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カメラが捉えた廃墟の世界、チェルノブイリ立入禁止区域を行く

写真家がチェルノブイリ原発付近の立入禁止区域を歩き、荒廃した風景をレンズに収めた

写真家がチェルノブイリ原発付近の立入禁止区域を歩き、荒廃した風景をレンズに収めた/Courtesy David McMillan

カナダ人の写真家デビッド・マクミラン氏(73)は、1994年にウクライナ北部の都市プリピャチを初めて訪れた際、行動が制限されると考えていた。そのわずか8年前、近くにあるチェルノブイリ原子力発電所の原子炉が爆発。周辺地域の住民は強制退去となり、放射性物質が欧州全体に飛散した。

しかしマクミラン氏は、総面積約2600平方キロのチェルノブイリ立入禁止区域(現在もほぼ無人の状態)の中を自由に散策できただけでなく、損傷した原子炉のすぐそばまで行くことができた。

マクミラン氏はこのプリピャチへの最初の旅で、放棄された建物、雑草に覆われた遊び場、除染後に放置された車の不気味な写真を撮影した。また、この旅で好奇心をかき立てられたマクミラン氏は、その後の四半世紀にプリピャチを20回以上も訪れた。

今年4月発売のマクミラン氏の写真集「発展と崩壊:プリピャチとチェルノブイリ立入禁止区域」には、同氏が撮影した200枚の写真が掲載されている。そこに写るのは原発事故以来ほぼそのままの状態で放置され、廃墟と化した都市の驚くべき姿だ。これらの写真を通じ、読者は自然界の持続力や、避けて通れない都市の衰退という現実を目の当たりにすることになる。

「ショーケース」都市の残骸

1986年4月に原発事故が発生した当時、プリピャチはソビエト連邦の一部だった。原発とその労働者のために建設されたこの都市には、一時約5万人が暮らしていた。

当時は多くの学校、病院、スポーツ・文化施設があったが、今やそれらの施設は放棄され、腐敗、さび、略奪の犠牲となっている。無人のプールや放棄された教会など、マクミラン氏の写真は、市民の避難がいかに突然なものだったかをまざまざと見せつける。

残された建物は、ある種のタイムカプセルだ。マルクスやエンゲルスの色あせた肖像画や荒れた庭に置かれたレーニンの胸像の写真は、政治史の特定の瞬間を捕らえている。

また、時の流れの力も見て取れる。マクミラン氏は、建物が劣化していく様子を強調するために、長年に渡って同じ場所を複数回撮影した。

中でも特に印象的なのが、ある幼稚園にある階段の吹き抜けの写真だ。1994年に撮影された最初の写真には、壁紙がはがれている壁に張られた旧ソ連の共和国の色鮮やかな国旗が写っている。しかし、昨年11月に最後の写真が撮られるまで残っていた国旗はわずか1枚で、その1枚も国旗と判別できないほど損傷し、変色している。

自然の回帰

「発展と崩壊」という写真集のタイトルからも分かる通り、マクミラン氏が関心を持っているのは、人類の撤退と、それに伴う自然の再現だ。同氏の写真の中の風景は、殺風景ではあるが、人工的な構造物を突き破って勢いよく生い茂る木や草花が写っている。

またマクミラン氏の写真の中には、立入禁止区域内で出会った人々の写真もある。エンジニアや作業員、さらに野生動物を捕獲し、臓器内の放射線量を測定している科学者など、さまざまだ。1995年に撮られた1枚の写真には、先祖代々の墓を清掃しに故郷の村に戻った女性が写っている。

これまで立入禁止区域に戻ってきた多くの人々に出会ったマクミラン氏は、自らの健康への影響について比較的楽観している。マクミラン氏が立入禁止区域を訪れる際の1回の滞在期間は1週間なので、これまでの累積滞在期間は数カ月間に及ぶ。

マクミラン氏の初期のガイドの1人は、ウクライナからカナダに移住してからリンパ腫にかかったが、放射能が原因か否かは定かではないという。

放射能汚染が毎年減少するにつれ、リスクも減少する、とマクミラン氏は言う。1986年の事故の直後に放射性物質を封じ込めるためコンクリート製の一時的な石棺が建てられたが、現在は、新安全閉じ込め構造物(NSC)と呼ばれる新しい石棺で原子炉を封じ込めている。

またマクミラン氏によると、最近、立入禁止区域で旅行者もよく見かけるようになり、ウクライナの首都キエフからの日帰り旅行の観光バスにも時々遭遇するという。さらに昨年、あるアーティストのグループがプリピャチでダンスパーティーを開催したという。

「(近くの)汚染の少ない地域に住んでいる人もいるし、心配したことはない」とマクミラン氏は言う。

「今、現実に起きている危機は、建物の崩壊だ。中には今にも崩れそうな建物もあり、中を歩いていると、何が起きるか分からない」(マクミラン氏)

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