OPINION

新型コロナ封じ込め、独裁は民主主義にまさるのか

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米加州のフードバンクで物資をさばく州兵の隊員ら/Rich Pedroncelli/AP

米加州のフードバンクで物資をさばく州兵の隊員ら/Rich Pedroncelli/AP

しかし民主主義陣営も同様に成功を収めている。韓国や台湾などでも感染者数は急速に低下したが、それを可能にしたのは世界的に認められた疫病抑止のための施策であり、人間の自由に対する苛烈(かれつ)な侵害行為ではなかった。それどころか経済活動においてすら、極端な縮小は行われなかったのである。

感染が拡大する中、人権に種々の制限をかけざるを得ない現状は、開かれた社会にとって胸を締め付けんばかりのジレンマを生み出している。独裁国家がこうしたジレンマに直面することはない。

公共の利益と個人の自由のバランスをいかにとるかは、民主主義社会が常に抱える問題だ。パンデミックの最中は、公共の利益の比重がはるかに高まる。こうした状況にあっては、政府当局もより積極的な役割を果たすことが求められる。専制政治の場合、独裁者はここぞとばかりに人々への締め付けを強化する。民主主義国家においてはそこに軋轢(あつれき)や不安が生まれ、自由と民主主義を守ろうとする反発が起こる。

よい例がイスラエルだ。同国の政府は他に先んじて新型コロナの対策を打ち出した国のひとつだ。今や世界中で共通の措置となった感染率の高い国への渡航禁止や国外からの旅行客の隔離などを早々と実施していた。しかしネタニヤフ首相については、ただ国民を守るために行動しているとの本人の主張とは裏腹に、批判の声が浴びせられる事態となっている。危機的状況を利用して汚職疑惑からの保身を図り、イスラエルの民主主義を危険にさらしているというのがその理由だ。

民主主義国が抱える課題は、自分たちの価値観を守りながらパンデミックと闘わなくてはならないという点にある。各国はボトムアップの意思決定方式によって社会的な制約を実行しようとしている。望ましいのは、国民がリスクを理解したうえで制約に応じてくれるという流れだ。悪意ある執行機関が否応なしに制限を押し付けるのでは意味がない。

以上の理由から、行政の当局者は問題に関する事実を率直かつ明瞭に伝えなくてはならない。実態を取りつくろって見せたり、矛盾するメッセージを送ったりするのは禁物だ。それを守ってはじめて国民は政府を信用し、専門家のアドバイスに従うようになるのである。これ以外に民主主義の政治システムが機能する方法はない。これ以外のやり方で臨めば、独裁国家がそうであるように、あらゆる規制は抑圧的にならざるを得ないだろう。

独裁者たちが世界の人々に求めるのは、新型コロナウイルスの問題が専制政治の優位性を証明しているという認識だ。独裁体制こそがより優れた、未来のシステムなのだと思わせたいのである。こうしたいかにも無理のある主張には全力で反論させてもらう。国民の健康を守るのに独裁は必要ない。

パンデミックに対して効果的に立ち向かうため、民主主義国は民主主義国らしく振る舞わねばならない。開放性と誠実さが重要だ。結局のところウイルスとの闘いとは、国民による、国民のための闘いに他ならないのである。

著者のフリーダ・ギティス氏は世界情勢を扱うコラムニストです。CNNのほか、米紙ワシントン・ポストやワールド・ポリティクス・レビューにも寄稿しています。記事における意見や見解は全てギティス氏個人のものです。

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