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バイデン米大統領、欧州歴訪で確保した大勝利

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トルコの方針転換を実現するなど、今回の欧州歴訪で早くも大きな成果をあげたバイデン氏/Tejas Sandhu/SOPA Images/Sipa USA/AP

トルコの方針転換を実現するなど、今回の欧州歴訪で早くも大きな成果をあげたバイデン氏/Tejas Sandhu/SOPA Images/Sipa USA/AP

(CNN) 米国のジョー・バイデン大統領は、欧州歴訪で早くも力強い成果をあげた。ウクライナ侵攻ではまたもや壊滅的打撃を受けたロシアの戦略的立場を弱めることになるだろう。

リトアニアで開催される北大西洋条約機構(NATO)首脳会議の前夜、スウェーデンのNATO加盟に反対していたトルコは180度方針を転換した。その数時間前まで、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領は長らく保留されてきたトルコの欧州連合(EU)加盟が実現されないかぎり、スウェーデンの加盟も認めないと警告していた。それだけに、非常に大きなサプライズだった。

最終的にスウェーデンがNATOに加盟すれば、NATOの活性化と拡大を実現した米国大統領としてバイデン氏の株も上がるだろう。ウクライナ侵攻を受け、スウェーデンと同じくNATO加盟を決断したフィンランドによって、NATOとロシアの境界はすでに数百キロメートル広がっている。ウクライナに必要不可欠な兵器弾薬を供与し、NATOでリーダーシップを発揮したバイデン氏は、少なくとも冷戦終結とドイツ統一をお膳立てしたジョージ・H・W・ブッシュ元大統領以来、大西洋両岸関係にもっとも重要な役割を果たした米国大統領となった。だが最終的には、バイデン氏のレガシーはウクライナでの戦争の行方と、ロシアとの直接交戦を回避できるかどうかにかかってくる。

トルコの方針転換で、NATOサミットの雰囲気も明るいものになるだろう。NATOは例年にない強い団結力を示しているが、ウクライナのNATO加盟申請をめぐって意見が割れ、結束にやや陰りが見える危険に立たされている。バイデン氏も出国前に、ウクライナはまだ加盟の準備が整っていないと発言していた。新規加盟国が集団的安全保障の恩恵を受けるためには、NATO同盟国から全員一致で承認されなければならない。

エルドアン氏の対応は、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領にとっても大打撃だった。第一に、エルドアン氏の対応で結果的にNATO領域は拡大し、同盟関係も強化されるだろう。プーチン氏は一方的なウクライナ侵攻の目的のひとつとして、西側勢力の弱体化を挙げていた。また本人の弁によれば、近隣地域でのロシアの影響力を弱めようとする動きへの対抗措置も念頭に置いていた。第二に、エルドアン氏――次第に専制君主的な色合いを強め、ロシア指導者とおおむね友好関係を築いてきた――の今回の決断で、NATO加盟国に分断の種をまいて弱体化をもくろんでいたロシアはいら立ちを募らせることになるだろう。

東洋と西洋の合流地点という戦略的立場を利用し、地域の大国としてトルコの立て直しを図ってきた気まぐれな指導者は、10日にまたもや興味深い対応を見せた。スウェーデンやNATO主要国、米国から、エルドアン氏が表面的な譲歩以上のものを勝ち得たのかどうかは今のところ分からない。一方で、突然の心変わりでエルドアン氏は交渉で窮地に立たされたのではないかという疑問も浮かぶ。同氏はすでにフィンランド加盟の際にも、反対の立場を撤回している。

再選を果たしたエルドアン氏はこれまでも長年にわたり、歴代の米国大統領を悩ませてきた。地政学的影響力の行使と、強権的な統治の両方がその要因だ。米国政府は、それらがトルコの世俗的憲法や民主主義を損ないかねないと危惧している。近年ではプーチン大統領との近しい関係や、いまだ実現はしていないもののシリアとの関係改善をほのめかす発言などで、米国をいら立たせてきた。

米国の圧力を経て、水面下での外交

バイデン氏と非常に親しいNATOのイェンス・ストルテンベルグ事務総長――2024年10月までの任期延長が決まったばかり――は、トルコの態度の軟化は数カ月にわたる外交努力のたまものだと発言した。「今に始まった交渉ではない。1年前にマドリードで合意した様々な事案の実現および実現の確認だ」

トルコが方針を転換したのは、9日に行われたバイデン氏とエルドアン氏の電話会談直後でもあった。その際、バイデン氏は自らの立場をはっきり明確に伝えたと思われる。バイデン氏が電話会談で「一刻も早い」スウェーデンのNATO加盟を望んでいる旨を伝えたというホワイトハウスの発言からも、電話会談の雰囲気が窺える。

ジェイク・サリバン米大統領補佐官(国家安全保障担当)は今回の合意について、NATO、トルコ、スウェーデンの三者会談の結果だと述べつつも、先週バイデン氏がワシントンでスウェーデンのウルフ・クリステション首相と会談するなど、米国が最近になって交渉に関与していた点を指摘した。

スウェーデン加盟の合意がなされた後、サリバン補佐官はリトアニアの首都ビリニュスでの記者会見で「我々は決定的となるサミットに万全の態勢で臨んでいる」と語り、今回団結力が浮き彫りになったことでプーチン氏は失望することになるだろうと述べた。「数カ月おきに、西側諸国は団結できるのか? NATO結束は可能か? といった疑問が持ち上がる」とサリバン氏は続けた。「同盟国会合が行われるたびにこうした問いが浮上するが、そのたびに揺るぎない確固たる答えにたどり着く。結束は可能だ」

米上院民主党のチャック・シューマー院内総務(ニューヨーク州選出)は、膠着(こうちゃく)状態の打開を称賛するとともに、バイデン氏の政治的功績をアピールし、同氏を外交のエキスパートだとたたえた。「状況を把握し、実に見事に、それも非常に効果的に舵(かじ)を取る。これは米国の勝利であり、西側諸国、自由、そしてバイデン大統領の勝利だ」

トルコにとっても政治的勝利だったのか。それが判明するまでにはあと数日かかりそうだ。だがトルコ政府系メディアは政府高官の発言として、エルドアン氏は長年留保されていたトルコのEU加盟交渉と引き換えに、スウェーデン加盟の全面支援を担保したと伝えている。ストルテンベルグ事務総長もトルコのEU加盟を強く支持し、バイデン氏も声明を発表して、トルコの指導者が加わることでユーラシア大陸の安全保障が強化されることへの期待を表明した。

だがこうした一連の流れは、国内ではエルドアン氏の方針転換の政治的建前になるかもしれないが、トルコにとって大きな突破口にはならなそうだ。ストルテンベルグ事務総長にはトルコのEU加盟を左右する力はない。またエルドアン氏が人権やメディアを弾圧していることからも、果たしてトルコがEU加盟条件を満たせるのかどうか疑問は増すばかりだ。確かに、スウェーデンとトルコの首脳交渉でテロ撲滅への協力合意がなされ、NATOもテロ対策調整官の新設に同意した。だがこうした対応は、スウェーデン国内に潜伏するクルド人武装組織「クルディスタン労働党(PKK)」の取り締まりを求めるエルドアン氏をなだめるのが狙いともとれる。スウェーデン政府はPKKメンバーの国内活動を看過し、極右反イスラム抗議運動に肩入れしているというのがトルコ側の主張だ。

もうひとつエルドアン氏の懸念材料となっていると思われるのが、米国議会の動きだ。民主・共和両党は、トルコがスウェーデンのNATO加盟に反対する姿勢を撤回するまで、久々の大規模取引となるF16戦闘機の売却を控えるようバイデン大統領に迫っていた。上院外交関係委員会の議長でもあるボブ・メネンデス上院議員は長らくF16売却交渉に反対の姿勢を貫いていたが、10日の時点では態度を軟化させるかどうか決めかねていると発言している。その背景には、トルコがF16戦闘機を使ってNATO加盟国のギリシャを威嚇する危険性も含まれる。ニュージャージー州選出のメネンデス氏は、「来週中には」決断すると述べている。サリバン補佐官によれば、バイデン氏は戦闘機売却を支持しており、この数週間で行われたトルコとの交渉でも一切条件は設けなかった。また政府はこの件について、メネンデス議員と連絡を取り合っているという。

驚くべき方針転換

NATOサミットに強硬的な姿勢で臨んだことから判断するに、エルドアン氏は自らの目標を達成できなかったようだ。10日午前の時点でも、スウェーデンの加盟はトルコのEU加盟と関連づけるべきだと釘を刺していた。「トルコはEUの入り口で50年以上も待ちぼうけを食わされてきた」「NATO加盟国はほぼすべてEU加盟国だ」と同氏は警告した。

10日、元米国家情報副長官のベス・サナー氏はCNNに出演し、エルドアン氏が事実上何カ月も米国と交換交渉を試みていたことからも、今回の突然の方針転換は「興味深い」と述べた。「問題はスウェーデンではない。米国とトルコ、そしてトルコの立ち位置だ」と、同氏はCNNのジェイク・タッパー氏に語った。「エルドアン氏はあまりにもEU加盟国を交渉の道具としてごり押しし過ぎた。本人はNATOを台無しにするのではなく、救う人物として見られたいと心底願っているのだろう」と同氏は言い、さらにこう続けた。「台無しにしたという見方が出てきたために、譲歩せざるを得なかったのだと思う」

エルドアン氏の方針転換による大きな影響として、プーチン大統領との関係悪化が挙げられる。つい先日、エルドアン氏はロシア大統領に8月のトルコ訪問を要請したばかりだ。トルコの影響力を行使して、黒海からのウクライナ産小麦の輸出交渉延長を仲介したいというのが同氏の考えだ。

先週末にはもうひとつ大きな動きがあった。トルコがウクライナ軍の指令官の一行を釈放することを認めたのだ。彼らは昨年、アゾフスターリ製鉄所でマリウポリ防衛を指揮。ロシア軍に捕らえられたが、その後トルコで拘束されていた。帰国した一行はウクライナのボロディミル・ゼレンスキー大統領から英雄として歓迎を受けたが、ロシア側との合意によれば戦争終結までウクライナへの身柄引き渡しは行われないはずだった。

傍目(はため)には、エルドアン氏がプーチン氏と大きく袂(たもと)を分かったようにも見える。だが誰であれ、エルドアン氏が地政学的な一大ゲームでいくつもの立場につくのをやめるのではないかと期待する人は、後で落胆する公算が大きい。エルドアン氏にとってはつねに、自分やトルコのために影響力を最大限行使することがすべてだ。それはこの先もおそらく変わらない。

本稿はCNNのスティーブン・コリンソン記者による分析記事です。

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