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大手ブランドの13万円のスウェットパンツ、「文化の盗用」の批判

腰の部分にボクサーパンツがのぞいているように見えるバレンシアガのスウェットパンツ

腰の部分にボクサーパンツがのぞいているように見えるバレンシアガのスウェットパンツ/From Balenciaga

大手ファッションブランドの手掛けた1着1190ドル(約13万円)のスウェットパンツに対し、激しい非難の声が浴びせられている。ファッションや黒人の歴史に詳しい一部の専門家によると、デザインが「文化の盗用」に当たるという。

バレンシアガが販売しているこのグレーのスウェットパンツは、上部の腰のあたりにボクサーパンツがはみ出たかのように見えるデザインを施している。論争が噴出したのは、動画アプリ「TikTok(ティックトック)」のあるユーザーが今月2日、店舗と思われる場所で撮影した当該製品の短い動画を投稿したのがきっかけだった。

@mr200m__のユーザー名で投稿された動画では1人の人物が問題の「トロンプルイユ」スウェットパンツをつかみ、「これは人種差別的な気がする」「ズボンの中にボクサーパンツを縫い込んである」と発言している。

米カリフォルニア州立大学ノースリッジ校でアフリカに関する文献を研究するマーキタ・ギャメージ准教授も、上記のバレンシアガ製品に不快感を表明。CNNの取材に電子メールで応じ、「黒人文化」の搾取により「大きな利益の確保を見込んでいる」との認識を示した。

ギャメージ氏は2018年にアフリカ文献研究の学会誌に掲載された論文「『行為主体性の縮小化』としての文化盗用(仮題)」の著者。その中で同氏は、黒人文化の不正流用とそれがいかに黒人の文化表現の創造性や機能性、美しさを損ねているかを記した。同時に、そこから正当な利益が得られないとする黒人の訴えにも合法性を認めていないと指摘する。

ジーンズやスウェットパンツをずり下げて、腰のあたりに下着のボクサーパンツを露出させる履き方(腰パン)は「サギング」と呼ばれ、ヒップホップカルチャーの中で人気のスタイルだ。また以前から「黒人とりわけ黒人男性を犯罪と結びつけるのにも利用されてきた。そうしたスタイルの黒人男性は悪党で、米国社会への脅威とみなされた」。ギャメージ氏はそう説明する。

「バレンシアガのメンズ・トロンプルイユスウェットパンツの赤い部分は、たちどころに懸念を呼び起こす。アフリカ系米国人によるヒップホップが象徴する美意識と、不気味なほど似通っているからだ。黒人の米国人は数十年にわたりこれを身に着けることで、結果的に収監されたり死亡したりしてきた」「当該のスウェットパンツには商業的、文化的盗用がはっきり見て取れる。バレンシアガというブランド名を冠して」(ギャメージ氏)

トロンプルイユスウェットパンツがもたらした論争について問われたバレンシアガの最高マーケティング責任者、ルディビーヌ・ポント氏は、CNNへの電子メールで「異なる衣服を部分的に組み合わせて1着の衣服とした製品は、当社のコレクションに数多く存在する。デニムジーンズをトラックスーツパンツに重ねたり、カーゴショーツをジーンズと合わせたり、ボタンアップシャツをTシャツに重ねたりした製品がある」

「これらのトロンプルイユスウェットパンツはそうした視点の延長だった」(ポント氏)

アンソニー・チャイルズさん(31)は、サギングをしていたことが死亡につながった悲惨な実例の一人だ。

19年2月5日、チャイルズさんはルイジアナ州シュリーブポートで、ずり下げた短パンをつかみながらパトカーの前を通り過ぎた。米紙ワシントン・ポストが報じたところによると、それは07年に成立した「腰パン」を禁じる市の条例に違反していた。違反の罰則は最大100ドルの科料と、同8時間の社会奉仕だという。

警官に腰パンを見つかったチャイルズさんはその場から逃げた。後を追った警官はチャイルズさんが銃を所持しているのに気付いた。警官は8回発砲。そのうち3発が地面に横たわったチャイルズさんに当たった。その後の検視では、チャイルズさんは自ら胸を撃って死亡したとされた。

チャイルズさんの死に対する激しい怒りの声が上がり、同年6月までに「シュリーブポート市議会は、この違憲で差別的な条例を最終的に破棄した」。米自由人権協会のルイジアナ支部で法務部長を務めるケイティ・シュバルツマン氏が当時そう記した。

フロリダ州オーパロッカで施行されていた腰パンに関する同様の条例も、昨年廃止された。07年の元々の条例では、男性が市の建物や市営の公園で下着をさらけだすような腰パンを着用した場合、罰則として裁判所への召喚状を出す可能性もあるとした。13年には、この対象が女性と公の場にも広げられていた。

「腰パンはアフリカ系米国人にとって重要なファッションだった。それにもかかわらず、バレンシアガのような企業が黒人と黒人の文化的スタイルを利用しようとする。その一方で黒人と黒人の服装を犯罪に結びつける構造的な人種差別には異を唱えようとしない」(ギャメージ氏)

ファッションデザイナーのステラ・ジーン氏は、黒人文化が金銭的利益をもたらすのをよくわかっている。

ジーン氏がクリエーティブディレクター兼共同創設者を務める「ウィー・アー・メイド・イン・イタリー」は、ファッションや社会に関する認識を高めるための取り組みで、有色人種のデザイナーによる製品をプロモートしている。

「黒人文化はもっぱら見本にされるだけで、まともに引用されたことはまずない。しかも遅れて寄せられる称賛以外、文化を創り出した人々が相応の支払いを受けることは、あったとしてもごくまれだ。彼らは無私の心で、自分たちの才能や創造性、リスクをいとわぬ革新性を共有してくれたというのに」「黒人文化には我々が『ブラック・タックス(税)』と呼ぶものが存在する。これは黒人が余計に負担する努力や仕事の量を指す。ばかげたことに、こうして骨を折っても手にできる成功は白人の半分がいいところだ。才能や技術に差がないにもかかわらず、相手がたまたま白人というだけでそういう結果になる」(ジーン氏)

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