(CNN) ロシアのプーチン大統領は5日、ハリス米副大統領の大統領選への出馬を支持すると表明し、奇妙なタイミングで民主党候補をほめそやしたことで人々の眉をひそめさせた。
プーチン氏は同日、極東ウラジオストクで開かれている東方経済フォーラムで「我々の『お気に入り』とでも呼ぼうか、それは現大統領の(ジョー・)バイデン氏だ。だが彼は選挙戦から外され、支持者全員にハリス氏を支持するよう勧めた。我々はそうする。彼女を支持する」と述べた。「彼女が表情豊かに、まわりにも伝わるほど笑うということはうまくやっているということだ」
プーチン氏はまた、前大統領で共和党大統領候補のドナルド・トランプ氏が「これまでのどの大統領も行ったことのないほど多くの制限と制裁をロシアに課している」と批判した。
バイデン政権は、今秋の選挙に影響を及ぼしトランプ氏を後押しする狙いでロシア政府が支援する偽情報の拡散に対抗するため、包括的な制裁措置を発表した。プーチン氏の発言はこの動きを受けたものだ。
プーチン氏が民主党を声高に支持しているにもかかわらず、米国のリサ・モナコ司法副長官は4日、プーチン氏の指示でロシア企業3社が偽のプロフィルを使ってSNSで虚偽の情報を広めたと述べた。米連邦捜査局(FBI)の宣誓供述書によると、これらのロシア企業の1社が作成した内部文書にはプロパガンダ活動の目的の一つがトランプ氏か共和党の大統領候補として浮上した人物を支援することだったことが示されている。
では、プーチン氏は何を成し遂げようとしているのか。
過去の例から判断するなら、プーチン氏は米国の国内政治をかき回しているだけだ。同氏は2015年12月、トランプ氏を称賛し、共和党の指名を獲得する何カ月も前に最有力候補と呼んだ。
プーチン氏はトランプ氏について「彼は間違いなく聡明で才能のある人物」「傑出した才能あふれる人物」と称賛した。
プーチン氏は世論調査員が知らない16年の米大統領選について何か知っていたのだろうか。いや、そうではない。当時民主党の有力候補だったヒラリー・クリントン氏に対するプーチン氏の嫌悪感は明らかだった。
民主党全国委員会の電子メールがハッキングされ、民主党全国大会の直前に漏えいしたとき、プーチン氏は喜びを隠さなかった。
米当局者はハッキングについてロシアを厳しく非難したが、プーチン氏はロシア政府の関与を否定した。そして16年9月の東方経済フォーラムでこの漏えいを有権者への一種のサービスだとして称賛し、「重要なのは国民に知らされた内容だ」と発言した。
漏えいした電子メールの内容は民主党当局者らがクリントン氏を優遇していたというばつの悪いものだった。
言い換えれば民主党全国委員会のハッキング事件そのものが、米国の民主主義はいかさまだというロシア政府の見解を裏付けた。つまり、権力こそが重要で、すべては密室で決定されるにもかかわらず、ロシアのような国に民主主義の順守と人権の尊重を迫るのは偽善的だとロシアはみている。
亡命中のロシア政治ジャーナリストで「All the Kremlin’s Men(原題)」の著者であるミハイル・ジガル氏の洞察を思い出すと、プーチン氏の米国政治制度に対する見解はさらに納得いくものになる。
ジガル氏はプーチンがテレビドラマシリーズ「ハウス・オブ・カード」を気に入り、閣僚らにも勧めたと指摘した。このドラマは米国政治の闇をシニカルに描いた作品だ。
「あれは彼にとっての米国政治の教科書だ」とジガル氏はインタビューで語った。
プーチン氏は、トランプ氏がハリス氏の笑い方を一貫して侮辱していることに同調してハリス氏をからかったに過ぎない可能性もある。
プーチン氏の米国選挙政治に対する考え方をハウス・オブ・カードのレンズを通して見るなら、同氏のハリス氏支持はある意味で主人公であるフランク・アンダーウッドの動きだ。つまり、支持することでその支持を受ける側に害をもたらすやり方である。
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本稿はCNNのネイサン・ホッジ記者の分析記事です。