「こうした治療は既存の技術で完全に対処することができる」。

陳議員もこれに賛同するが、いまだ台湾で統一見解が取れていないと思われる分野がひとつあることも認めた。それは代理出産の合法化だ。

台湾で生殖補助医療の規制緩和に関する議論が高まる中、緩和に反対する人々は記者会見を開き、「不完全な家庭」に生まれた子どもの幸福に懸念があるとして法律改正の先延ばしを求めた。

代理出産によって「子宮が商品として扱われる」ことを危ぶむ声もある。妊娠期の代理母の権利を保護する包括的な法的枠組みを設けることで、こうした主張も和らぐだろうと陳氏は考えている。


台湾の出生率は世界でも最低水準だ/Paula Bronstein/Getty Images

議論の第1段階では、代理出産が除外される公算が高い。洪さんと黄さんの息子エイダンくんは生後9カ月になったばかりだが、2人のような同性婚カップルは引き続き(少なくとも当面は)台湾で生殖補助医療を受けることができない。

同性婚が19年に合法化されて以来、台湾は段階的に同性婚や国際結婚を完全に承認し、養子縁組の権利も認めた。残るは生殖補助医療だけ。婚姻の完全平等に向けた最後のハードルとなる。

「異性愛者であれ同性愛者であれ、家族を作ろうと一生懸命努力しているカップルが新しい家族を迎えた時の喜びは変わらない。子どもへの愛情も同じだと思う」と黄さんは言う。

「議論が広がることで、新しい法律が制定され、家庭を築きたいと願うすべての人が同じ医療を受けられるようになってほしい」(黄さん)

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