南国の楽園でトラブル、戦禍を逃れてきたロシア人とウクライナ人にバリ島も我慢の限界

インドネシア・バリ島には、戦争を逃れてきたウクライナ人やロシア人が数多く滞在しているが、一部で問題も発生している/Elena Aleksandrovna Ermakova/Adobe Stock

2023.03.21 Tue posted at 16:00 JST

(CNN) うららかなビーチ、ゆったりした生活、バカンス気分――。南国の楽園、インドネシアのバリ島は、日々の生活に疲れた世界の旅行者にたくさんのものを与えてくれる。言うまでもなく戦禍を逃れてきた人々にも。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領が2022年2月にウクライナに侵攻して以来、戦争の恐怖から逃れようとするロシア人とウクライナ人の間で、インドネシアでもっとも有名な楽園が再び注目を集めているとしても驚くことではないだろう。

インドネシア政府によると、新型コロナウイルス後の渡航再開を受け、22年には約5万8000人、23年1月だけで2万2500人前後のロシア人がバリ島を訪れたという。これはオーストラリアに次いで2番目に多い数字だ。これに加え、ウクライナからは22年に7000人以上、今年1月には約2500人が入国した。

だが、暴力または徴兵を逃れてきた人々にとって、楽園で今問題が起きている。バリ当局は先週、ロシアとウクライナの国民に対して入国時のビザ発給を認める「到着ビザ政策」の停止を求めた。不正行為の事案や、ビザが切れた後も理髪師や無許可のツアーガイドやタクシー運転手として仕事をする不法滞在者が後を絶たないことがその理由だ。こうした動きに島内のウクライナ人の多くは落胆し、問題の多くはロシア人絡みで、自分たちが同罪とされるのは不公平だと述べた。

「外国人のひどいふるまいが報告されると、十中八九ロシア人だ」。クタという町の地元警察官は問題がデリケートであることを理由に匿名でCNNに語った。

警察官は「バリに来る外国人は、法律を免除されたかのようにふるまう。今までずっとそうだった。今こそ止めなくてはならない」と述べた。

行儀の悪い観光客は、バリでは面倒な話題になりかねない。様々な国籍の旅行者が、酔っ払って不適切な行為をしたり、公衆の前で裸になったり、聖なる場所で無礼なふるまいをしたというニュースが日々報じられている。

だが観光客のふるまいに対する世論が激しさを増す中、バリ当局はロシア人とウクライナ人を見せしめにするつもりらしい。

バリ州のワヤン・コステル知事は記者会見で、「なぜこの二つの国なのか。その理由は、戦争中の両国がここに押しかけているからだ」と述べた。

ウクライナでは18~60歳の男性が出国を禁じられているものの、ロシア人やウクライナ人が大挙してバリ島に入国している。ロシアでは正式な全面出国禁止令は出ていないものの、追加の戦力としてすでに30万人の予備兵を徴集している。その結果、多くの若い男性が、徴兵されるよりはと海外に逃れている。

CNNは在インドネシアのロシア大使館と、在バリ州ウクライナ領事館に連絡を取った。ロシア大使館当局からはすぐに返答は得られなかった。在バリ州ウクライナ名誉領事館は、国内に滞在するウクライナ人の大半が女性で、観光ではなく家族との再会が目的であり、「法律や規制に違反することは望んでいない」と語った。

タイ・プーケットにも多くのロシア人が滞在している

「みな上手くやっている」

バリ島は戦争以前からロシア観光客の人気スポットだったが、プーチン大統領の長引く侵攻やその後の動員の動きで、その人気はますます高まるばかりだ。

東南アジアの避難場所はここだけではない。しばしば世界最高のビーチリゾートに挙げられるタイ南部のプーケット島にも、ロシア人が相次いで訪れている。大半は長期滞在を視野に不動産投資をしてきた人々だ。プーケットの旧市街近くにアパートを購入したサンクトペテルブルクの元投資銀行家はCNNに「ロシアの生活はこことはまるで違う」と語った。この男性はロシア当局の報復を恐れて身元は明かさなかった。

男性は「誰も戦争のまっただ中で暮らしたくはない。ロシアに送還されて罰を受ける可能性を考えると、気が重い。(だから)モスクワよりも生活費が安くて、安全な場所に投資するのは理にかなっている」と述べた。

バリは、インドネシア政府が80カ国以上の国民に入国時のビザ申請を認める政策を取っている点も魅力のひとつだ。今のところロシアとウクライナもこれに該当している。ビザの有効期限は30日だが、1回まで延長が認められ、合計60日間滞在できる。

長期休暇を計画する人々には十分すぎる時間かもしれないが、さらに長期の滞在を望んでも、就労は認められない。インドネシア当局によれば、この数カ月で複数のロシア人観光客がビザの期限切れで本国に送還されたという。そのうちの1人でモスクワ出身の28歳は、写真家として働いているところを見つかって逮捕され、強制送還された。

就労目的で入国した人々も強制送還されているが、徴兵逃れの疑いをかけられれば、ロシア政府の怒りを買うことになるだろう。

バリ島を訪問したロシア人の中にストリートアーティストのセルゲイ・オブセイキンさんがいる。水田の真ん中に制作された反戦の壁画には、徴兵や戦争に対するオブセイキンさんの意見が盛り込まれている。

「故郷を離れざるを得なかった他の人々と同じように、自分も観光客としてバリに来た」とオブセイキンさん。

「ロシアは今、政治的に厳しい状況に置かれている。どこで戦争が起きようが、私は戦争に反対だ」(オブセイキンさん)

「ロシア人、ウクライナ人、ベラルーシ人など、戦争に反対する人々が大勢バリにやってきた」とオブセイキンさんは続けた。「みんな互いに上手くやっている。この戦争を始めたのは普通の人間ではないと理解している」

開設されたバリ島の領事館に集まったウクライナの人々

「美しいし、ロシア兵はいない」

ビザの規制が変わるかもしれないというニュースに、島内のウクライナ人の一部は驚いている。その多くは戦争勃発とともに祖国を離れ、貯金で生活しながら、規制に違反しないよう60日ごとに出国と再入国を繰り返している。

「バリはいいところだ」と、ディミトリという名のウクライナ人は語った。「美しいし、天気も最高、ウクライナ人にとって安全な場所だ。ロシア人の集団がいたとしても、ロシア兵は一人もいない」

島内のウクライナ人は緊密なコミュニティーを形成し、ロシア人からは距離を置いている。ディミトリさんはビザ撤廃の可能性にみな驚いていると述べた。

「ウクライナ人はバリの法律や文化を尊重している。地元社会に貢献し、バリの人々に危害を加えるようなことはしていない」とディミトリさん。「ウクライナではバリについてたくさん質問される。多くの人々が来たがっている」

「ウクライナ人がロシア人と同じ(部類)にくくられるのは残念だ。バリの観光客で2番目に多いのがロシア人だ。ニュースを読めば、ロシア人が頻繁に地元の法律を破り、バリの文化や伝統を蔑ろにしているのがよく分かる」(ディミトリさん)

「バリで問題を起こしているのはウクライナ人じゃないのに、なぜ自分たちがとばっちりを受けなければならないのか」(ディミトリさん)

在バリ州ウクライナ名誉領事館はCNNに声明で、23年2月現在バリ島には8500人前後のウクライナ人が滞在しており、それぞれ短期滞在ビザや永住ビザを取得していると述べた。

「祖国が侵攻に遭っている今現在、ウクライナ人は休暇でバリに来ているわけではない。ウクライナ人がバリに来ているのは家族との再会(が理由)で、大半が女性だ」と、広報担当者のニョマン・アスタマ氏は語った。

アスタマ氏は「重ねて言うが、バリ在住のウクライナ人は法律や規制の違反を望んでいない。バリの人々が声を上げているように、法律を施行し、違反した者にはしかるべき措置を講じることが必要不可欠だ」と述べた。

とはいえ、中央政府はバリ当局の要請を認めるかどうか決定を下していない。少なくとも当面は、到着ビザを希望するウクライナとロシアの両国民も一安心だろう。

インドネシアのサンディアガ・ウノ観光相は13日、地元報道陣に、「関係各位と詳細を協議する予定だ」と語った。

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。