ロンドン(CNN) 外国の自動車メーカーは何十年にもわたり、中国市場で支配的地位にあり、数百万台を売り上げ、巨額の利益を得ていた。その黄金時代が突然、終焉(しゅうえん)を迎えようとしている。
中国ではBYDや小鵬汽車といった電気自動車(EV)メーカーが急速に台頭。世界最大の自動車市場である中国での勢力を塗り替え、自動車メーカー世界大手を劣勢に追い込んでいる。
従来の自動車メーカーが直面している厳しい課題の最新の事例は、独フォルクスワーゲン(VW)がコスト削減の一環として、同社史上初めてドイツの工場を閉鎖する可能性があると警告したことだ。
VWの中国市場での販売台数は今年1~6月期が134万台とわずか3年前と比較して4分の1以上減少した。VWは昨年、2000年以来保持してきた中国市場での販売台数首位の座をBYDに明け渡した。
困難に見舞われている自動車メーカーはVWだけではない。米国のフォードやゼネラル・モーターズ(GM)も、中国市場での販売台数の減少と市場シェアの減少に直面している。中国国内の消費者は海外ブランドに背を向け、国内メーカーから車を買っている。
全国乗用車市場情報連合会(CPCA)によれば、24年7月の外国メーカーの中国での市場シェアは33%と、22年7月の53%から減少した。
中国市場での利益も減少している。トヨタ自動車が発表した24年4~6月期の中国の合弁会社からの収入は前年同期から73%減少した。
さらにひどかったのはGMで、合弁会社を10社擁しているが、四半期決算は連続して赤字だ。米国の自動車メーカーによる中国市場での販売台数は昨年が210万台となり、ピークだった17年の400万台超からほぼ半減した。
中国での厳しく長期化するEVの価格競争では、すでにいくつかの国内メーカーが犠牲となっている。外国メーカーも事業再編を余儀なくされたり、かつては手広く行っていた中国事業を閉鎖せざるを得なくなったりしている。
自動車業界での経験が長く、EVに注力しているコンサルティング会社ダン・インサイツで最高経営責任者(CEO)を務めるマイケル・ダン氏は「(中国で)高い成長率と多額の利益を享受していた栄光の時代は終わった」と述べた。「中国市場において大衆向けブランドなら、余命いくばくもない」
テスラ上海工場で開かれたEV「モデル3」の納車式=2019年12月30日撮影/Yilei Sun/Reuters
テスラの「奇跡」
自動車メーカー世界大手は、00年代初頭から約20年にわたって売り上げと利益が右肩上がりを続けてきたが、突然状況が変わってしまった。
習近平(シーチンピン)国家主席が掲げる「中国製造2025」の下、中国政府が10年代半ばから国内のEVメーカーやバッテリー製造業者に大金をつぎ込み始めた後でさえ、外国の自動車メーカーは市場シェアを増やし続けた。中国の消費者は依然として確立された従来の自動車メーカーのブランドを好んだ。
アナリストによれば、ここで米テスラが登場した。19年12月に上海の製造工場で作られた中国製の「モデル3」が出荷され、全てが変わった。
ダン・インサイツのダンCEOは「一夜にして、まるで奇跡が起きたようだった」と述べ、「記念的な」転換点だったと指摘した。「テスラによる上海でのモデル3の製造はEVに対する消費者の見方を変えた」とし、「新しくクールになった」と言い添えた。
BYDや理想汽車といった中国のEVメーカーに対して、テスラは「ハロー効果」をもたらしたという。こうしたEVメーカーは数年にわたって着実にEVを改良しており、需要の突然の増加の波に乗る準備が整っていた。
国際エネルギー機関(IEA)の予測によれば、中国でのバッテリー式EVやプラグインハイブリッド車の販売は今年1000万台に達する見通し。4年前のわずか110万台から自動車販売のほぼ半分を占めることになる。
今年の北京モーターショーでBYDの車の周囲に集まる来場者/Xinhua/Shutterstock
世代交代も中国ブランドにとって追い風となっている。
コンサルティング会社シノ・オート・インサイツのマネジングディレクター、ツー・レ氏は「1990年代と2000年代、多くの自動車を購入していたのは親の世代であり、彼らは中国ブランドを全く信用していなかった」と指摘。現在の市場は子どもたちの世代であり、中国のネット販売大手のアリババや京東集団(JDドットコム)で品物を購入し、SNS「微信(ウィーチャット)」を使いながら成長しており、中国のブランドを購入することについて否定的な意味合いはないと説明した。
従来の自動車メーカーは中国での突然のEVへの移行に不意を突かれた。タイミングが事態をさらに悪化させた。テスラがEV需要を喚起してから数カ月後、中国は新型コロナによる数年にわたるロックダウン(都市封鎖)に突入した。
シノ・オート・インサイツのレ氏によれば、自動車メーカーの幹部は何が起きているのかを自身の目で確認するため中国を毎年訪問することはできなかった。
ソフトウェアや生産速度、バッテリーの技術からサプライチェーン(供給網)の管理にいたるまで、全ての面で自社がどれだけ後れを取っているのかようやく気付いたとき、そこから巻き返すのはほとんど手遅れだった。
BYDの昨年の世界での販売台数は過去最高となる302万台で、プラグインハイブリッド車の販売は前年比で62%増加した。一方、VWのEVやプラグインハイブリッド車の販売は前年比26%増の102万台だった。テスラの販売台数は180万台だった。
チリの港湾から輸入される中国車。中国車はチリ国内の市場の4割を占める/Raul Bravo/AFP/Getty Images
世界の自動車産業の新たな中心
中国のEVメーカーは国内での成功だけで満足していない。
中国メーカーによる自動車の輸出は急増している。中国の昨年の自動車輸出は前年比60%増で400万台を突破した。見方によっては、中国は日本やドイツを抜いて自動車輸出の最大手となった。CPCAによれば、輸出された自動車の4分の1以上がEVとなっている。金融グループUBSの予測によれば、中国メーカーによるEV市場のシェアは30年までに約3分の1を占めて、2倍に拡大する可能性がある。その結果、欧州のメーカーが最も多く市場シェアを奪われることになるという。
欧州と北米の自動車産業にもたらす脅威によって、中国製EVに対する関税の引き上げが立て続けに起きている。しかし、こうした高関税が中国メーカーによる攻勢を押しとどめるのに十分かどうかは分からない。
中国に戻れば、完全に撤退するには大きすぎる市場であり、EVの製造と輸出の世界的な拠点に急成長しつつあるが、自動車メーカーの世界大手は現地での提携に軸足を移しつつある。
同時に中国メーカーも世界市場で存在感を急速に高めている。BYDはタイやハンガリーなどで工場の建設を計画しているほか、独ディーラーのヘディン・エレクトリックを買収し、欧州市場での規模の拡大を目指す。
ダン・インサイツのダンCEOは「世界の自動車産業の新たな中心は中国だ」と述べた。「誰もがまだ折り合いを付けようとしている。ここからどこへ向かうのか。どうやって中国メーカーと競争できるのか」
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本稿はCNNのハンナ・ジアディー記者による分析記事です。