創造性の「暗黒面」 抑鬱や狂気が天才を生み出す?

2014.03.17 Mon posted at 18:01 JST

(CNN) 芸術家は、精神的な病を抱えるくらい他の人たちよりも多感なものだと思われてきた。実際、画家モンクの幻視やゴッホの自殺など、天才と狂気が紙一重に同居していることを示唆するエピソードは多い。

一見俗説のようだが、最近の研究によって、そうした見方にも一定の意味があることが分かってきた。創造性のあるところに、狂気が潜んでいるといえるのかもしれない。

創造性と精神疾患には、果たしてどこまで関連があるのだろうか。

心理学者は以前から、精神疾患と創造性のつながりを研究してきた。初期の基礎的な調査では、文学者や画家を含む著名人が研究対象となった。

こうした研究では、創造的な人々は気分障害の発症率が著しく高いことが分かった。有名なのは米詩人シルビア・プラスで、2人の子どもが寝ているさなか、オーブンに頭を突っ込んで自殺している。

このように精神疾患と創造性を関連づける研究には、批判も付いてまわる。傑出した特定の芸術家だけを対象にしている、あるいは、証拠とされるのも過去の逸話にすぎないというものだ。

これ自体は正当な批判だ。ただ、最近の研究では、調査対象が大きく広がってきた。

スウェーデン・カロリンスカ研究所のシモン・クヤガ氏の研究チームは、約120万人に及ぶ精神科患者とその親族を調査。ダンスや写真など、創造性が要求される分野で活動している人は、双極性障害を発症する可能性が8%ほど高いことが明らかになった。この傾向は特に作家に顕著で、一般よりも121%増大する。

創作活動にたずさわる人の親戚が、統合失調症などの精神的な疾患を抱える可能性が高いこともわかった。この点は重要で、以前から、創造性と精神疾患が同居して「遺伝」するのではないかと指摘されてきたからである。有名な例でいえば、物理学者アインシュタインの息子や小説家ジョイスの娘は、統合失調症だった。

遺伝子の役割をより直接的に調べた研究もある。ハンガリー・センメルベイス大学の精神科医ケリ・サボルチュ氏は128人の被験者に対して「創造性テスト」を実施し、その後に血液検査を行った。同氏の研究結果によれば、創造性豊かな被験者は精神疾患に関連する遺伝子を保有しているとされる。

このように、創造性と精神疾患に統計的な相関があることが明らかになりつつあるが、背後にある身体的なメカニズムはどのようなものだろうか。器質的には未解明の部分が多いものの、脳科学の側から興味深い研究が出ている。

オーストリア・グラーツ大学の神経科学者アンドレアス・フィンク氏らは、MRI(磁気共鳴断層撮影装置)を使って統合失調症傾向の患者の脳画像を撮影。その後に創造性を試すテストを実施して両者の関連をまとめ、昨年9月に研究成果として発表した。

これによると、重い統合失調症傾向を患っている人と創造性豊かな人の脳内ではともに、思考中であっても、注意と集中にかかわる部位とされる楔前部(けつぜんぶ)が活動を続けていた。一般的に、複雑な課題に取り組むと、楔前部の活動が低下し集中することを助けると考えられている。

創造性豊かな脳も統合失調症傾向の脳も、大量の情報を取り込む一方で、雑音となる情報を排除できない。つまり、脳のフィルターが機能していないといえそうだ。

米国の認知学者スコット・バリー・カウフマン氏は一連の研究成果を受けて、「創造的認知への鍵は、情報の水門を開けて、可能な限り多くの情報を取り入れることにありそうだ」と指摘。「大量の情報が入ってきて収拾がつかなくなり、奇抜な関連づけがなされる。すると、時として、創造的なアイデアに結びつくのでは」と分析した。

なんらかの芸術が苦痛から生まれることはあるが、創造的な人が全員、精神的な疾患を抱えているというのは不正確だろう。

スウェーデン・カロリンスカ研究所のクヤガ氏によれば、監督、視覚芸術家といった人々は一般の人よりも精神的な疾患を示すことは少なかったという。

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