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昔ながらの目覚まし時計を復活させるべき理由

目覚まし時計の利点は

目覚まし時計の利点は/Ian Berry

私は目覚まし時計を再び使い始めた。テクノロジーによって同期され、携帯電話一つで何でもできる今日の世界では見過ごされている目覚まし時計だが、時刻を教えてくれ、起こしてくれ、携帯電話につながっていない。これは素晴らしいことだ。

なぜ素晴らしいのか。アナログ時計を寝室で再び使い始める前、私の1週間のスクリーンタイム(携帯電話の画面を見ている時間)は平均2時間56分だった。毎週月曜日に携帯のアラームが鳴った途端、それが表示された。

また、毎朝「スヌーズ」ボタンをタッチすると、画面上にはカードゲームのソリティアのように次々と積み重なる通知に直面することになった。友人が昨夜雑談したがっていたことがうかがえる34通を超えるワッツアップのメッセージ、インスタグラムのアラート、複数のアカウントから届いた数十通のメールなど。朝のコーヒーも飲まないうちに、これらの通知によって恐怖とストレスでいっぱいになった。

当時は気づかなかったが、私が昔使っていたコンパクトな旅行用のアナログ時計は、ささやかなぜいたく品であった。

デザインは最新のiPhone(アイフォーン)に比べれば見劣りするが、毎朝けたたましい音で私を起こしてくれた。また、雑談や悪い知らせ、締め切りに追われることなく、1日を始めることができた。

習慣を変える

目覚まし時計から携帯電話に切り替えたのは、およそ10年前のことだ。タクシーのトランクに積んでいたスーツケースの中で目覚まし時計が鳴り、車を止めて取り出したという、私としては笑い話のつもりだったエピソードを人に話したことがきっかけだった。その話をすると、まるでファクスでも使っているかのような言い方で、「本物の目覚まし時計を使っているの?」と聞かれた。「携帯電話を使えばいいのに!」と指摘され、ああ確かに。なぜ、使わないのだろうと思った。おそらく当時は、携帯電話を目覚まし時計として使えるとは思ってもみなかったのだろう。私は周りからの圧力に屈し、古い目覚まし時計を処分してしまった。これで、通知なしで目覚めるというぜいたくは終わり、夜中に携帯電話で時間を確認するときに、通知をちらっと見るという不快な状態に陥ることになった。

我々の携帯電話の使用が増え続ける中(デロイトによる2018年のリポートによると、米国のスマートフォンユーザーが携帯電話をチェックする回数は1日に140億回と、16年の90億回から増加)、ウェルネスの専門家は、それが朝の習慣に悪影響を与えていると指摘している。

「朝一番に目覚めたら、世の中のあらゆる出来事に振り回される前に、自分自身の心と向き合う時間を少し持つことが理想的だ。起床後の現実に適応するチャンスを自分に与えてあげてください」と、メンタルヘルスとウェルビーイングのコーチであるリリー・シルバートン氏は言う。「歴史的に見ても、今日ほど注意を奪われることに我々は慣れていない」

目覚まし時計が登場する前、人々はにわとり、教会の鐘、ノッカーアッパー(長い棒でドアや窓をたたいて起こして報酬を得る人々で、工業国だった英国では1970年代までこの職業が存在していた)、さらには尿意によって目覚めていた。1787年にニューハンプシャー州コンコードの時計職人レビ・ハッチンズが最初の目覚まし時計を発明したという説が有力だ。この時計は、ハッチンズが起きる午前4時に一度だけ鳴るように設計されていた。実際の設計の詳細はほとんど分かっていないようだが、ハッチンズは「アラームを鳴らす時計というアイデアを出すことが難しかったのであり、それを実行に移すことが難しかったのではない。決められた時刻に鐘を鳴らすように調整するのは、簡単そのものだった」と記している。ハッチンズは、この時計の特許を取得することも、製造することもなかった。

それから何十年も経った1874年、フランスの発明家アントワーヌ・レディエが、調節可能な機械式目覚まし時計の特許を取得した最初の人物となった。76年には米国でセス・E・トーマスが小型の機械式ねじ巻き時計の特許を取得し、米大手時計メーカーがこぞって小型目覚まし時計の製造を開始した。ドイツの時計メーカーもすぐに追随し、1800年代の終わりには電気式目覚まし時計が発明されたと伝えられている。

時計を買う

現在、目覚まし時計はさまざまなデザインで展開されている。1993年の映画「恋はデジャ・ブ」に登場したパナソニックの電波目覚まし時計「RC―6025」を模倣したものから、ロバーツなどの定番ブランドのレトロなデザインまでさまざまだ。ハンドメイド雑貨などを扱うオンラインマーケットのEtsyで検索すると、ロボットやフクロウ、ウサギの形をした斬新なデザインのものが見つかる。

その他にも、カラーナイトライト、プロジェクター(天井や壁に時間を映し出す! でも私は結構)、USBポートスピーカー、温度・湿度調整、ティーンエージャー向けのベッドシェーカーなど、よりモダンな製品もある。

昨年、故ヴァージル・アブローが設立したファッションブランド、オフ―ホワイトは家電ブランドのブラウンとコラボし、洗練された限定版の目覚まし時計を発表した。色はオレンジとブルーの2色展開で、デザインは80年代にディーター・ラムスとディートリッヒ・ルブスによって考案されたブラウンのクラシックな目覚まし時計BC02がベースになっている。ファッションブランドのポール・スミスも、2020年にブラウンとコラボした時計を発表している。

だが私が求めていたのは、昔使っていたようなシンプルな目覚まし時計だった。時計は近くのホームセンターで8.50ポンド(約1400円)で購入した。初めて使った夜は、画面をスワイプするのとは違い、時計の針を自ら回して時刻を設定することに妙に興奮した。翌朝は目覚ましが鳴る前に目が覚めてしまい、拍子抜けした。だがもうこの時点で、1日に追われるという感覚ではなく、その日一日を征服したような気分になっていた。

シルバートン氏によると、「テクノロジーは我々の心理的な弱点を突いてくる」という。また、つながっていることは素晴らしいことだが、同時に恐ろしいことだとして、「テクノロジーをうまく取り入れ、自分に合った習慣を作ることだ」と指摘している。

自分は今、そうした習慣ができていると感じている。目覚まし時計を再び使い始めたことで、携帯電話を目覚まし代わりにしていた時にはなかった時間と空間を手に入れ、携帯からも分離できている。いまだ携帯はベッドの横に置いているが、起床して最初に手を伸ばすものではなくなった。1日の最初の言葉が、怒りで血が沸き立つのを感じながら、メールをののしるようなものではなくなり、穏やかな気分で朝食に何を食べようかを考えている自分に気づいた。自分をコントロールし、落ち着くことができたのだ。目覚まし時計で目覚めることが懐かしく感じられるからなのか、それとも、これまでよりも良質な睡眠が取れているからなのか、不思議なことに自分の気持ちが若返ってきた。これ以上のぜいたくがあるだろうか。

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