大西洋の海洋循環、今世紀半ばにも停止か 「早ければ2025年」

グリーンランドのクルスク近郊の氷山/Felipe Dana/AP

2023.07.26 Wed posted at 11:35 JST

(CNN) 世界でこのまま温室効果ガスの排出が続けば、大西洋の海水が表層で北上し、深層で南下する南北循環(AMOC)は今世紀半ば、早ければ2025年にも停止する恐れがあるとの研究結果が報告された。

デンマーク・コペンハーゲン大学の物理気候学者、ピーター・ディトレフセン教授らが25日、英科学誌ネイチャーに発表した。

AMOCは地球規模のベルトコンベアーのように、熱帯の暖かい海水と塩分を北大西洋に運ぶ。北大西洋で冷えた海水は深層に沈み込み、再び南下する。

この循環は世界の気象パターンを維持する重要な役割を果たしているため、停止すれば欧米の極端な異常気象や海面上昇、熱帯の季節風の変化など、各地で重大な影響が出る事態が予想される。

科学者らは何年も前から、気候危機が加速するにつれてAMOCが不安定になり、流れの強さを左右する水温と塩分濃度のバランスが崩れる恐れがあると指摘してきた。

温暖化で氷が解ければ海に淡水が流れ込み、海水の塩分濃度が下がって密度が低くなるため、沈み込む力が弱まる。海水の塩分が薄まりすぎたり温度が上がりすぎたりすると、ベルトコンベアーは止まってしまう。

この現象は、今から1万2000年以上前にも起きていた。氷河が急速に解けてAMOCが停止し、北半球の気温は10年のうちに10~15度も変動した。

AMOCの停止は地球上の全人口に影響を及ぼすと、専門家らは指摘する。

国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は19年の報告書で、AMOCが今世紀中に弱まると予想した。ただし、世紀末までに完全に崩壊する可能性は低いと結論付けていた。

新たな研究は、これよりはるかに厳しい見通しを示している。

カナダ・ニューファンドランド島フラットロックの入り江に浮かぶ氷山

AMOCの継続的な観測が始まったのは04年だが、研究チームはより広範囲のデータを調べ、人為的な気候変動が始まる前の海流と比較した。

ディトレフセン教授は「時代をさかのぼる必要があった」と説明する。具体的には、1870~2020年の150年間について、グリーンランドの南側に広がる北大西洋の表面温度を分析した。

この海域では、AMOCで熱帯から運ばれた海水によって水温が上昇する。したがって水温が下がってきた場合、それはAMOCが弱まっていることを意味する。研究チームは、過去のデータから地球温暖化による海水温の上昇分を差し引いて、AMOCの変化を調べた。

その結果、AMOCに重大な変動が起きることを示す前兆が見つかったという。チームは「信頼性の高い」予測として、AMOCが早ければ25年、遅くとも95年には停止し得ると主張した。39~70年に停止する可能性が最も高いという。

ディトレフセン教授はCNNとのインタビューで、「実に恐ろしい」「軽々しく論文に書くような話ではない」と語り、この結論に確信があると強調した。

同教授らの研究に関与していない専門家らは、AMOCの正確な転換点は不明確で、今のところ観測データにはほとんど変化がみられないと指摘する。ただその一方で、憂慮すべき研究結果であることを認め、転換点が従来の予想より早く到来する可能性を示す新たな証拠になるとの見方では一致した。

研究チームは、温暖化や海氷の融解を抑えるために、温室効果ガスの排出量をゼロにする迅速で効果的な対策が必要だと訴えている。

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